第10話 壇ノ浦
「心配いりません」
突然彼女は言い放った。
今日初めてこの会社に挨拶に来て状況も良く分からないのに何とかできると言うのか?
不安を抱き彼女を見る。
彼女は私の不安が解ったのか何も心配いらないとばかり優しい笑みをした。
その可憐な笑みに思わず頬が赤くなりそうだ。
「八光社長、その三柳設計の担当者を呼んで頂けますか?」
八光社長は驚いて言った。
「い、今からですか?」
「はい、おそらく呼んで頂ければ直ぐに来てもらえると思いますよ」
八光社長は心配そうに私を見た。
正直言うと私も彼女が何を考えているかわからない。
しかし、短い間ではあるがこれまで彼女は出来ない事は口にした事が無い。
もはや自分には契約不履行で訴える事しか思いつかないし彼女に任せても良いかもしれないな…
八光社長に小さく頷いて見せた。
「わ、わかりました…」
そう言うと携帯を取り出し電話をかけ始めた。
………
「壇ノ浦さん?八光です…お世話になっております」
どうやら三柳の担当は壇ノ浦と言うらしい。ライバル会社なので営業関係の担当者名は大体知っているが壇ノ浦という人は初めて聞いた。
新しく入った人だろうか。
「申し訳ありませんが今からこちらに来て頂く事は出来ますか?」
………
「え?あ、はい…では…」
八光社長は電話を切り携帯をテーブルの上に置いた。
「ダメだったんですか?」
「いえ、それどころか直ぐに来ると」
ほほう、なかなかフットワークの軽い人らしい。
八光社長を見ると何やら考え込んでいる。
「どうしました?」
「今から来る方は壇ノ浦さんという方なんですが…先程の電話ではまるで別人の様な様子で…」
「と言いますと?」
八光社長はお茶を一気に飲み干して言った。
「壇ノ浦さんという方は先程話した様に私に光丘さんの仕事を回す様に言って来た人なんですがいつもは電話でも上から目線、というか話が通じない人だったんです。しかし今の電話ではすごく低姿勢で丁寧な物言いで…」
コンコンッ!
突然ドアをノックする音が部屋に響く。
「はい、どうぞ!?」
八光社長が答える。
ガチャッ
ドアを遠慮気味に開けて受付の女性が入って来た。
女性は八光社長を見ると一瞬固まり見てはいけない物を見てしまった!という顔をしたが直ぐに何も無かった様に八光社長の側に行くと耳打ちする。
そう言えば八光社長は今絶賛禿散らかしていたんだった。
受付の娘すごいな初めて見る八光社長の姿なのに即座に正気に戻り冷静な対応をしている。
いや実はかなり混乱していた様だ、受付の娘は震える手を添え耳打ちしていた。
「え?もう?!」
何だ?何かあったのか?
「わかりました、この部屋に通して下さい」
え、まさか?
受付の娘がそそくさと部屋を出て行った。
「三柳の担当者が来たそうです」
早!
数分前に連絡したばかりだぞ?そんなに早く来れるものなのか?
「すごく早いですね?」
「ええ、まったくです。まるで既に会社の近くに居たような感じですね」
彼女は涼しげに粗茶を啜っている。
コンコンッ!
来た!
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