第4話 まさか名づけ親は

「来たな。……ん、おいあの筋肉ダルマがいないぞ」



 剣崎さんと歩いているとこちらを待っていたのか仁王立ちの郷田さんがいた。パンツスタイルのスーツ姿で何か資料のような物を持っている。その後ろに坊主頭の男が立っている。



「桑原殿ですか? 家で筋トレしておりましたぞ」

「あの筋肉野郎め。新人が入った大事な時期だってのに」

「まあまあ。そのうち来るでしょう」

「くそ。まあいい。眼鏡、お前は引き続き、浅霧と魔力の”回天”状態の練習をしろ。桜桃は私と一緒にこい」

 

 

 剣崎さんがこちらを見て笑みを浮かべ、肩を叩いてきた。

 


「ま、頑張って下され。ある程度魔法が使えるようになるとそれなりに楽しいですぞ」

 

 

 そういうと郷田さんの後ろにいた坊主頭の人、浅霧さんと一緒にどこかへ行ってしまった。え、っていうか私1人なの?



「いくぞ」

「は、はい」



 屋根のある学校という雰囲気の場所で少し隠れ家のようでわくわくする。でも魔法使いは希少だって言ってた気がするけどこんな広い場所必要なのかな。



「ここには2種類の魔法使いが訓練している」

「え」

「大体わかるさ。大抵初めて来た奴は同じ疑問を言うからな」



 そういうもんか。



「さっきの続きだ。この場所には2種類の魔法使いがいる。何だか分かるか?」

「さ、さあ。前に聞いた話から考えると魔法使いは男性だけがなる現象なんですよね。だったら2種類もいないような気もしますけど」



 っていうかその場合、郷田さんって何者なんだろう。女性だし結構若い。大体25前後くらいじゃないか?

 


「少し考えればわかるさ。まあ目的地に着くまでの座学だと思って少し考えろ。ヒントは魔法使いの成り方だ」

「魔法使いの、成り方ですか」



 魔法使いになる方法。30歳まで童貞を貫く事だ。もしかしてそれ以外に方法がある? いや今の郷田さんの言い方からするとそういう引っかけじゃなさそうだ。なら考え方が違うのか。っていうかだ。魔法使いになる方法が確立してるならいくらでも魔法使いを量産できそうな……。あれ、そういう事かな?




「私みたいに仕方なくなってしまった人と、使望んでなった人ですか?」



 その場合、魔法使いの成り方を知っているという前提になってしまう。でも警察が管理しているという事は国で量産しようとしても不思議じゃないと思うんだよな。そう思っていると少し驚いた様子で郷田さんがこちらを見ていた。



「ほお、正解だ。このクイズを一回で当てた奴は久しぶりだな。俺達は天然魔法使いと人造魔法使いという呼び方をしている」

「もしかして、国の方で人造魔法使いを量産しているんですか?」

「それも正解だ。だがそれでも人数は絞っている。この事実が広く知られてはならない。まあ都市伝説としては広まってしまったがな」



 まあ、確かにそういう都市伝説は有名だけど。まさかマジだなんて思わないよ。



「さて、周りをよく見ろ。頭を剃った僧侶みたいな連中が多いだろう?」

「え、ええ」

「アレはみんな魔法使い訓練生だ。正確にいえば人造魔法使い予備隊って感じだな」

「ああ、なるほど」



 早い人だと最近は中学生で経験しちゃうんだもんな。何歳の時点でここへ入るのか知らないけど、性欲を絶たないといけないわけだし、自然と僧侶みたいな修行になるのかな。

 


「何歳頃から皆さん訓練されているんですか」

「大体は20歳を超えてからだ。3人以上の推薦を得て、面接、身辺調査を行ってからここへ送られる。魔法使い関係の事件は多く、普通の一般人では対処できないことが多い。だから30歳、つまり魔法使いになるまで、ここにいる連中は表では出せない仕事を並行でこなしているんだ。それに対して給料が支払われる感じだな」



 ああ、ちゃんと給料は支払われるのか。それはよかった。そう話していると別の建物の中へ入る。



「この建物にいる連中は30歳になったばかり。つまりお前と同じ魔法使い1年生って訳だな」

「1年生ですか。まあ私はつい先日ですから皆さん先輩ですね」

「いや、それは少し違う」




 そういうと郷田さんは立ち止まり振り返った。



「覚えておけ。天然と人造は同じ魔法使いではない」

「え、それはどういう」

「この東京支部にいる天然魔法使いはお前を入れて5人。そして人造魔法使いは60人を超えている。例えば……」




 郷田さんは顔を横に向ける。その視線を追うと建物で座禅を組んでいる6人くらいの人たちがいる。



「あそこにいるのは人造魔法使いになって3年目以上の連中だ。仮に、そうだな。お前がここで1週間訓練しただけで、あそこにいる6人が束になってもお前には敵わなくなる」

「――は?」

「人造魔法使いはどうあってもある一定の壁を越えられない。魔力量も天然に比べれば10分の1以下だし、根源魔法も使えない。わかるか、どう頑張っても人造魔法使いじゃ束になっても天然魔法使いに勝てないんだ。そしてこれがどういう意味か理解できるか」




 郷田さんの話は言っている意味がよく理解できなかった。どうして天然と人造でそんな違いがある? いやそれよりも最後の言葉。




「私が無双できるって事で――アイタ!?」

「お前は残念な奴だな。少しは見所があると思ったんだが……いや天然ものにしてはまだまともな方か?」

「ひどいですよ」

「はぁ。そもそも俺達は何のための組織だ」




 両手を腰に当て、郷田さんは私を睨んだ。やっぱ美人が怒ると怖いって本当だな。




「た、確か国の30歳検診を逃れた野良の魔法使いを捕まえるためです」

「そうだ。なら分かるだろう? 俺達が相手するのは天然魔法使いなんだぞ」

「あ……」




 そうか。向こうは国がやっている魔法使いをあぶりだすための30歳検診をサボって無自覚に魔法に目覚めた連中。つまり天然魔法使い。そして国が抱えている人造魔法使いでは束になっても敵わない。ならどうすればいいのか。




 簡単だ。国も管理できる天然魔法使いを使えばいい。




「そのための私達って事ですか」

「そうだ。お前らが前線で戦い、彼らはバックアップをする。そういう関係だ。今年は運がいい。例年だと数年で確保出来る天然ものは多くても2人だった。それでも大体数年で卒業してしまう。だが今年の連中は随分曲者ぞろいみたいだし、まぁ誰も卒業なんてしないだろ。ははは」




 あれ、それって遠回しに一生彼女できないだろって言われてる?




「いや、いやいやいや。今はたまたまできないだけで、私も来年辺りはもうここにいないかもしれませんよ?」

「いや、ないだろ。お前の趣味だって結構特殊な上、その歳で恋愛の受け身体質じゃまず無理だ」

「ラーメン巡りは特殊な趣味じゃないでしょ!」

「いや、お前のそれは普通じゃないだろ。簡単に調べただけだが、行きつけのラーメン屋のレシート、ラーメンの写真、店主の顔、店の外観、客層、時間帯による客数の変化、過去の不祥事、等など。……普通そんなに一軒のラーメン屋で調べるか?」




 探偵かよと言いながらジト目で私を睨んでくる郷田さんから思わず視線をそらしてしまう。



「ど、どんな歴史をたどっているか知りたいじゃないですか」

「だからといって、店員のレベルを10段階評価するか? それも全体の話じゃなくて店員の名前まで覚えて個別評価だぞ」

「いいじゃないですか! お店に行ったとき、ああ、この人かって思うだけですよ!」

「それを綺麗にファイリングして並べているんだぞ。しかもお手製のラーメンマップなるものまで作成しているだろ」




 くそ、なんでそこまで知られているんだ!? ネットにあげてないんだぞ。いや、そうか。引っ越しは全部任せてしまっていたんだ。それで見られたのか。



「あくまで個人で楽しむものですから、誰にも迷惑かけてないですよ!」

「まぁラーメンだからいい。それがいつか女に向くと思うと寒気がする」

「しませんよ! 犯罪じゃないですか」

「どうだかな。まぁその歳までラーメン一筋ならもう女に興味は向かないかもしれんが」

「興味ありますよ! それに今年からラーメンだって制限してるんですからね!」




 さすがに30代で毎日ラーメンは無理だ。どう考えても身体に悪い。だから今は週に1回の楽しみに抑えているんだぞ。




「まぁ、そういうわけだ。ラーメンは好きにしていいが、魔法の方も気合を入れてくれ」

「それはもちろん頑張ります」

「では、始めようか」



 雑談していたらいつの間にか目的にたどり着いたようだ。



 少し広めの部屋。サンドバッグやグローブ。それにナイフや銃などが並ぶ異様な部屋。



「改めてようこそ。警視庁秘匿事象課対魔法特選部隊フリージア東京支部。チーム”マジカルバスターズ東京”へ」









「そのだっさい名前どうにかならないんです?」

「あんだと!? かっこいいだろうがぁ!!!」






 まさか名付け親はお前だったのか。

 



 



 

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