第13話 断ち切る!

 壇ノ浦は目を輝かせ光る禿を彼女に見せつける様に微妙に角度を変えて彼女を見つめる。

 ナルシストの時の動きに似た様なものを感じる。

 ただ今は自分ではなく彼女に向けての行動なのでナルシストからただの勘違い禿に変わった。


 そんなに禿散らかすんじゃない!


 壇ノ浦の行動に何故かイラついてしまった。

 落ち着かない自分がそこに居た。


「私は何もしていませんよ」


「そんな事はありません!あのままでは私はとんでもない者として周りに迷惑をかけていたでしょう。それを気づかせてくれたのは三上姉さんです!」


 滑らかな頭を下げる。


「本城さんが壇ノ浦さんを変えてしまったのですね?」


 八光社長が割って入る。


「ええ、その通りです。以前の私はご存知の通り身勝手で自分の事が常に正しいなど愚かな思いに囚われていました」


「周りもこの禿を素敵なおでこと持て囃し誉めてくれました…しかし今思えばその時の皆の顔は感情のない仮面の様だったと思います」


 壇ノ浦は拳を両手の握り締める。


「私は禿!禿なんです!誰が見てもそうですよね?何で今までそんな事に気が付かなかったのか…」


 壇ノ浦はチラッと八光社長を見る。


「八光社長も良くそこまで解放されましたね!」


 解放?鬘を取った事だろうか?


「いやー私も本城さんに見透かされまして覚悟を決めました」


「そうでしたか!さすが三上姉さんですね!」


 壇ノ浦は彼女を見て拍手をする。

 すると突然拍手を止め立ち上がった。


「八光社長、ハサミはございますか?」


 この男は行動が全くわからない、ハサミをどうするのだろう?


「え、ハサミですか…ちょっとお待ちください」


 八光社長は部屋を出て行った。

 しばし三人での静寂が訪れた。


 壇ノ浦…その若さでそこまで禿はなかなか見ない。普通そこまで進行しているのあればスキンヘッドにするだろう。しかしそれもせずサイドにはしっかり残っている。

 禿ではなくおでこと思い込んでここまで来た弊害か。

 だが顔は整っているせいで禿でも老けては見えないちょうど良いバランスなのかもしれないな。

 彼女はこの事をこの男に悟らせたのだろう。


 ガチャ!


 八光社長が戻ってきた。


「すみませんお待たせしました」


 ハサミを取り行っただけにしては時間がかかったな。


「うっかりこのまま事務所に行ってしまい驚かれてしまって…ちょっと説明をしておりました」


 八光社長はふうっとため息を吐いたがその顔は暗くなく何か解放された様な爽やかさがあった。

 社長が社員に自身の禿についてどの様に説明したのかすごく気になる…


「ハサミはこれでよろしいでしょうか?」


 八光社長が事務所から持って来たハサミを差し出した。普通の事務で使うハサミだが刃は鋭く良く切れそうだ。


 壇ノ浦はハサミを受け取ると右手に装着した。何やら不適な笑みを浮かべる。他の人なら鋭い刃と共に持っている人の目がギラリと光るのだろうが壇ノ浦の場合はツルツルの頭が鋭い光をピカリと放っている。


「では、社長ちょっと失礼して…」


 そう言うと壇ノ浦は着席した八光社長に近寄る。


 まさか、そのハサミで何か危害を加えようというのだろうか?!


 部屋に緊張した空気が走る。

 壇ノ浦のハサミを持った手が素早く動く。


 ジャキッ!


 何かをスッパリ切る音がした。


「そこまで覚悟されたのであれば未練は断ち切りましょう」


 壇ノ浦は右手にハサミ、左手に切り取った何かを持っていた。


 それは髪の束だった。

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