第7話 脅迫
三柳に仕事を取られたのは驚いたがそれを暴いた彼女がなぜここまで動揺するのだろう。
いや、今はそれどころではない。三柳に取られた第三製造ラインはうちの設計課が総出で取り組んでいる仕事だ、専属契約までしていたのに…
「社長、どうしてですか?第三製造ラインは専属契約を結んでいる依頼ですよ?」
「そ、それは…」
八光社長の様子がおかしい。契約を交わしている依頼を他所に回すなんて事は余程の事がない限り責任問題になる。八光社長もわかっているはずだが。
「三柳さんは違約責任も含めて受けると言われてですね…」
違約責任、確かにこのままいけば契約不履行でうちに賠償しなければならないが。賠償額も安い金額ではないはずだ、それを払ってでもこの依頼を取るメリットが三柳にありのだろうか?
「違いますよね?」
さっきまで何故か驚き混乱していた彼女が突然発言した。先程の混乱はもう無く今はいつも通りの凛とした彼女だった。
「え?」
思わず声が出てしまった。
何が違うのか?
「八光社長?」
彼女が八光社長を冷静な目で見つめる。
「まだ隠されるんですか」
そう言った彼女の目線は八光社長の頭をじっと見つめている。
八光社長もその目線に気がついたようだ。
しばらく沈黙が続いた後。
「本城さんと言われましたか…」
まずいな、流石に気分を害されたか?
「あなたはわかっていらっしゃるのですね…」
八光社長は観念したかのように呟いた。
彼女は小さく頷く。
「そうです、私は三柳の担当者にある事を公表されたくなければ仕事を回すように言われました」
そ、それは脅迫なのでは?
「脅迫されたんですか?」
八光社長はまた沈黙してしまった。
そんなに公表されたくない事があるのだろうか。
「綺麗な黒髪ですね?」
その言葉に八光社長はビクッとした。
そしてずっと頭を見ていた彼女がついに髪について話し始めた。
「まるで20代の頃と変わらない色艶、そしてボリューム」
彼女が壁をゆっくり目やる。
そこには八光社長の若き頃の写真が飾ってあった。
この部屋に入った時、彼女はこの写真を見ていたらしい。
なるほど言われてみればこの時の髪に似ている。写真では顔は若いが髪はほとんど同じに見える。
「お手入れも大変そうですね」
ガタッ!
突然、八光社長が立ち上がった。
「申し訳ありませんが少々お待ち下さい」
そう言うと部屋を出て行った。
「本城さん、あれはどう言う事なんです?八光社長がこれ以上何を隠して?」
彼女は出されたお茶を静かに飲んで言った。
「課長、直ぐにわかりますよ」
全てを悟ったかの様な笑みを浮かべて私を見る。
いや、さっき彼女も驚いてたよね?あれは何だったんだ?
「本城さんもさっき驚いた様子だったじゃないか?あれは?」
彼女は左手人差し指を立てて顎に当て考えるような仕草をする。
その仕草が何とも可愛らしく見えたのは内緒だ。
「あれですか… まさか三柳の事を言われるとは思っていなかったのでちょっと想定外だっただけです」
三柳の件が想定外?その他に何があるのか…
ガチャ!
「お待たせしました」
八光社長が戻って来た。
しかし何だか様子おかしい。
気のせいか部屋がさっきより明るくなった気がする。
八光社長が目の前に座る。
「誰?」
目の前にいたのは貫禄のある輝きを放っている禿だった。
「すみません、八光です…」
その禿は恥ずかしそうに頬を赤ながら八光と名乗ったのだった。
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