第8話 混乱する禿
目の前にいるこの禿が八光社長だと?
人はここまで変わるものなのか?!
目の前に座っている男は先程のツヤツヤとした髪は無く戦で武勲を上げながらも敗れ、からくも落ちのびた落武者のごとく無惨に禿げ上がっており涙ぐましくも横髪を横に流して見事なバーコードを形成していた。
先程の将軍の様な覇気も無く俯き加減にこちらを伺っていた。
「八光社長… これは?」
訳が分からず聞いてしまった。
八光社長は彼女の顔を見た。
彼女は黙って八光社長を見つめている。
「じ、実は私はこの様な状態でして…お見苦しいところをお見せ致します」
つまり八光社長は禿であった事を鬘を被り偽っていたと。
確かには先程の様子は禿とは思えない程に自然な様子だった。よもや鬘とは思ってもいなかったがさすが彼女は最初から気が付いていたのだ。
が、これが何だと言うのだろう?
正直言えばこちらは八光社長が禿だろうがそうでなかろうが関係はない、問題は三柳に仕事を取られた事だ。
こんな立派なバーコードを見せられても言う言葉がない…
「これが原因だったのですね…」
彼女は諭す様に言った。
え?原因?禿が?それとも必要のまるでないバーコード?
まさか?そのバーコードに重要な情報があるとか?!
「三柳の担当者は私のこの状況を見抜きましてこのままだとうっかり他に話してしまうかもしれないと…」
「私のこの事は家族しか知りませんで…その…つい弱みを見せてしまい光丘さんへの依頼を一部渡す約束をしてしまいました」
禿を隠したかっただけ?
それだけ?
いや、本人にしてみれば重大な事かもしれないがそれでも契約を無視してまで隠す事なのか?
すると彼女が言った。
「八光社長、それだけですか?」
ええ、まだ何かあるのか?本城さんどこまで解っているんだ。
彼女を見ると何故か落ち着き余裕さえあるようだった。
「八光社長ともあろう方がご自身の状況のみで契約を破る事はされないでしょう?」
八光社長は驚きと共にそう言った彼女を見返した。
部屋のライトが八光社長の見事な頭にキラリと反射される。
奇妙な緊張感が漂っていた。
八光社長が重々しく口を開く。
「あなた…本当に全て解っているのですね…」
な、何が… もう私はこの時点でお腹いっぱいだ。
これ以上の展開は全く予想が出来ない。
八光社長を見ると部屋のライトが
ピカーン!
八光社長、頭すごく光ってます…
「三柳の担当者は強引で尚且つ自信家の方なんですがその…」
八光社長は言い淀む。
「その方も禿で…」
三柳の担当者も禿だと!?
皆んなどれだけ禿げ何だよ!?
彼女が来てから禿の情報が多くなって来ている気がする…
「禿ですか…?」
思わず聞いてしまった。
「はい…禿なんです…」
「そうですか…」
何だかこの会話がものすごく不毛な会話に思えて来た。
禿だけに…
「ですがその方は自分が禿とは微塵も思っていない人で…」
「どう見ても禿なんですよ!どっからどう見ても!ひょっとすると私以上に!」
急に言葉に力が入る八光社長。
「ですが私がそう思って彼の頭を見ていたらこれは禿では無くおでこだと…」
「おかしいですよね後頭部に届くかと思う程ツルツルに禿上がっているのにそれはおでこだなんて!」
そしてまたトーンダウンしてボソリと言った。
「私が彼の頭の事で混乱していると彼は言ったんですよ…」
「八光社長、あなた禿ですよね?と…」
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