第13話 魔法使いの戦い
2Fへ上がると予想通りマネキンが強襲してきた。
「私が前にでます。ビルダーさんは敵の魔法使いが出たら」
「承知した」
よく見ろ。マネキンの動きは郷田さんより少し遅い程度。ちゃんと見れば十分躱せる。拳を握りマネキンへ叩きつける。数が多くてもこの程度なら!
「ッ!」
廊下の向こうから男が現れる。ヨレヨレのジャケットに無精ひげの男。ニヤニヤと笑いながらこちらを見ている。
「お前が新人か。初めて見る顔だ。んでどんな魔法なんだ」
両手を広げながらこちらへ話しかける男。なんか不気味だ。あれが野良魔法使い。それに魔法にかなり慣れている雰囲気だ。つまり……。
「クロマか」
「クロマ? ああ。そういえばそんな呼び方してんだっけ。まあいいや、ほれ遊んでやるよ」
そういうと男は何かを投げた。強化された視力でそれはよく見える。間違いない。あれは……プラモ?
何かのロボットのプラモだ。それが放物線を描きこちらへ落ちて……。
「ッ! メンマァ! 躱せッ!」
桑原さんの声で私は咄嗟にしゃがんだ。すると私の顔のあった場所へ赤い光が過ぎ去り、後ろで爆発が音が聞こえた。
あの男が投げたプラモが後ろからバーナーを噴射しまるで本物の兵器のように射撃をしてきた? なら今のはミサイルか!? 嘘だろ!?
「おおおおおッ!」
「ビルダーさん!」
桑原さんが雄叫びを上げ、男へ接近する。そして拳で壁を削り、そのまま瓦礫を前へ飛ばした。瓦礫が散弾のように飛ぶ。するとあの男は射線を切るように近くの部屋へ逃げた。
『俺だ、簡潔でいい。報告をしろ』
「マネキン、プラモが自由に動いてる! プラモに関しては本物みたいに武装して攻撃までしてきた!」
桑原さんの後を追おうと走ると別の部屋からまたマネキンが迫ってくる。くそ、どんだけ魔力があんだ!?
『いいか、恐らくだが魔力充電型だ。前にそういう魔法使いがいた! 事前に魔力を物へ込める事で発動するタイプの魔法使いだ。事前に魔力を仕込んでいたんだろう。この手のタイプは事前準備次第で戦力が大きく変わる』
「弱点とか無いんですか!?」
そんなのもう軍隊を持ってるみたいなもんじゃないか。しかもただ動かすだけじゃない。まるで本物みたいに動いて攻撃してくる!
『前にも教えただろう! 接近戦に持ち込め、この手のタイプは大体近寄られたくないはずだ!』
「了解!」
迫るマネキンを破壊し桑原さんを追う。部屋に入ると誰もいない。だが災害があったのかと言いたくなるほど部屋の中は破壊されていた。まるで戦場のような跡。これが魔法使い同士の戦いか。
「音からして向こうか」
部屋の中にある破壊された扉からさらに奥へ向かう。そこには小さな戦車とヘリコプターのプラモ、そしてまたロボットのプラモがいる。
「ぬんッ!」
桑原さんが放置され錆びたロッカーを片手で掴みそれを投げる。それを受け止めるマネキンたち。さらに脇からヘリが突っ込んできた。プロペラの音と一緒にミサイルの発射音が聞こえ、煙を吐きながら超小型のミサイルが迫る。
「その程度のサイズなら威力も小さいであろう!」
また近くの備品を掴みミサイルへ向かって投げる。直撃し爆発する。私はその隙に桑原さんの横から姿勢を低くし煙を抜けて男の方へ接近した。
「はっはっは! 生きのいい新人じゃねぇか!」
また手に持った何かを宙に投げる。今度は……西洋鎧を着た青い髪の女の子。これはアニメのフィギュア? おい、マジかよ! これも動くのか!?
「ファイナルデッドバスター♪」
かわいらしい声と共に持っていた剣から光が迫る。私は全身に力を入れて魔力を纏う。腕をクロスさせ防御した場所に光が当たり爆発した。周囲の窓が割れ、壁や床にヒビが入る。
痛い。まるで熱湯をかけられたみたいだ。っていうかおかしいだろ。ヘリとかロボットはまだ理解できる。そういう武器があって再現されたのかなって。でもアニメのフィギュアは違う。原作は知らないけど、多分アニメで使われた技みたいを再現したのか?
「もっかいいくよ! ファイナルデッドバスター♪」
小さな騎士が剣を振り光が迸る。恐らくマネキンはダミーだ。こちらが魔法能力を誤認するための。何かを動かす魔法じゃない。動かすものが出来るであろう事、即ちオリジナルの再現を起こす魔法。身体に武器を仕込んだマネキンがいる時点でもう少し考えるべきだった。
軍用ヘリならミサリルくらい撃てる。戦車なら砲撃くらい出来る。アニメのフィギュアならアニメの技くらい撃てる。そんな無茶苦茶な魔法。
光と共に熱が迫る。私でも痛みを感じる魔法。でもそれだけだ。恐らく再現出来る事にも限度はあるず。なら我慢して進め!
爆発による熱風が拡散する。舞い上がる火の粉と煙を割いて私は前へ出た。
「この程度で!」
「はぁ? 2発喰らって無傷だと! なんでちっとも魔力が減ってねぇんだ!?」
「そういうお前こそ充電切れか? そのフィギュアが落ちていくぞ」
あのなんちゃらバスターを2回撃って魔力切れ。ということはやはり郷田さんの言っていた通り籠めた魔力が切れたら終わりって事か。チャンスだ、ここまで接近出来れば一撃入れられる。加減は考えるな、全力で行け!
拳を握り足に力を入れ、浅霧さんと戦った時のように、拳を叩きこもうとした時。
「隙だらけってねぇ!」
「なッ!」
私の右側にフードを被った男がいる。さっきまでいなかったはず。一体いつどうやって! いやそれよりも、何かが私の脇腹に当たっている。極限まで集中力を高めたため、周囲がスローモーションに見える。その中で見えた。新手の男の右手に何かが握られている。それが私の脇腹に当たっている。なんだ、いやな予感がする。
「逝っちまいなぁあああッ!」
「何をッ!」
――脇腹から腹にかけて激痛が走る。
目の前が赤く染まり、視界が明滅する。まるで熱した鉄の棒が身体の中から飛び出したように痛みと熱が身体を支配した。何が起きたのかわからない。だけど間違いなく私の腹に何か異物が出現し、身体の中の内臓が切れた感覚が確かにある。
「おい、世良! やり過ぎた! 殺す気か!」
「何言ってんですかぁ。殺しをするために猫さんの所から離れたんでしょ?」
「ちげぇよ。確かにあの人のやり方は温いから離れたが、殺しはまずい。あの人が粛清に――ッ!」
突然身体の痛みは過ぎ去った。何が起きたかわからない。でもなぜか二人は私を見て呆けている。なら今の内に――!
「はああああああッ!」
「ッくそ!」
私の拳は空を切り、世良と呼ばれた男は消えた。
さっきの激痛で一歩遅れ、そのせいで攻撃は外れた。だが見えたぞ。あのパーカーの男、壁の中へ消えた。いやすり抜けたのか! そういう魔法。ならさっきの攻撃はなんだ?
「化け物か、てめぇ! 腹を切り裂かれてなんで……。いや、傷がない? どうなって……」
「何を言って――」
「メンマ! さっきのパーカーの男を追ってくれ。奴は吾輩が!」
後ろから桑原さんの声が聞こえ、私は目の前の男を睨み、壁へと消えた男を追うため逃げた方向の壁を破壊しその背中を追いかけた。
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