第6話 魔力は股間から出る
「そうだな。ついでにもう少し説明しよう。天然魔法使いと人造魔法使いの大きな違いについてだ」
「確か根本的な魔力量が違うって話でしたよね」
「忘れてるぞ、もう1つある、覚えてるか?」
魔力量が違うって話と……アレなんだっけ。
「はぁ人造魔法使いは根源魔法が使えないんだ」
「あ、ああ。そういえば言ってましたね。どうして使えないんです?」
「――詳しくは分からない。だが一律してそうなんだ。人造魔法使い達に根源魔法は宿らない」
それは確かに不思議な話だ。そもそも天然と人造の違いって自分の意思で童貞を貫いたか、自然と童貞になっているかの違いなんだよな。過程は違うとはいえ結果がこんなに変わるってのどういう理由なんだろう。
「色々研究は続けている。だが過去も現在も、人造魔法使い達には根源魔法は宿らなかった。そして、人造魔法使いが天然魔法使いに太刀打ちできない一番の理由でもある」
「そんなに強力なんですか。その根源魔法って」
「剣崎の透視だけ聞くとあまりそう思うのも無理はない。だが、そうだな。分かりやすく言えば……桜桃、お前はゲームをやるか?」
「え? ええ。結構やりますよ」
「そうか。なら分かりやすく言うと、回天状態は常にMPを消費するが、根源魔法の消費MPは殆どない。そういえば分かるか」
「は!? え、ちょっと待ってください! 今の聞いた話だと根源魔法ってあれじゃないんですか!? 魔法使いの必殺技っていうか、奥義っていうか」
「似たような感じだな。しかし事実根源魔法の使用は殆ど魔力を消費しない。つまり使いたい放題だ。とはいえ使用条件もある。それは身体に魔力を纏うこと。つまり回天中の時にしか使えない」
なんじゃそりゃ。条件ありとはいえ必殺技ブッパし放題って事だよな。やばすぎだろ。
「だから余計手が付けられないんだ。殆ど消費無しで魔法を使える。するとどうなるか、多くの野良魔法使いは根源魔法を乱発するだろ」
「まあ、消費がそんなにないなら使いまくると思います」
「そうだ。だからこそ、多くの野良魔法使いは根本的な部分は疎かな場合が多い。自分の魔力を鍛えず、回天状態の質を上げようともせず、ただ魔法だけを乱発する。だから回天状態で近接戦が出来るようになった方が圧倒できる可能性が跳ね上がるというわけだ。まぁ普通の野良魔法使いは同じ魔法使いと戦うことを想定してないからな」
「なるほど。あれちょっと待ってください。私って天然魔法使いですよね?」
「そうだな」
「なら私にもあるんですよね? 根源魔法」
「当然あるだろうな」
「どうやって使うんです?」
「ん……分からないのか?」
「え?」
いや、分かるわけないだろ!?
「む、おかしいな。大体はこの話を聞くと自然とどういう根源魔法を身に付けているのか自然と理解するんだが……」
「いやいや、わかりませんよ!」
「大体は魔力が満ちている状況であれば自然と理解できるはずなんだ。赤ん坊が誰かに学ばずとも言葉を話し歩けるようになるのと一緒でだ」
「いや、全然わからないんですが……」
「ますます妙な奴だな。まあその内使えるようになるだろ。今はさっきの訓練を続けるぞ」
「えぇ!?」
日が落ち、私は自宅へと戻っていた。荷物はなく、最低限のベッドがあるだけ。PCがほしい。ラーメン食べたい。結局あの後、ひたすら殴られ続け、最後の方でようやく避けられるようになって解放された。
「お腹減った」
そう零した時、ドアがノックされた。
「はい?」
「桜桃殿。食事ですぞ」
「お、おお!!」
神か! なんていいタイミング!
「すみません。手伝えばよかったです」
「いえいえ。これは拙者の趣味ですので気になさらず。リビングで待っております」
「はい、すぐ行きます」
剣崎さん。いい人だ。透視能力を持っていると言われた時、流石に変態なのかと思ってしまったがだめだな。きっと剣崎さんも望んで透視能力を手に入れたわけじゃないんだろう。
部屋着に着替え、自室を出てリビングへ急いだ。非常にいい匂いがする。これはから揚げだな、間違いない。
「いい匂いですね! あれ……」
リビングには既に剣崎さんと今日桑原さんがいた。
それはいい。なんだアレは。
「お、来ましたな。ではさっそく食べましょう。そういえば桑原殿挨拶はまだでしょう。彼が新しい住人の桜桃殿ですぞ」
「おお、そうか。吾輩の名前は桑原瑞樹だ。桜桃、よろしくな」
タンクトップでスキンヘッドの桑原さんがはち切れんばかりの筋肉を見せながら笑顔を向けてくる。
「では食べましょうか。頂きます」
「うむ! 頂こう」
「……い、頂きます」
気になる。テーブルを囲むように座り、私たちは食事を取り始めた。私と剣崎さんの前にあるのはから揚げとみそ汁、サラダにご飯というスタンダードなメニューだ。そして桑原さんは鶏肉とブロッコリーにプロテインがテーブルに置いてある。
「あ、あの……」
「おや? ああ。桑原殿は気にしないでくだされ。基本的にこの方のご飯は筋肉のためであって楽しむものではないのですよ」
「はっはっは! 味は二の次だ。やはりたんぱく質は取らんとな!」
違う、そうじゃない。私が気に合っているのは、そっちじゃない。
「あ、あの。こちらは……」
私はびくびくしながらもう一つのお皿へ視線を向けた。そこには。
アニメのフィギュアと、その前に小さなご飯が置かれていた。
「ああ。花蓮ちゃんの方は気にしないでくだされ。ローテーションで一緒に食事を取っているだけなので、どうぞ気になさらず」
「はっはっは! 桜桃も流石に戸惑うか。まあ馴れるさ、気にするな」
「え、ええ」
やっぱ変な人かもしれない。
「そういえば今日はどこまで出来たのです?」
一部異様な光景があったが、はっきりいおう。剣崎さんの料理はめっちゃ美味い! プロなみだ! だから夢中で食べてしまった。もうこの人の趣味を気にするのはよそう。
「どことは?」
「魔法訓練です。回天訓練をやっているのでしょう?」
「もう聞いて下さいよ。ずっとボコボコにされちゃいまして」
「ああ、桜桃殿もですか。拙者も最初は同じ目に合いましたよ」
あ、私だけじゃないんだ。ちょっとほっとしたかも。
「そういえば吾輩もやられましたな。恒例なのでしょう」
「そうなんですね。参りましたよ、結局5時間くらいやってましたし」
そういって手元のお茶を飲む。コップから口を離すと何故か剣崎さんと桑原さんが怪訝な顔をしていた。
「どうしました?」
「5時間? マジです?」
「え、ええ。大体そのくらいです」
「休憩くらい入れたのであろう?」
「いえ、ぶっ通しでした。だからもう気疲れちゃって」
「ちょ、ちょっとお待ちを。初日で回天状態を5時間!?」
「流石に異常ではないか……?」
え、そうなの? でも郷田さんは何も言ってなかったぞ!?
「ふーむ。拙者ですら回天の維持はまだ1時間がやっとですな」
「吾輩は30分しか持たんぞ」
「え? あれ、そうなんですか」
「初日であれば、10分程度でヘロヘロだったと思いますぞ。確か桑原殿も同じような感じでしたでしょう?」
「うむ」
そうか。もしかして俺って魔力が多いって事なのかな。なんかちょっと嬉しいかも。――ん待てよ。魔力って股間から出来るんだろ? あれ、いいことなのか? なんか性欲が強いとかそういうんじゃないだろな!?
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