第17話 恐るべき計画

 初めての任務が終わった。成功だったのか、失敗だったのかわからない。作戦自体は失敗だったんだと思う。結局、私たちが戦ったあの2人は逃がしてしまった。絶猫という謎の女性の出現により、私たちは破れ、せっかく倒した2人は連れ去られてしまったようだ。とはいえあの廃ビル周辺の包囲は既に完了しており、一般市民に害が及ばなかったという点ではよかったのかもしれない。



 逆に成功だと言える点があるとすれば1つだけある。




 それは私の魔法がどのようなものか理解できたこと。あの戦いの日、私は何度も怪我をした。それこそ普通なら重傷といっていいレベルの怪我を何度も受け、すぐに回復したのだ。この魔法がなければ私は今頃墓の下か、病院のベッドの上だったと思うとぞっとする。




 あの絶猫が消えた後、私は周囲を捜索した。まず桑原さんだが2Fの廊下の壁際で倒れているのを発見。腹部に攻撃を受けたようで口から出血をしていた。動かすのは危険だと考え、その場で声を掛けてから私はすぐに指令たちを探した。

 2Fの非常階段から飛び降り、トレーラーがあった場所へ移動するとそこには何もない。必死に周囲を探していたらようやく通信が入ったのだ。



 どうやら郷田たちを乗せたトレーラーはここか数キロ先の道にいきなり移動していたそうだ。一瞬過ぎて何もわからなかったと剣崎さんも言っていた。その後は郷田さんの指示に従い、救急車を手配し桑原さんを乗せその場を後にした。

 聞いた話だと、人造魔法使いの方々が現場に残り、警察と連携を取ってビルの破壊跡について隠蔽をするらしい。




 そして非常に濃密ともいえる最初の仕事が終わった翌日。





「さて、色々話す事が多い。とりあえず、だ。桜桃、よくやった。はっきり言って今回の任務は成りたての魔法使いには荷が重い仕事だっただろう」

「……そうですね。流石にハイレベル過ぎた気はします」



 なんていうか、あれだ。昔のゲームでちょっと寄り道したら今より格上の敵とエンカウントした感じというか。スライムばっかり出るダンジョンに何故かドラゴンがいたような感じというか。結局生き残ったのは運が良かったって事なのかな。



「だろうな。とはいえ今の現状の危険性も理解できただろう。お前が出会ったのが通称DTと呼ばれる魔法使い組織だ。所属人数は不明。だが分かっているだけでも数十人は確認されている」



 ちょっと待て。うちの東京支部より多くないか。



「多いな。とはいえ活動拠点はバラバラでやつらも別に都内で積極的に活動しているわけじゃない。奴らの目的は2つ。1つは魔法使いの確保と勧誘」



 指を立てながら郷田さんが説明を始めた。言っている意味はわかる。今回でよくわかったけど、天然魔法使いはかなり強い。近寄れば勝てる可能性はあるのかもしれないけど、そもそも近寄るのがかなり大変だ。


「2つめ。これが奴らDTの活動理念とも言える」

「そういうのあるんですね」

「ああ。ただ魔法を使いテロ行為を繰り返す連中じゃない。とはいえこの活動理念が問題なのだがな」


 そう話す郷田さんの顔は険しい。眉間に皺をよせ、拳を強く握っている。そんなにやばい計画なのか。考えてみればそうだ。魔法使いを積極的に集め活動しているくらいだ。国家転覆、いやもっと壮大な計画かもしれない。それこそ全人類を魔法使いにして魔法使いの楽園にするかとかそういう感じのあれだ。

 でも後天的に魔法を与えるなんて出来るんだろうか。いや出来れば国がやってるか。となるとまた何か想像もつかないような恐ろしい計画が――。




「奴らの活動理念。つまり目指すべき目標みたいなもんだな。それは――」




 口の中に溜まった唾液を飲み込む。額から汗が流れ始め心臓が鼓動する。一体どんな恐ろしい計画が行われようとしているんだ。






「全人類TS計画だ」







 は?



「は?」

「五月蠅い。黙って聞け」

「あいたぁ!?」



 スリッパで叩かれた。おかしい、今の私なら躱せると思ったんだが?



「より正確にいえば、地球上すべての人類の性別を反転させ、男女互いの気持ちを相互理解させようとする計画らしい」

「んなばかな」

「だから黙って聞け」



 上からくる。気をつけろ。そう言わんばかりに頭部へ襲い掛かるスリッパを警戒していると顎を打ち抜かれた。


 

「ばかなぁ!?」



 次は下からアッパー気味のスリッパ攻撃。くそ、進化してるのか?



 


「真面目に聞け。ニュースとかで聞いたことないか? 性転換症候群という言葉を」

「……あ」




 聞いたことがある。というかニュースやSNSでも有名な騒ぎだ。ある日突然性別が入れ替わった人たち。彼ら、彼女らが言うには気が付いたら違う性別に変わっていたという。病院での検査など行っているが、原因不明。最初からそういう性別だったのではとしか思えないという事らしい。



「現在我々が把握しているだけで被害者は数万人に及ぶ。そしてそのほとんどが――トランスジェンダーたちだ」

「――それは」

「ああ。デリケートな問題だ。そして厄介なのは被害者である本人はこの病気にかかり喜んでいる事だ。一応表向きは謎の奇病として発表しているが、実際は違う。これこそ、絶猫の根源魔法”反転”だ」

 

 


 反転? あれでも……あの時戦闘を思い出すと、絶猫の魔法は瞬間移動みたいなもんかと思ってたけど違ったのか。




「奴の魔法の幅は恐ろしく広い。瞬間移動のような方法は、位置の反転だ。そして性別自体を変えているのも同様だ。つまり――」

「性別の”反転”?」

「そうだ。馬鹿げているように聞こえるが、そういうありえない事象を引き起こしている。俺の知る限り現代最強の魔法使いだ」




 位置の反転、性別の反転。っていうか待て、待て。反転ってそこまで応用が効くものなのか?



「いくら何でも無茶苦茶過ぎませんか?」

「だからこそ最強の魔法使いと言われている。まさに化け物だよ。恐らく俺達のトレーラーがいきなり別の場所に移動したのも、俺達のいる空間とまったく別の場所と反転させたんだろう。つまり長距離移動も可能、近接戦の短距離移動も可能。それに加え、化け物染みた魔力量も相まって手が付けられん」



 そういって郷田さんは手で髪を掻き始めた。


「とはいえ性別反転が戦闘で使われることはほぼない。性別反転は時間が掛かるはずだ。だがそれを抜きにしても勝てるような奴でもない。幸いなのは奴自身が前線に出る事は殆どない事くらいだ」

「……あのでも絶猫って女にしか見えないんですがあれは――」



 そうだ。どうみても20代前半くらいの女性だ。なぜ女性が魔法を使ってる? 私がそう聞くと郷田さんは少し虚を突かれたような顔をした。



「女? どういう事だ。奴は男だぞ」

「は? へ? でもどう見ても若い女性でしたよ」




 私がそういうと郷田さんは口に手を当て、顔を伏せた。



「……まさか。そこまでやったのか」

「あの……」




 なんだかぼそぼそと呟いているが何のことかさっぱり分からない。




「いやすまない。そうだな。絶猫がこうして表に出てきたのは実は数年ぶりなんだ。ずっと裏に潜伏し暗躍していた。だから俺が最後に奴を見かけたのは数年前なんだ。まさか、そこまでやっていたとは」

「だから何です。教えて下さいよ」

「そう、だな。これは俺の想像だ。だがほぼ間違いない。恐らく奴は自分の身体の一部、恐らく上半身、もしくは男性器以外をすべて反転させ女に変わったのだろう」




 は? つまり、ち〇こが生えた女って事!? なんじゃそりゃぁあ!?




 


 

 

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