第11話 素敵になりましたね

「しゃ、社長。三柳設計さんをお連れしました」


 ドアの前で先程とは違う女性の声がした。

 声に落ち着きが無く先程来た受付の娘から八光社長の衝撃状態を聞かされたのだろう。


「どうぞ!」


 八光社長が返事をする。


 ガチャッ


 女性によりドアが開かれ後ろで待機していた男が入って来た。


 バッ! ズサー!


 男は入るといきなりスライデングのごとく流れる様に見事な土下座をする。


 八光社長はもちろん我々も突然の行動に驚いた。


「ど、したんですか?」


 八光社長が土下座をする男に駆け寄る。


「この度は〜!もお〜〜し訳〜、御座いませんでした!」


 男は土下座をしたまま額を床に押し付け叫んだ。

 しかも何故か歌舞伎調の言い方で。

 そして男の低く下げている頭は八光社長に負けずとも劣らない禿だった。


 部屋にしばらく沈黙が漂う。


「と、とにかく顔を上げて下さい!」


 八光社長が男を起き上がらせる。


「社長、先日は大変失礼な事を言いまして申し訳ありませんでした!」


 今度は立ったまま深くお辞儀をする。

 下げた頭が土下座の時よりより近くなりピカリと輝いていた。

 前々から思うのだが何故禿はこんなにもツルツルピカピカなのか…元は髪の毛が有ったとしても人の肌には違いはない。しかし人の肌というかまるで子供が一生懸命作ったあの磨き上げたピカピカの泥団子の様な光沢を放つのだ。


 この男の頭もそれは見事な光沢を放っている。鏡の様に映るのではないかと思う程だ。

 自分も将来こうなるのだろうか…

 こんなに見事な光沢を出せるのだろうか…


 そんな全く無意味な妄想をしていると強烈な視線を感じた。

 慎重にその視線の方向を見ると彼女が満面の笑み浮かべてこちらを見ていた。


 何だその幸せそうな笑顔は?!


 まさか今の妄想を勘づかれたのか?

 何者なんだ君は?!

 わ、私は君の理想にはならないぞ!

 一族初の有髪で一生を終わるんだからね!


「さあ、とにかく光る頭を… と、とにかく頭を上げて下さい」


 八光社長も彼のあまりにも見事な禿に混乱しているようだ。言ってはいけないワードを口にしている。


 男はやっと頭上げた。


「「あ!」」


 男と同時に声が出た。

 それもそのはずだ、先程ここに来る前に絡んで来たツルツルピカピカナルシス禿の勘違い男だった。

 しかし先程とは服装が違った。当たり障りの無い紺のスーツを着ており先程のケバケバしさは感じられなかった。


「お二人ともどうされましたか?」


 八光社長が心配そうに我々に問いかけた。


「八光社長こそどうしたんですか?それ?!」


 男は今初めて八光社長をじっくり見て見事な禿に気がついた様だ。

 そしてその奥に居た女性を見つけると今度は3歩下りまた深くお辞儀をしたのだった。


「姉さん!先程はありがとうございました!」


 男は大きな声で言った。


 この男は先程彼女が完封なきほど自身が禿である事を心に叩き込まれた者だった。

 一見して気が付かなかったのは服装が変わっていた事もそうだが感じ取れる雰囲気が先程の傲慢でナルシストな感じは全く無く実に誠実そうなイケメン禿だったからだった。


「壇ノ浦さん、素敵になりましたね」


 彼女は男を労う様に言った。


「あ、あ、ありがとうございます〜!」


 壇ノ浦は彼女の言葉に感動した様子で顔、いやツルピカな頭まで真っ赤になっていた。


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