色々あったその先
「あぁ、寒ぃ……」
俺は手のひらを擦りながら呟く。くそ、カイロもってくれば良かったまさかここまで寒いとは思ってなかったぞ。
「メリークリスマス」
「あぁ、メリクリー」
人混みの中から現れたのは出水。全体的に落ち着いたコーデで普段から大人しい性格の彼女によく似合っている。さて、あと一人だな。
「先輩、お待たせしました!」
「遅ぇよ」
すみません、と苦笑するのはモチロン熾十。俺ら三人はあの日からよく一緒に行動するようになった。熾十が文化祭でメイド喫茶やってた時は出水とからかいに行ったなぁ。
「俺は先輩の望みとあらばいつでもメイド服なりチャイナドレスなり着ますよ」
まぁ、熾十の軽口はスルーするとして……
今日はクリスマス。俺たちはこれから電車で少し遠出してイルミネーションやクリスマスマーケットを見に行く。
「電車とか初めてかもっす」
確かに、俺らが住んでるところもそこまで田舎じゃないから映画館とか遊べる場所に困ることはない。なんなら小さめなイルミネーションくらいならある。
「二人から同時に誘われた時はびっくりしたぜ」
グルチャあるのに、わざわざ個人で誘われたからな。ほぼ同時のタイミングだったから逆に仕組んでるんじゃないかと疑ったくらいだ。
まぁ別にどっちかだけと行く必要もないから三人で行くことになったんだが。
「鈍感……」「個人でした意味を考えてほしい……」
「ん? なんか言ったか?」
「「いえいえいえ!」」
ふーん、まぁとりあえず電車乗るぞー。
「了解です。先輩の隣は俺ですから」
「なっ、私だよ」
はいはい喧嘩すんなー、子供じゃないんだから。俺が二人の間に座ればいいんだろ。万事解決だな。ま、座れたらの話だが……
◇ ◇ ◇
「先輩、皆見てますから……」
「いや何もしてねぇよ」
やめてくれ、変な疑惑かかるじゃねぇか。
俺らは現在電車に乗っているのだが、もちろんクリスマスということもあってぎゅうぎゅう詰めだ。俺たちは座れるわけもなく立っているわけだが……
「わざわざ寄ってくんな、熾十」
「いやいや、ほんとに押されてるんですよ〜」
ニヤニヤしながら言うな。ラッキーとか思ってそうな顔だな、公然の場じゃなかったら一発殴るぞ。
「あと、出水もひっついてくんな」
「女の子には優しくしないと」
あぁ、めんどくさいな。男女平等社会だ、女の子だから、は言い訳にもならないんだよ。分かったら離れてくれないかね?
「だから、押されてるんすよ」
「私も、ごめんね」
二人して悪びれた様子もない。くそ、実際結構押されているから言い返さない。
「先輩、嫌ですか……?」
「嫌だ」
「ほんとにぃ?」
「…………多分」
はぁ、こいつと話すのは疲れるのぜ。てか我が意を得たりと距離を詰めるな! 出水も腕回してくんな!
「「……………」」
あぁ、周りの視線が痛い。僕は被害者ですからー、通報するとしても勘違いしないでくださいねー。
◇ ◇ ◇
「綺麗ですねぇ……」
俺たちはなんとか通報されることなく電車を降り目的地に着いた。出水が思わず呟いたように、イルミネーションは圧巻だった。今まで見た中で一番綺麗な世界が目の前の広がっている。
「マーケットの方も見に行きますか」
しばらくイルミネーションを魅入っていた俺たちは熾十に言われマーケットの方に移動する。
「この星のストラップとか良くないですか? 先輩一緒の買いましょう」
「えぇ、やだよ。一人で買え」
とそんな一幕があったりもしたがマーケットでは色々買った。この日の為に貯金の諭吉様をわざわざ連れ出して来たのだ、ここで渋っては男が廃る。
二人も何か色々買ってたし良いだろう。ちなみに一番多く買っていたのは友達が一番多い熾十だった。また買収用かもしれんが。
まぁ何だかんだで色々楽しんだ。写真とか苦手だったが熾十と出水がどうしても、というので撮ったりもした。あっという間に一時間以上経ち流石に家に帰らないとヤバイので俺たちは帰宅することに。
帰りは人もまだ少なく、俺たちは席に座ることが出来た……もちろん、俺は二人に挟まれる形となった、のだが問題が発生する。
「はぁ~~、面倒くさい奴らだなぁ……」
熾十と出水が寝始めたのだ。俺は基本ベッドじゃないと寝れない質なので寝ないが、確かにグッと疲れている。寝るのも仕方ないか……
出水は俺にもたれてくる。別に嫌じゃないから良いが、俺が気にしてしまうのは熾十だ。普段は自己中心的なやつだがこーゆー時はめちゃ紳士なのだ。
熾十は俺にもたれそうになるたびに頭を振って起きるのだ。アニメでよく見る首がカックンカックンなってるやつね、伝わってる?
「はぁぁ、調子狂うんだよ。いつも通りの距離感でこいや」
俺は熾十の肩に腕を回しもたれさせる。半ば抱き寄せた形になるが断じて違う。これは、そう……アレだ、先輩としての優しさ的な。決してそういうんじゃなくて……
「はぁ、深夜テンションというか……俺はクリスマスで浮かれるキャラじゃねぇだろうに」
俺は熾十を抱き寄せたまま、空いている手でスマホをイジる。電車の揺れに合わせて星のストラップが揺れていた。
◇ ◇ ◇
「起きろー、お前らー」
俺は降りる駅が近づいてきたので二人を起こす。無論、熾十を抱き寄せた状態で起こしたら調子乗るので熾十は突き飛ばす形で起こした。
「あー、もう駅っすか」
「んん~……あ、ごめんなさい」
はいはい、変な空気になる前に降りる準備しようなぁ。ほれ、忘れ物ないようにしろよー。
また二人が口論になると面倒なので俺は先に席を立つ。神も俺を憐れと思ったのか電車は予定時刻より少し早く駅に着いた。
「んじゃな」
駅からだと俺たちはそれぞれ道が違う。学校から同じ側にあるから一緒に帰ることは多々あるがそれでも若干方向はズレているのだ。
ということで俺は自分の帰路に着いたのだが……
「先輩!」
後ろから呼ばれ足を止める。はぁ、今日は親いるから家には来んなって何回いえば良いんだよ。
「そんなことじゃないです……」
いやそんなこと呼ばわりは酷くね?
と言おうとして、俺はその言葉を呑み込んだ。
「先輩、真面目な話です」
そう言って切り出す熾十を俺はおろか出水でさえ遮ることは出来なかった。
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