第8話 試練の終わり

 「もう死にたいよ」

 アンは消え入るような声でラージに話すが、大は何も答えられない。


 「でも、たくさんの友達を不幸にして、これで死んだら地獄行きよね。」

 「一緒に地獄に行くかい?」


 アンは少し驚いた顔をしてラージの顔を見つめ返す。いつものおちゃらけたラージとは似つかわしくない言葉だったからだ。


 「うん、ラージといっしょなら地獄も楽しそう。」


 アンは自然とラージと唇を合わせた。そして少し顔を赤らめる。


 「オレ、帰るよ、また見舞い来るからな。」


 ラージがアンの部屋を出ると廊下にショウコが体育座りしていた。


 「どわっ!」ラージはいつものようにリアクション付きで大袈裟に驚いて見せた。


 「どこから聞いてた?」


 「最初から。」


 「なんかゴメン、オレ帰るわ」


 ラージはバツが悪そうにそそくさとナイキを履いて玄関から出て行った。


 中のアンも気がつき、二人とも一枚の壁を背にしてぼそっと話し始める。


 「好きなの?」ショウコが尋ねる。

 

 アンはすこし間をおいてから短く答える。


 「うん。」

 「ショウコ、ごめんね、ラージはショウコのことが好きだったのに。」


 「ううん、別にいいよ、ラージのことは嫌いじゃないけどいつもおちゃらけ半分だったし本気かどうかわからないしね。」


 ショウコも内心はラージが告白してきてアンが邪魔をしなければ付き合ってもいいかな?くらいには思っていたのだがそれはここで言うべきではないと思い黙っていた。

 幸運続きの自分と不運続きの姉と比較して「引け目」に似た感情も持ち合わせていた。


 直接見てはいないが、話の流れや空いた間、二人の様子からキスくらいはしたんだろうなと薄々感じてもいた。


 「私は気にしないから二人は付き合ったらいいじゃない。」


 アンはしばらく沈黙ののち重い口を開く。


 「ワタシ、ショウコを不幸にしちゃったことになるんだよね、本当に疫病神よね。」


 アンはまた泣き始めた。

 ショウコはこれ以上言葉を紡げなかった。



 夜になり養親の徳田夫妻が帰ってきた。


 「アン、ショウコ、明日は二人の誕生日よね。盛大にお祝いしないとね。」


 夫妻も引きこもりがちになっていたアンを心配して誕生パーティで元気づけようとしているのだろう。


 パーティの段取りや二人へのプレゼントを話し合っているようだ。

 養親の徳田夫妻も実の子同様、二人を愛しているのがよくわかる。


 しかし、アンはそんな徳田夫妻まで不幸に巻き込んでしまうのではないかと恐怖し、自死の衝動に抗うのがだんだんと難しくなってきた。

 「死んだらやっぱり地獄に行くんだろうな、ラージは一緒に地獄に行ってくれるとか言ってたけどラージまで巻き込みたくない。」

****

 徳田夫妻がの誕生日を祝うことはもうなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

黒闇天女と吉祥果 七星剣 蓮 @dai-tremdmaster

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ