第1話 誕生

 「ホギャー、ホギャー」

 「ホギャー、ホギャー」


 「龍王さま、珠のような双子の女の子です、おめでとうございます。」


 「おおーハーリーティよ、よく頑張った双子の女の子だ。」


 ベッドの上で汗を浮かべた、それはそれは美しい女性は腕に双子を抱く。その眼差しはまるで菩薩のように柔らかく慈しみを持った視線であった。


 「龍王さま、この子たちにお名前をつけてくださいませ。」


 「そうだな、それではと名付けよう。」


 「ショウコ、アン、お父ちゃんでちゅよー。」


 普段の威厳をかなぐり捨て、両目が垂れっぱなしの龍王は両手で小さな手を取る、もっとも龍王の手は赤子の数十倍はあるのだ、手を取るというのは少し違うかもしれないが。


 「ハーリーティよ、この子たちに乳を与えるためにもしっかり食べないといけないよ、上の兄や姉にもまだ手がかかる時期で大変かもしれないが、我が部下の眷族をいくらでもこきつかって構わないからね。」


 こうして運命の双子、ショウコとアンは誕生したのである。


 「龍王さま、北部防衛隊司令長官のヴァイシュラヴァナ将軍閣下がお見舞いにお見えでございます。」


 「なんと!ヴァイシュラヴァナ司令官だと!すぐにお通ししろ。」


 武具こそつけてはいないが、鍛え上げられた肉体と何者も寄せ付けない威厳を纏った高貴な武将が医局に入ってきた。


 「(龍王の愛称)に双子の娘が産まれたと聞いてな、参った次第だ奥方の具合はいかがかな。」


 「これはこれは将軍閣下、このようなところにまでおみ足を運ばれるとは恐縮であります、妻は頑健だけがとりえでして元気でございます。」


 龍王は最敬礼で迎える。


 「ほお、これは美しい双子の赤子であるな、試練を終えればこの上なく美しい娘に成長するであろう、その時には我が妻としたいものだ、良いかな龍王よ。」


 「なんと!それは光栄の極みでございます、喜んでお受けいたしますぞ。」


 「その子にを授けよう、試練が無事に終われば食させるが良い。」


 「こ、これは。」


 「弥山の北壁に、それも1000年に一度しか実らぬ吉祥果きっしょうかである、すまぬな、一つしか無いゆえ姉に食させると良い。その折にはの名を授けよう。姉が不運にも試練にて夭逝ようせい、死亡するようなことがあれば妹に。」


 龍王といえど弥山の北壁の上層部など見たことすらない。


 龍王の宝物庫の奥に厳重に保管され、何千もの眷族を護衛につけたのである。

 

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