第12話 二つの禿

 八光製作所の応接室は混乱の渦になっていた。

 八光社長も私も何が起こっているのか全くわからなかった。

 はっきり言えるのはそこに見事に光を放っている禿が二つある事だった…


「み、皆さん。このままでは何ですからどうぞお座り下さい」


 八光社長が促し皆席に着いた。


「君も口を開けていないでお茶をお願いします」


 壇ノ浦を案内しこの状況に遭遇した娘はその場に口あんぐり開けたまま固まっていたが八光社長の声で我にかえりお辞儀をすると慌てて戻って行った。


「本城さん、壇ノ浦さんをお知り合いだったのですか?」


 八光社長が尋ねた。


「尊敬する姉さんです!」


 壇ノ浦が率先して答えた。


「いえ、ほとんど知らない人です」


 彼女はきっぱりと言う。


「そんな、熱く人生を説いてくれたじゃないですか?!」


「えーと、先程ですねこちらに伺う前にお会いする機会がありまして…ただこの方が三柳製作所の方とは知らずお名前も解っておりませんでした」


 とりあえずフォローする。


「そう言えば名乗ってなかったですね」


 そう言うと壇ノ浦は席を立ち少し広い場所に移動した。


「ご挨拶遅れて申し訳ございあせん。性は壇ノ浦、名は湯治ようじ。三柳の営業を賜っておりますチンケな男でごぜえやす」


 なぜかたんかを切る形で右手を前に出し少ししゃがんでピカってる頭を下げ挨拶をした。


 この男はどうも良くも悪くも普通には行動出来ないらしい。

 とりあえずこちらも名乗っておくか。


 席を立ちその場で名乗った。


「光丘製作所の設備設計課の田辺広喜です。こちらは部下の本城です」


 彼女もゆっくり立ち上がる。


「本城三上と申します」


 軽くお辞儀をした。


「三上姉さん!ありがとうございます」


 彼女に向かって壇ノ浦は深く頭を下げるとエクスカリバーの様な鋭い一筋の光が頭に煌めいた。


 その光にたじろぎながらも八光社長が聞いた。


「それで…壇ノ浦さんに来て頂いたのですが…」


 八光社長はチラリと彼女を見る。

 彼女は静かに言った。


「壇ノ浦さん急にお呼びして申し訳ありませんでした。ですが先程来られた際に何か謝罪をしておられましたね?どう言う意味なのか教えて頂けるとありがたいですのですが」


「え?あ!そうですね。光丘製作所の方もおられるのでちょうど良いですね… って三上姉さん!光丘製作所の人だったんですか?!」


 壇ノ浦は大げさなジャスチャーで驚いている。

 何とも落ち着きの無い男である。


 彼女は返事はせず営業スマイルをした。


「では、ご説明させて頂きます」


 皆んな席に着き説明を聞く。


「実は私はここに居られる八光社長へ理不尽な取引を持ちかけていました。八光社長の弱みに漬け込み光丘さんへの依頼を簒奪しようとしたのです」


 ここまでは八光社長から聞いた通りだ。


「その弱みというのも今では何の意味も無くなった様ですね。八光社長、光丘さんへ話しても宜しいでしょうか?」


「はい、このお二人は全て知っておられますので」


 八光社長は恥ずかしそうに頭のバーコードを慎重に手で慣らして位置を安定させた。


「八光社長はその…頭の事でお隠ししていた事がありそれをネタに取引を持ちかけました」


「今思えば私自身、何故あんな事を言えたのか。私もこの頭ですよ?!」


 壇ノ浦はツヤツヤした頭を右手でピシャリと叩いた。


「あの頃の私は勘違いをしていました…いや勘違いどころか自分が禿散らかしているなんて毛頭ありませんでした」


 八光社長が思わず聞く。


「ええ、今の壇ノ浦さんはまるで別人のようですね。何があったのです?」


 壇ノ浦は両手を思いっきり彼女の方へ伸ばし叫んだ。


「三上姉さん!この方が気が付かせてくれたのです!」

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