第2話 久木家 翡翠の玉壁の呪縛
——…だめか……。
さっきからここにいるのに、父さんにも見えていない……――
🕢🕢🕢
「やっぱり
「——それ、夕べの残りだから」
なにやら白けた空気がただよっていたので、しみじみ語ってみた俺、
もとい、
義務教育課程八年生の
このところ彼は非常に機嫌が悪い。
態度が悪くなるのは、
観察してみたところ、
朝が早い
「っ! ねぇちゃん、勝手に(俺の片目焼きに醤油)かけんなよ」
「え?
「かけすぎなんだ。ブロッコリーとウィンナーにもかかったじゃないか!」
「しょうがない。失敗したのはあたしだから交換してあげる。そっちちょうだい」
「やだよ。ねぇちゃんの
「おいしいよ? 一回、食べてみ(て)」
「
「
「俺、醤油派だから」
うん。姉弟仲がいいのは良いことだ。
こんなにも愛情をもって呼ばれるというのに、
――
あふれるほどの可能性と知性を
音が……。響きが気に入らないのだろか?
だとしても、人間、愛着をもって呼ばれ続ければ自然になじむものだ。
いまさら異なる文字の組み合わせを名乗られても違和感しか覚えない。
〝
この十四年間、ずっーと〝
時には〝くん〟をつけながら呼び続けてきたのだから…――
ちなみに兄の
これから先もそうでいたいと思っていたし、
そのへんは、その子の母親である
だが、
我が家の家宝——《翡翠の
――いずれ、あたまがむこうを向いて〝りちま〟になる〝まちり〟だと……――
変わるとしたら〝りちま〟とやらになるのだろう。
私としては、後の名のほうに戦慄にも似た違和感を覚えるが……。
その子、《
霊能の確かさ・あらたかさから生き神とまでいわれた
その見なしに間違いはないだろう。
(私の)
そして〝その命は
さらには、
〝もう、参考や謎の解明にしかならないものを見つめ続けることを背負わされた
そして、その命が尽きる数か月前にも
せめておまえは、その手が届くところにあるうちは大事にしてやるんだ。
霊能あふれる者の言葉は、よくわからないものだが、
〝あの子に届くものかもわからないが、それが身の丈以上のものを求め過ぎた一族の……いや。これに関わってきた者のせめてもの
〝見えたからといって、どうなるものでもないのにな〟と——ぼやきめいたことも口にしていた。
「ごちそうさま」
やはり怒っている。
かわいい息子に睨まれ疎まれるのは心が痛い。
この先、こんな関係が継続されるのではないかという現状に
ここは折れて、改名に賛成してやるべきか?
そうなると、この子は〝りちま〟になるのか?
いや。
やっぱり、
平素は凡庸に毛が生えた程度でも、時にはその鋭くも柔軟な
〝
それ以外の呼び方など考えられない。すでに確定している気さえする。
「――明日、
若い頃は魔美女だったが、最近はこころなしか輪郭が
それはそうと、
――
かなり肩がこる相手だが、しかたないだろう。
肩で息をした俺は、そこでふと窓際に目を向けた。
大開口の窓のこちら側に
我が家の末っ子は、いま彼自身の部屋がある方向から現れて、玄関へ向かおうとしている。
気のせいだったようだ。
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