第12話 初戦闘

 壁や床はヒビが入り、いつ崩れるか怪しい雰囲気を醸し出している。心臓の鼓動を抑えるように胸を掴み、前方を歩く桑原さんの後ろを進みビルの中へ入った。



「ぬ」

「あれは……」




 一見普通の廃ビルだ。だが普通でないものが早速視界に入る。




「あれって」

「ふむ。マネキン?」



 そう。マネキンだ。男性型のマネキンと女性型のマネキンが数十体近く廊下に並んでいる。ここは何のビルなんだ。マネキンがあるって事は何か服を売るテナントが入っていた? それにしては商業ビルのような形をしていない。どちらかというとオフィスビルに近い印象がある。



「メンマ。いつでも回天を使えるように準備を」

「え、はい」



 回天か。なら最初から使おう。どうやら私は魔力量は多いようだし、念のためだ。歩きながら小声で回天を呟く。全身に魔力が溢れ、力が漲ってくる。そして――ようやくこのビルの違和感に気づいた。




「ッ! ビルダーさん! 回天をッ!」




 私がそう叫ぶと同時に並んでいた。まるで人間のように動きこちらへ迫ってくる。そして桑原さんも回天を行い、私より前に出た。



「ふん!」


 太い腕を伸ばしそのままラリアットのように迫って来たマネキンを破壊した。だがまだだ。マネキンは大量にいる。それをビルダーさんがすべて一撃で破壊している。



「すごい!」

「軟弱なマネキン如きで吾輩を止められると思うなよ!」

『おい、中の様子はどうなっている!』



 通信だ。郷田さんの声か。



「マネキンです! どういう訳かマネキンに魔力が宿っています!」

『くッそういう根源魔法の使い手か。だがビルに入って早々に出迎えだと? 我々の事を誘っていたか!』

「どういう事です!」

『気を付けろ。何かの罠かもしれん!』




 罠!? なんだ、わざと私たちをここへ呼んだって事か?



「ビルダーさん、今の通信――」

「聞いておる。だがここで止まるわけにも行くまい」



 おもちゃを壊すように迫りくる人形を破壊している桑原さん。私も前に出るべきだ、そう分かっていても一歩踏み出せないでいる。

 情けない。まだビビっている。でも桑原さんはかなり強い。狭い屋内だから根源魔法は使いずらそうだけどこれなら後は私が足を引っ張らなければ……。




 

 

 そう考えた時だ。







 目の前に、赤い液体が舞っている。







 時が止まったかのように思えた。桑原さんの血液が破裂したかのように宙を舞っている。一体何が起きた?






「あ――」







 いつのまにかマネキンの腕から鎌のような刃が生えている。そしてまた別の刃が桑原さんへ迫っている。


 桑原さんが苦悶の声を上げ、凶刃が迫り、それを桑原さんは左腕で掴む。血が流れるが、それをものともせず足でマネキンを破壊する。だが同じ武器を持ったマネキンが更にどこからともなく現れた。






 私は馬鹿だ。理由を付けて全部桑原さんに任せようとしていた。逃げようとしていた。もう私は一般人じゃないのに。桑原さんは何も言わず私を守ってくれている。……私はこのままでいいのか。






 いい訳が、ない!




「ああああああああッ!!」




 

 身体が爆発するような感覚。床を砕き、一瞬でマネキンの近くへ移動。そのままただがむしゃらに握った拳をマネキンに叩きつける。吹き飛んだマネキンが砕け、数m飛び壁にぶつかる。別のマネキンの腕の刃が迫り、私は別のマネキンを掴み、そのまま壁へ投げつけそのまま拳を叩きこんだ。



「うらぁあああッ!!」



 マネキンごと壁を破壊する。瓦礫が飛び、粉塵が舞った。気が付くと大量にいたマネキンが消えている。逃げたのか?



「はぁ。はぁ。ビルダーさん怪我は……」

「メンマのお陰でかすり傷だ。しかし油断した。吾輩は魔力量が少ないから長時間の回天が出来ぬのだ。だからどうしても節約しよう魔力をケチってしまってな」



 そういえばあんまり回天を維持できないって言ってたっけ。それなら確かに節約もしたくなるか。



「魔力か。ねぇビルダーさん。ここにいる魔法使いの力って2人の内1人はマネキンを動かしてる力だよね」

「それはそうであろう」

「あれだけのマネキンを、しかもあんな精度で動かすなんて魔力足りるのかな」

「ふむ」


 そうだ。平均的な魔力量なんて私には分からない。でも、こんな数のマネキンを動かすなんて相当な魔力量なんじゃないか。




「博士。相手ってまだ3階?」

『ええ。動いておりませんぞ。それよりも大丈夫でしたか? 随分暴れていたようでしたが』

「私は大丈夫です。ただビルダーさんが結構な怪我を……」

「吾輩は問題ありません。この程度の刃では吾輩の筋肉は貫けない」



 そういって何かポーズを取っている。ただ血が流れるのであまり力を入れない方がいいと思いますよ。



『……ここまでの状況を加味すると何か狙いがあると考えていい。下手するといこちらの会話も何かの手段で傍受しているかもしれん。2人とも警戒して進め』

「了解です」

「わかりました」




 周囲のマネキンはもう全部破壊されている。だけど上にまだある可能性がある。




「博士。2階にマネキンってあるかな」

『メンマ殿のご指摘通りです。階段を上ってすぐの場所に10体。廊下に10体。さらに各部屋の中にも10体以上おります』



 どんだけマネキンいるんだよ。私たちを待ち構えているようにマネキンが並んでいる。まるで待ち構えていたかのように。



「ビルダーさん。これって」

「ええ。確実に罠、であろう。どういう意味があるのか分からんが、我らを待ち構えたいたのは確実だ」




 本当にこれ初任務かな?



 









「……唐沢さん。釣られたっぽい。こっからどうすんの?」



 パーカーを着た男がスマホに視線を落としながらそう言うと、コンビニ弁当を食べていたもう一人の男が箸を止めて顔を上げた。



「ん、思ったより早かったな。相手は人魔?」

「しらね。でもスキンヘッドじゃないよ」

「なら天魔の方か。だったら少し気合いれっぞ。相手は誰だ? 確かウッズの野郎は県外にいるよな。なら例の新人辺りか」



 

 唐沢は髭を撫でながら笑みを浮かべた。




「せっちゃん。そっちの準備は?」

「せっちゃんって呼び方いい加減やめろって。こっちもいつでも大丈夫だよ。でもいいんかよ? 同志の指示を無視しちまってさ」

「退屈だから抜けたんだろうが」

「まぁそうだけどね」


 そう言いながら清良はスマホの画面を唐沢に見せる。そこには1階に設置していたマネキンを破壊している発光した二人組が映っている。



「んー誰だ? 1人はビルダーとかいう筋肉野郎だろ? もう1人誰だ」

「さあね。とりあえず行くんだろ」

「ああ。……でも妙だ。ビルダーの方はともかく、もう1人の天魔、ずっと光ってやがるぞ」

「まじ? 回天しっぱなしって事だよね? ……まぁ見に行けば分かるっしょ」



 

 

 

 

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