第9話 禿の主張

「私は思わず、何故それを?と言ってしまったのです」


 八光社長は深いため息を吐いた。


「それを聞いた彼はこんな事を言いました」


(禿はやばいですね〜男としてこれ以上無い減点要素ですからね〜無惨に散った落武者の様な頭…いや〜私なら耐えられるものではないですよ。八光社長がお隠しになりのも分かりますよ〜)


 八光社長は部屋の天井を見上げて続ける。


「まさか彼からそのような言葉が出てくるとは思いもよりませんでした」


「だってどっからどう見ても彼も禿なんですから!」


「それなのにまるで自分は禿では無いと言う言葉…」


 今度は下を俯いて語る。


「彼が言った禿では無くおでこと言う事は本気で言っていたのです…誰がどう見ても禿なのに」


「あんなに堂々と禿散らかしているのに…それを本気でおでこだなんて。私には絶対に出来ないと思いました」


 そして急に私の顔を見て言った。


「更にですよ!彼は鏡を取り出して自分の顔を見てウットリし始めたんです!」


「何事かと思いましたよ…そのまま数分…いやもっとだったかもしれない。ずっと鏡を見ては顔の角度を変えてニヤニヤするんです。背筋が寒くなりました」


 禿をおでこと言い張りその上ナルシスト…

 何かごくごく最近そのような者に会った気がするが… まさかね…


「その彼の姿があまりにも不憫で…なぜそこまで禿げ上がっているのにそこまで自分を美化できるのか?その若さで私以上の禿なのに!」


 八光社長は息も荒く語った。


「そして彼は私に言ったんです」


(八光社長、禿は辛いですよね〜?私の様なおでこであったならそこまでして隠す事も無かったんでしょうが?)


(どうです?光丘の件、考えて頂けるならこの件はこの場だけの出来事と言う事で?)


 三柳担当の話をした八光社長は虚な目をした。


「もうですね、彼の自己陶酔する姿が目に焼き付いてしまって…もしかしたら私も禿と解ってしまったら彼の様に見られてしまうのかと言い様の無い不安と絶望感に襲われました。そして何故か私の頭の事をここまで言った彼ですが怒りなどは沸かず逆に彼への同情が湧き上がって来たのです」


 目を潤ませる八光社長。


「顔は悪く無い彼は若くしてこの困難に会いどれだけ苦悩したのかと…ここまで見事に禿げ上がった頭をおでこと本気で思わざる得ない程に…」


 今度はブルブルと震え出した。


「混乱していたんでしょうね…自身の保身もあったかもしれませんが彼の今後を思うと不憫過ぎて彼の提案を飲んでしまったのです…」


 …………

 ………

 ……


 長いよ!八光社長!

 結局は禿?禿が原因なのか?

 私の周り禿ばっかりだな!

 まるで自分の将来を聞かされる気分だ…


 そう思わず思っているとか一緒に黙って聞いていた彼女が何とも言えない労わる様な、期待している様な微妙な笑みを浮かべ私を見た。


 な、何その笑み!?

 俺は禿ないぞ?

 ちゃんと毎日ケアしてるし今は効果的な禿治療もあるんだからね!


 い、いかんいかん。彼女の獲物を狙う様な笑みに取り乱してしまった。


 彼女は私から視線を外し八光社長を見返す。

 ガックリとして俯いて低くなった頭はその雰囲気とは別にピカリと光を放っていた。

 まるで希望の光の様に…


「心配いりません」


 感情は凛として綺麗な声で言い放った。

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