第7話 二つ目の吉祥果

 7日7晩溺愛するピンガラ王子を探して見つけることができなかったハーリーティー王妃は最後の頼みの綱とばかりにイーム教最高神ゴルダにすがることにした。

 ハーリーティーは八大龍王の妻ではあるがその位はさほど高くはなく最高神ゴルダに直接面会できるような身分ではなかった、しかしどんなものを差し出してでもピンガラ王子を探し出さなくてはならない。

 選択の余地はなかった。


 イーム教最高神ゴルダのところに面会の申し出が来たのは翌日のことであった。


 ゴルダはもちろんそうなるように仕向けたのは自分なので何億もの面会申し込みを後回しにしてハーリーティーに会うことにした。


 夫の徳叉迦からは「面会は何千年先になるかはわからないぞ」といわれていたため覚悟をきめていたのだが予想に反して翌日に会えると言う。自分の幸運に感謝したのである。


 翌日、面会の広場に進み出たハーリーティー王妃。

 最高神ゴルダが入室するとその神聖力に押し潰されかけていた。

 気を抜くとそのまま潰されてしまいそうである。例えるなら地球の重力が100倍になったなような、そんな圧である。

 もとよりハーリーティーは最高神ゴルダに頭を床に擦り付けて願い事をするつもりであったが頭を上げようとしてもとても上がるものではなかった。


 その重圧に必死で耐えながらハーリーティーはゴルダに申し出る。


 「最高神ゴルダ様、私の全てを捧げます、私にできることはすべて何でもいたしますのでどうか我が息子、ピンガラを探し出してくださいませ。どうか、どうか。」


 ハーリーティーは息をするのもやっとな状態で何とか願いを口にできた。


 最高神ゴルダは言葉を発する。


 「ハーリーティーよ、息子ピンガラが愛しいか?」


 「はい、私の命よりも大切な息子でございます。」


 

 最高神ゴルダはしばらくの沈黙ののち言葉を続ける。


 「500人以上の子を持ちながら一人を失っただけでお前はそれだけ嘆き悲しみ狼狽している。それなら、ただ一人の子を失う親の苦しみはいかほどであろうか。」と諭した。


 死ぬほどの圧の中でハーリーティーは頭をフル回転させるが意味がわからない、それはそうである。夜叉にとって人間などただのエサにすぎない、何が悪かったのか理解などしようがなかった。

 「最高神ゴルダさま、今少し非才な私に教えをくださいませ。」

 ハーリーティーが教えを請うと、「戒を受け、むやみやたらと人々を食うのをやめなさい、そうすればすぐにピンガラに会えるだろう」とゴルダは言う。


 最高神ゴルダの言葉である、たとえどんなに理不尽な要求であっても抗うことは許されない。ハーリーティーはそれを承諾し、三宝に帰依するのであった。


 面会の場から退出し、城に戻るとあっけらかんとしたピンガラ王子がそこにいた。


 そのあどけない顔を見たハーリーティーは最高神ゴルダの言葉の意味を理解する。


 これまで食い殺して来た人間の子供とその親の心を知ったのである。


 城から退出するときにゴルダからの贈り物という箱を受け取っていた。

 中には貴重な吉祥果が一つ納められている。「ゴルダ様からの伝言です、この吉祥果は人間の肉の味がするそうです。もしまた人間が食べたくなったときはこの吉祥果を口にしなさいと。」


 ハーリーティーはゴルダの心遣いに感謝し、二度と人間の肉を喰らわないことを決心する。そしてイーム教の守護者となることを誓うのである。


 また、最高神ゴルダからは「鬼子母神」という名を与えられた。

 これにより夜叉の一族であったハーリーティーは「神」の仲間入りをすることになるのである。


 そして鬼子母神は乱心して手にかけようとしてしまった双子の娘、アンとショウコのことを思い出すのである。


 「この吉祥果はアンとショウコにあげることにしましょう。北壁将軍様から頂いた吉祥果は一つだけ、これで吉祥果は二つ揃うわ、二人にあげることができますものね。」


 そう言った鬼子母神は慈愛に満ちた母の顔となっていた。

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