第18話 郷田葵
悲報。私たちの敵である絶猫氏。TS美女だった模様。
いやというか待て。それって女なのか? 男なのか?
「わからん。正直生物学的に言えばどうなっているかさっぱりだ。まさに神秘だな」
「あの、アレがあれば魔法は使えるんですか?」
「そのようだな。はっきり言ってあれは特殊事例だ。気にするだけ無駄だ」
マジか、あれ、私キスされたよね。男にキスされたのか? それとも女にキスされたのか!? どっちにしろ30オーバーのオッサンだよな……うぇぇ!
「なんだ。想像絶する苦悶の表情だぞ」
「いや、何でもないです……ただ、やっぱり強制的な性別変更が目的なんですよね? それってその……」
今の世界には多くの性に悩んでいる人がいる。それこそ、自分の思う性別と身体の性別の一致しないという悩みだ。もし絶猫の目標が性別の反転であればそういう人が増えるんじゃないだろうか。
「トランスジェンダーの問題か。だがそれに関して言えば恐らく問題はない。むしろその問題を解決できる唯一の男だ」
「なんでですか。性別を強制的に変えられるんですよ。普通に混乱するでしょう」
「――奴の性別反転魔法は身体だけじゃない。心も、身体も、それこそ精神的な部分さえすべて反転出来る」
ばかな。そこまで狙って性別転換をしているのか? いや待て。……ずっと疑問に思っていた事。今の話から導きだせる。もし私の想像通りであるなら、郷田さんは――。
「馬鹿者」
そういうと郷田さんは私の頭にスリッパの乗せた。叩くわけじゃなく、ただ乗せるように。
「そうだな。今となっては知っている者は少ないが……お前には話しておこう」
そういうと郷田さんはジャケットの内側から財布を取り出しこちらに1枚のカードを投げた。それは運転免許証だ。そしてそれを見て私は自分の想像があっていたのだと理解した。
郷田葵と書かれた免許証。その横にある顔写真。それは――彫りの深い顔をした渋い
「これは――」
「間違いなく俺だよ。郷田葵。今年48歳、15年前に絶猫と戦い性別を、そして
そうだ。ずっと気になっていた。なぜ魔法使いという特殊な組織に女性がいるのか。なんせ魔法は一般人には記憶に残らない。なら魔法が使えない、それこそ、魔法とは無縁であるはずの女性がなぜ組織の指令という立場にいるのか。
「郷田さんは……その今魔法は?」
「つかえん。俺は絶猫の手によって完全に女へと反転させられた。だから分かるのだ。こうして男であった頃の写真を見ても違和感を感じる。間違いなく男であったはずなのに、男の記憶もあったはずなのに、自分が男であるという事に今では違和感さえ感じる」
そう言いながら自分の手を見て、胸に手を置いている。
「その……戻りたいとか……」
「正直微妙な所だ。組織の事を考えれば戻るべきなんだろうがな。現実問題、奴を屈服させて魔法を使わせないとまず不可能だ。と考えると現実的に可能かは怪しいな」
「あの老いもって言ってましたが、まさか若返っているんですか?」
「そうだ。何を考えているのか分からんが、奴の魔法を受け俺は年々若返っている。今は恐らく28くらいだ。そしてそれは奴も同じだ」
「まさか――」
同じ? つまり絶猫も若返っている?
「そうだ。奴は俺より年上のはず。以前から老いを反転させ若返っているのは知っていたが、まさか自分の性別の方まで手を出しているとは流石に驚きだ」
あれ、待てよ。って事は俺は下手したら50オーバーのおっさん。おやおじいさん? からキスされたのか?
忘れよう。また吐き気がしてきた。
「……さて、まあいい。今はお前の事だ」
視線を上げまっすぐ私を見る郷田さんの顔は少し無理をしているようにも見える。でも今はこれ以上深追いは良そう。
「私ですか?」
「ああ。別に感傷的になってお前に俺の事を話したわけじゃない。桜桃、いや守。お前は恐らく絶猫に対抗し得る唯一の魔法使いの可能性がある、と俺は見ている」
私が? あの世の理さえ無視していそうな人に対抗だなんて。
「まずお前の魔法だ。もう自分でも気づいているだろう」
「……はい。私の魔法は――多分元の自分に戻す魔法っていうか、そんな感じの魔法だと思います」
「恐らく少し違う。報告を聞いた限りだが、それは正確ではない。俺が見るに、お前の根源魔法は――時間の戻す魔法。そうだな、いわゆる時間逆行とも言える力だ」
時間を戻す魔法? そんなたいそうな魔法なのか。
「まず確認された事実だけあげよう。受けた傷が回復する。それは身体の傷だけじゃない、切れた服などもすべて元に戻る。そうだな?」
「はい。それは間違いないです。だからそういう回復みたいな魔法じゃなくて、戻る魔法なのかなって思ったんです」
「そうだな。戻るというのは近い。だがそれ以外にもう2つあるだろう」
2つ? 身体の傷と服以外に何かあったかな。
「お前の異常な魔力量と異常なスタミナ。恐らく、お前の魔力量は別に膨大というわけではない。そうじゃなかった。お前は減った魔力が瞬時に根源魔法によって全快状態へ逆行している。スタミナも同じだ。だからお前は常に全力で戦える。なんせお前の時間は進んでいない。進むと同時に逆行しているからだ」
そうか。確かに別に体力なんてある方じゃない。ちょっと前は駅まで少し走るだけで簡単に脇腹が痛くなる。だというのに今はどうだろう。あれだけ無茶な戦いをしても一切疲れていない。息切れだってしてなかったなんてよく考えれば異常だ。
「いいか、守。お前の力が成長し、自分以外の時間を戻せるようになれば――」
そうか!
「絶猫によって性別を変えられた人を元に戻す事ができる?」
「それだけじゃない。怪我の治療なんかも容易に行えるはず。つまりお前がいるだけで色々な状況が大きく変わる。――とはいえ今は無理をする時じゃない。まずは自分の魔法を使いこなせるようになれ」
「――はい。わかりました」
正直自分にそんな実力があるなんて思えない。でも――今はゆっくりと、やれることをやろう。
「さて、しばらくお前1人で任務に当たれ。正直実戦で魔法を磨くのが一番だからな」
「――は?」
「桑原は肋骨など含め複数個所骨折、打撲、火傷も複数あり、全治2週間。今はベッドで回天をするように指示を出している。通常状態と比べ回天状態であれば傷の治癒も早いからな。だがしばらく動けんのは事実だ。剣崎ははっきり言って戦闘に向かん。で、あればいい機会だ。守を実戦へ出し魔法の成長を促す。強くなれ、期待してるぞ。はっはっは、守ならラーメンが恋人だから絶猫に続く最強の魔法使いになれるだろう」
そういって私の肩を笑いながら叩く郷田さん。
その笑顔が眩しい。
だが1つ言いたい。
ラーメンが恋人ってなんや! 私だって普通に恋愛してさっさと卒業したいんだぞ!
くそ、前言撤回だ。恋人を作ってこんな組織早く抜けてやる!!!
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