三角関係?

「正夢……?」


 もしくは予知夢と言うのだろうか。昨日見た夢と全く同じ状況が目の前にあった。いや、予知夢とか科学的にあり得んし俺は信じてないけどね。でもそうとしか言いようにないのだ。


「どうするんすか? どの道あの子がいる通れないっすよ」


 熾十はそう言いながらも俺の性格を理解しているからか既に女子生徒の方に歩き出している。その後ろ姿も夢と重なって……


「待て、熾十。俺が行く」

「ん? そうっすか、珍しいですね」


 うるせー、と熾十にデコピンを一発食らわせてから俺は女子生徒の方に歩み寄る。女子生徒は気づいた素振りを見せない。


「おい、何してんだ?」

「え?」


 女子生徒が振り返る。その表情に俺は面食らった。

 女子生徒は、泣いていた。涙をボロボロとこぼしながら見上げてくる。その表情に思わず、


「えと……とりあえずどっか喫茶店でも行くか」


 と提案していた。


 ◇ ◇ ◇


「イジメられていたんです。もの隠されたり、無視されたり……先生にも相談しましたけど注意しておくって言われただけで」


 そう言い力なく笑う女子生徒、改め河原出水さんは紅茶を飲む。こういう場は慣れないのかカップを持つ手はぎこちない。


「先輩、ブラックですか。カッコイイ」

「うるさい、お前はもう黙っとけ」


 横から茶化してくる熾十にイチイチ反応すると話が進まないので黙らせる。っと、河原さんをほったらかしにしてしまった。イジメられている、だったか。


「それで泣いてたのか?」

「はい……」


 恥ずかしそうに目を逸らす河原さん。別に照れなくても良いのに……


「先輩、嫉妬しますよ?」

「別にそーゆー目で見てないし、仮にそうだとしてお前には関係ねーだろうが」


 はぁ、油断したらすぐこれだ。なんでコイツはこんなんなんだ、全く……


「お二人はどういう関係なんですか?」

「同じ屋根の下で熱い夜を──」

「ただの先輩後輩」


 何でそんな泣きそうな目で見てくるんだよ、事実だろうが! 他の関係性を強いていうならストーカーとその被害者だな。うん、それ以外の関係はない。


「ふふっ……」

「「…………?」」

「あ、えと……面白い人たちだなぁって」

「先輩、俺たちお似合いですって!」

「お前はもう黙っとけ」


 はぁ、話が進まねぇ。熾十の発言は全て無視だ。


 えーと? 話を戻して、


「いじめられてるんだっけ?」

「あ、はい……」


 イジメ……河原さんは見た感じ怪我はしていない。だとすると暴力とかはないのか。


「えーと、河原さんって何年生?」

「あ、2年です。3組の」


 3組、3組なら俺の教室の隣だな。ん~、提案というかさ……


「休み時間に会いに行っていい? 俺」


 そうすればイジメっ子も何も出来ないんじゃないかな。俺は陽キャと陰キャの間くらいにいるし一応熾十っていう強い後ろ盾もある。

 画期的な提案だと思ったのだが河原さんより先に騒いだやつがいた。


「ちょっとまってください、先輩。浮気ですよ、それ。最低っすよ?!」

「浮気も何もお前とはそんな関係じゃねぇっての!」

「ひどい、先輩がそんな人だったなんて……」


 シクシクと泣き真似をする熾十。あ、なら全然諦めてもらって構いませんよ? むしろそっちの方向で進めて貰えれば……


「仕方ないですね、俺も明日から先輩に会いに行きます、それで許してあげましょう」


 チッ、何でそうなったんだよ。

 でもこいつが居たほうが俺一人より周りに奴らに影響あるんだよなー。どうせコイツは俺にしか話しかけてこないし女子の恨みを買う心配もない。


「はぁ、じゃあそうするか」

「ちょ、ちょっと待ってください。私のことなんて」

「良いよ、どうせ毎日暇だし」


 俺の言葉に息を呑む河原さん。心外だ、そんな要素なかったろ……


「まぁもうだいぶ居座ちゃったしそろそろ帰るか」

「そうっすね」

「あ、お金……」


 財布を取り出す河原さん。しかし喫茶店に行こうって言い出したのは俺なんだ、俺が払おう。皆飲みものしか買ってないし大丈夫だ。


 ということで今日はこれでお開きとなった。めでたしめでたし……


「何で俺に付いてくるんだよ?!」

「だって先輩、今日はお義父様もお義母様もいないですよね」


 …………もう何日連続だよ。あぁ、早く帰ってきてくれ、出張とかどうでもいいからぁ。

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