第16話 怪しい青年
「本城喜一と言うのですね、その名人」
壇ノ浦も名前は知らなかったらしい。
しかし本城… 何か引っ掛かる。
「そう言えば三上姉さんも本城と言われてましたね?親戚だったりして」
冗談の様にそう言うと八光社長の鬘を頭に乗せてキメ顔をしている。
ああ、そうか彼女も本城だ。しかも禿に興味がある…
鬘は禿と関係あるが彼女の趣味とは違うだろうから違うと思うが…
「ええ、祖父ですねそれ…」
「「「え!?」」」
三人で揃って驚いた。
「そうだったんですか?!」
八光社長が前のめりに言う。
「はぁ〜 さすが三上姉さん!」
壇ノ浦は感心していた。
本当に関係があったとは…
彼女の禿へのこだわりは名人の影響があったのだろうか。
「30年程前に名人に会いましてね。その頃から私はすでにかなり髪が薄くて悩んでいました」
「人目を気にして会う人全てが頭を見ているのではと思い込み人付き合いが上手く行かない日々だったのですがそんな私に声をかけて来た男がいたのです」
30年も前から禿の進行があったのか、八光社長の30年前なら今の私より若いじゃないか。目の前にいる壇ノ浦さんよりも若いかもしれない。
まあ、壇ノ浦さんも現在進行形で見事な頭なんだが…
「それが名人だったと?」
壇ノ浦が聞く。
「ええ、そうです。そして名人は私に言ったのです」
(兄さん、何か悩んでる顔だね?)
「全く知らない青年に警戒しましたがその人の目は他の人とは違い好奇心に溢れた子供の様な顔で私を見ていたのです」
(兄さん、見たところまだ若い感じだけど悩みはそれか?)
「私の頭を指さして言ったのです。なんて失礼な人だと思いました」
(若くてそれじゃあ悩んじゃうよな〜)
「無視して立ち去ろうと思いましたが彼の次の言葉に足を止めました」
(俺は鬘師をしてるんだよ、本物を生やしてやる事はできねえがそれと変わらない鬘は作ってみせるぜ?)
「私も鬘に手を出そうと何度も思っていましたからこの話しは無視できなくてダメ元で鬘師なる青年に着いて行きました」
鬘師なんて言うのがあるのか?
八光社長、若い頃から苦労していたんだな…
「そして青年の家に行きました。工房があるのだろう思ったのですが普通の家で鬘に関する物は一切無くて焦りましたよ。騙されたと思って」
「作っているのは別の場所との事でそこでは色々な事を聞かれました。仕事や生活習慣、家族構成まで聞かれ益々怪しいと思ったのですが奥さん思われる方も居てお茶を出してくれて何も言わずに名人と私のやり取りを側で聞いているんです。」
「その方の表情、雰囲気がとても穏やかで名人の仕事を信頼し見守っているのがわかりました。それを見て名人を信じようと全てを任せたのです」
八光社長は彼女をゆっくり見た。
彼女は幸せそうな穏やかな顔をしていた。
きっと名人夫婦との良い思い出があるのだろう。
「その後は3ヶ月経ったらまた来いと言われ名人の家を出ました」
あれ?質問とかはわかったが頭の採寸とかはしなかったんだろうか?
「その時は質問だけだったのですか?頭のサイズを測ったりとかは?」
八光社長はしばらく考えるそぶりをした。
「確かに…その時は気にしていませんでしたがそうですね。ですが3ヶ月後に再度名人の家に行った時の事を思えば最初は私の人間性を確かめていたんだと思いますね」
3ヶ月後何があったんだろう…
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