第3話 思春期まっさかりの少年は、名の改善を望む!
――教師に相談を持ちかけると、その日のお昼すぎ。
八年の教室が
「……おまえの名前。字はそんな悪いとは思えないがなぁ」
どこがですか? と。
俺はぐっと
「〝ましり〟くんと読むよりは、ましじゃないか?」
……だじゃれのつもりですか?
それとも〝尻〟とか〝マシ〟と茶化して馬鹿にしているんですか?
おもしろくなんてないし、俺はそんな中途半端な変更を望んでいる
「
「
「個性的ないい名前じゃないか。改名をおし進めるには
オレの知りあいなんて悲しいぞ。
「……
「そう
まずは目標とする高校に無事、合格すること! 改名するのは落ちついてからでも遅くない」
変に
手段・
むっとしたので、不服をめいいっぱい視線にこめる。
そんな俺の耳を掠めたのは、担任教師の大仰な溜息と「〝
〝ぞふぃ〟と〝ぷ〇〟以外はこの学校
「どうしてもというなら、まず両親の了解をとり付けること――おまえが未成年であることには違いないし、親の承諾・理解があるとないとではお役所さんの反応が違ってくるからな」
確定的だった。
この大人——役に立たない。
少なくとも、俺にとっては。
親を説得する方向に舵をきるならまだしも、俺の考えの方を押しとどめようとしている。
そこで俺は椅子の背もたれを押しやった。
「わかりました。もういいです」
「まてまて、
「(いや)
さっと距離をとり「(これで)
🕧🕧🕧
時間を無駄にした。
(――まともな名前で高校
俺は荒ぶる感情を抑制して、どうするべきか問題のほうを重要視することにした。
聞くところによれば、手続きする前からこれと思う名をおおっぴらに使っているとその名前への変更許可がおりやすくなるという。
(まずは名前を決めておくか……。
ぱっと思いつかないけど、〝
兄の名前が〝
こうして悩んでいると、つくづく思うのだ。
兄も姉も、読みに軽度の課題を残すなかにも、まともな名前だというのに、どうして俺が〝
名付けた張本人(親父)は、
ほんとうは、自分が〝欲しくなかった子〟だからなのではないかと親の
兄と姉は、からかい半分にも理解を示してくれるが、両親は俺の改名に非協力的なのだ。
俺の名を気に入っている母は
なんでも本名の総画数が、
そんな父の本名は通名と同音異句の〝
どちらも仕事運は悪いままだそうだが、親父
〝長所は短所にも通じる。すべてが
霊能者を語る家系にあるからなのか、もっともらしいことを言って人の疑念を
幼いころは俺もはぐらかされていたが、十代半ばにもなれば、いいかげん子供にも免疫ができようというもの。
自身は源氏名を本名のように使いながら、息子が改名することには反対する――
そんな明らかなダブルスタンダードを前にして言いくるめられたりはしないのだ。
占いなど、当たるも八卦当たらぬも八卦。
それでも。そういったものの結果がいいに越したことはないのだろう。
たとえ張りぼてでも、響きや印象がいい方がお得に決まっている。
ともあれ俺にとって名前のおかしさは人生の打撃にして、悲劇なのだ。
考えてもすぐに思いつくものがなかったので、こんなとき頼れるのは文明の利器だと…——さっそく手もとの画面にその答えを求めてみる。
名字まで変える気はなかったので、それを基準として。
(――良さそうな
検出される文字は似たり寄ったりで、そこに弾きだされたなじめそうにない文字の羅列には、奇妙な違和感もおぼえる。
(——
そこでなにげに画面から目を外した俺は、その視界の
朝だろうと昼だろうと、幼きから
かわいかろうがなんだろうが、いつも時代を超越した変わりばえのしない服装をしている。
微妙に透けても見える
つまりそれは、生身の人間ではないということだ。
(校内に不審者がいるぞ——この子供、ほかに見えてる奴はいないのかよ……)
悩んでいれば、わけがわからないものまで目にする。
どこまでもすげない現実に浮かされこぼれた溜息が、いまの俺には非常に重く感じられたのだ。
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