第14話 見つめ合う二人
「だ、壇ノ浦さん…それは…」
八光社長は壇ノ浦が左手で持っている毛束を見て動揺している。
「社長、これは未練です。これを断ち切る事でこれまでの自分を解放して下さい」
ガタッ!
八光社長は慌てて鏡になる様な物を探した。
棚に飾られている何かの表彰立てが金色の板に文字が刻まれておりそこに自分を映した。
「あーーーー!」
大きな声を上げ八光社長は見事に一本も残さず切断されたバーコードを確認する。
バタバタガシャ!
そのまま部屋を出て行ってしまった。
新人の挨拶に来ただけなのに何なのだこのカオスは…
壇ノ浦は切り取ったバーコードを側にあったゴミ箱へそっと入れそれに向かい静かに手を合わせていた。彼女を見ると同じ様に手を合わせている。
私もやるべきなのか?
そっと遠慮がちに手を合わせる…
ってちがーう!
「だ、壇ノ浦さん。あれはちょっとやり過ぎでは?」
無心に手を合わせる壇ノ浦に聞いた。
「田辺さん、社長はずっと悩んでいたんですよ。若い頃からどんどん去っていく細き自身…言い様も無い不安を今まで抱えていたのです」
壇ノ浦は語る。
「何をしてもどんなにケアしても努力は実らず、現状維持さえ出来ない。毎日毎日入浴する度、大量に溜まった排水口の黒き物…何で?何で何だよ!っと」
「私もそうでした…私はその不安を周りの影響もありましたがおでこと思い込む事で平静を保っていました。同じ様に八光社長はそれを隠す事で平静でいられたのです」
「しかし!禿を隠す通す事なんて出来ません。どんな方法であれいずれは隠せなくなるんです。その時、まさに未練の象徴である
壇ノ浦は拳を握りしめる。
「それを見た人はこう思うでしょう。簾禿?!と」
「簾禿ですよ?禿に簾が付くのですよ?」
ふうっとため息を吐く壇ノ浦。
冷静な声で言う。
「要らないじゃ無いですか簾…」
「無駄じゃ無いですか簾…」
「禿だけで…禿だけで良いじゃ無いですか!」
ガチャッ
出て行った八光社長が戻って来た。
「壇ノ浦さん…」
声が少し震えている様だ。バーコードを切られた事に怒っているのだろうか?
部屋に緊張が走る。
八光社長は壇ノ浦に詰め寄った。
そして壇ノ浦の両手を握りしめる。
「そこまで私の事を…」
いや、彼はバーコードが気に入らなかっただけでは?
「社長、せっかくなんですから禿ていきましょうよ!」
「禿げても社長は社長です!何を隠す必要があるんです?」
「壇ノ浦さん…ありがとう…」
手を取り合い見つめ合う禿達。
二人の世界に入って行けずただその光頭二つを眺めているしかなかった。
何なの?この状況。どうしたら…
「八光社長、壇ノ浦さん。人生を取り戻されましたね」
今まで静かに状況を見ていた彼女が穏やかな笑顔で二人に向かって言った。
私は何を見せられているのだろう。確かにこの場には今までのコンプレックスを克服し新たな人生を踏み出そうとする雰囲気があるが…
冷静に見ると禿のおっさん二人が手を取り合い見つめ合っているのは正直絵面が最悪だ。
八光社長と壇ノ浦は涙を浮かべていた。
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