第10話 コードネーム

 模擬戦の翌日、召集が入った。


 


「あの。今回の召集って……」

「はい。野良魔法使いが出たのでしょうな」

「がははは。問題は相手の魔法使いがどの程度の強さかという所であろう」

 


 私たち3人は郷田さんから呼ばれ現地へ向かっていた。まさかの現地集合だとは思いもしなかった。てっきり車か何かでみんなで移動とかかと思ったんだけどな。



「二人は実戦経験ってあるんです?」

「拙者は2度程。桑原殿は確か4,5回ほどでしたか?」

「そうであるな。もっともシロマばかりであるが」



 ん、知らない用語がでたぞ。



「桑原さん、何ですシロマって?」

「素人魔法使いの略ですね。長いのでよく現場ではシロマと呼ばれております。逆に玄人魔法使いはクロマといいます」

「まあ安心してよい。早々クロマは出てこない。というよりこういった計画性がない出現は大体シロマの場合が多いのだ」



 つまり、今回もシロマの可能性が高いって事か。



「ええ。浅霧殿もおりますし、まあ余裕じゃないですか」

「え゛……」




 あれ、浅霧さんって昨日私と模擬戦したばっかりだよね。結構怪我してたような気がするんだけど、もう回復したのかな。あれか、回復魔法的なものもあったりするのかね。


 電車を乗り継ぎ、集合場所として指定された千代田区1丁目へ到着した。一見すると何もない。普通の日常的な街並みのようだ。スマホに添付された場所を見ながら歩いているとトレーラーのような大きな車が1台止まっている。もしかしてあれか。



「あれですかね」

「ええ。あれですな。さて行きましょう」



 近くまで行くとスーツ姿の郷田さんがタブレットを見ていたが、こちらに気づいたようで顔をあげた。



「来たか。中へ入れ」




 案内されトレーラーの中行くといくつものモニター、機材、そして武器が並んでいる。中にいるスタッフは全員スキンヘッドにスーツ姿というかなり厳つい人達ばかりだ。恐らく全員人造魔法使いの人たちなんだと思う。



「まずは着替えろ。桜桃のはこれだ」



 そういって渡された大き目のケースを受け取り開けてみると黒いスーツが入っている。まさかお揃いなんだろうか。




「ユニフォームみたいなものですよ。一応拙者たちも持っております。さっそく着替えましょう」

「吾輩は少々きついので窮屈なんですがな」




 手触りはいい。多分結構高いやつなんだろう。中を改めてみると黒いジャケットにパンツ、それだけじゃなくてシャツやネクタイまで黒い。っていうか全部黒い。




「なんでこんなに黒ばっかりなんですか?」



 あれか。かっこいいからかな。



「ああ。確か汚れが目立たないからという理由だったはずですな」

「――そうっすか」




 え、しょうもねぇ。




 着替えると私の体形にピッタリだった。着心地はいい。肩や腕を回してみるが引っ張られる感じもないし以外に動きやすそうだ。



「――よし。揃ったな」

「ん、お待ちを。ウッズと雷号がおりませんな」



 ん、待て待て。



「桑原さん。誰です、その人達」

「マジカルバスターズ東京に所属している吾輩ら以外の魔法使いですな」


 ああ。そういえば私たち3人以外にも2人いるって話だったっけ。確かにいないな。っていうかウッズって海外の人なのか?



「ウッズは大阪支部オクトールへ出張中。雷号は非戦闘員だぞ、ここへはこれん」

「雷号殿は仕方ないにしても、ウッズ殿がいないのですか?」



 両手で頭を抱えている剣崎さんと少々暗い顔をしている郷田さん。しかし気になる。確か天然魔法使いってこういう時のためにスカウトしてるんじゃないのかな。



「あの。非戦闘員ってどういう意味です?」

「雷号は、別の形で貢献しているのだ。奴の魔法で我らだけではなく、フリージア全体のエネルギーを賄っているといっても過言ではない」

「は? マジですか」



 確かに地下にあんな施設があって電気とか色々どうしてんだろって疑問はあったけど、それをまかなっている? どんな魔法だ?



「静粛に! とにかく今回の戦力はここにいる面子だけだ」

「あれ、ちょっとお待ちを! 浅霧殿は!?」

「浅霧はそこの桜桃との模擬戦で全治一ヶ月の重症だ。流石に今回は不参加だ」

「は? え、ちょ、桜桃殿ぉお!? どういう事でござる!?」

 

 

 武士みたいになっているぞ。落ち着いて欲しい。ってちょっと待て。



「え。そんな重傷なんですか!? てっきりこう回復魔法的なサムシングで治ったりとか!」

「馬鹿者。そんな都合のいい魔法使いはいない。これに関しては俺にも責任はある。だが事態は待ってくれない。とにかく全力でサポートする」

「ほ、他の人造魔法使いの方とか……」



 確か人造魔法使いは結構いるはずだよな。その中に浅霧さんみたいな人いないのか。




「彼らは常に裏の業務を行っている。こうした魔法の被害に対する業務は一部の者しか出来ない。だからこうした実働隊はそれほど多くない。一応連れて来ているが相手が読めん」

「読めんっていいますけど、シロマの可能性があるんですよね?」

「そうだな。だが――今回監視カメラに映った発光した人影は2人と報告が上がっている。つまり――敵は2人いる」



 ……2人。その言葉を聞いて剣崎さんも桑原さんも重い顔をした。私にはまだその意味が理解できていない。でも分かった事はある。恐らく想像していたより面倒な相手の可能性が高いと言う事なんだと思う。




「2人だと何かあるんですか……?」




 重い空気の中で私は声を出した。この状況、どう考えても私だけ置いてかれている。そりゃ魔法使いになってまだ日が浅い。分からない事だっていっぱいある。だから聞かなきゃいけない。聞くは何とかってやつだ。




「通称シロマと呼ばれる魔法使いは国の検診から逃れ、国の管理下から外れた状態で魔法を得た連中だ。そして多くは自身の魔法に不慣れであり、外で魔法を使おうものならフリージアの監視網により場所を特定、今回の様に我らが出動する。桜桃考えてもみろ。今説明した状況下で2人組で行動する魔法使いはどういう連中だと思う?」

「どうって……。偶々他の魔法使いと出会って意気投合して一緒に行動しているとかですか」



 私がそういうと郷田さんは首を横に振った。



「そうだな。そういう可能性も0ではないだろう。だが今までの経験上それはない。なんせ考えてもみろ。どうやって相手が魔法使いだと確認する。魔力を練らなければ普通は魔法使いだと確認する方法はない。だから桜桃が言った可能性は、幼い頃から常に一緒におり、且つ相手の性事情まで把握していなければ無理だ。そんな可能性殆どない。だから……必然もう一つの可能性に行きつく」



 郷田さんは眉間に深い皺を刻みながら続けた。



「桜桃にはまだ説明していなかったな。日本にはいくつか魔法使いの組織がある。1つは我々フリージアだ。日本全国に支部があり、魔法被害に備え活動している。そしてもう1つ……野良の魔法使いをまとめている組織があってな」



 野良魔法使いの組織。そうだ、前に聞いた。




「DT?」

「そうだ。剣崎辺りから聞いたか。無論DTと決まったわけじゃない。野良魔法使いの組織の中で一番巨大な勢力がDTというだけだ。だから今回もどこかの組織の者の可能性が高い」

「DTの可能性はないんですか?」

「DTの連中は狡猾だ。不用意に監視カメラの映る場所で魔法なんて使わない。何か目的があるにせよ、別組織の可能性の方が高いかもしれん」



 結局どこの誰かまでは分からないって事か。





「考えても仕方ない。ターゲットはこの倒壊予定の廃ビルの中。警戒して潜入する。――とはいえまずやる事がある。いいか、桜桃。お前は今日からコードネーム、メンマを名乗れ」




「はい。わかりまし――は?」



 


 

 

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