第6話 隠し事

 少々…いやかなり衝撃的な事があったがそのまま二人で挨拶先へ向かった。


 株式会社八光製作所、ここは小物金属部品を製作しておりその加工機械をうちに設計から任せてもらっている会社だ。

 受付を済ませ応接室に通された。


 出されたお茶を啜りながら無言のまましばらく二人で待った。彼女は壁に飾られた事業内容のポスターや会社の活動が書かれた資料をキョロキョロと見ていた。


 ガチャッ


 扉が開かれ一人の男が入って来る。


「お待たせしてすみませんね」


 八光製作所の社長、八光将輝はっこうまさき

 54歳、大手の製作所に勤めていたがそこを抜け自分で開業し幅広い加工品を手掛け全国展開している。


 しかしいつ見てもビシっとした髪をしている。

 白髪一つ見えない。染めているのだろうか。


「お世話なります。本日は弊社の設計担当が新しく入りましたのでご挨拶に参りました」


「この度設備設計に配属されました本城三上と申します。よろしくお願い致します」


 新入社員とは思えない程落ち着いた雰囲気で彼女は挨拶をした。


「代表取締役の八光将輝です。」


 お互いの名刺を交換する。


「いや〜光丘製作所さんは美形の方が多いですね」


 確かに彼女は綺麗だが…


「田辺さんの担当される設計の方達は特に芸能事務所かと思う程ですよ。新しく入られた本城さんもお綺麗だ」


「恐縮です、ご依頼の方も見劣りしないよう努めてまいります」


 彼女は凛として答えるが視線が八光社長の一部に注がれている。

 一部とはもちろん頭だが八光社長は禿ではなくむしろ黒々と艶があり多い方だ。


「いやーしっかりとしたお嬢さんだ。光丘さんはこれからも益々活躍されるでしょうな」


「ありがとうございます。彼女は優秀なので今まで以上にご協力できると思います。よろしくお願い致します」


 そう言って頭を下げたが彼女は八光社長を見つめたまま動かないでいる。


「そうですね、よろしくお願いします」


 八光社長もそう言って頭を下げる。

 八光社長は彼女の事はあまり気にしてしていないようだった。

 彼女が頭を下げなかった事で気にされるかと思ったがよかった…

 そう思った時、彼女が突然話し出した。


「八光社長、初めてお会いしてこんな事を言うのは失礼だと思いますが…」


 え?何? 何を言い出すんだ!?


「な、なんでしょう?」


 八光社長も驚いている…

 ん?いや何かいつもと違うな。

 なぜか目が泳いで落ち着かない感じだ。


「隠しておられるのでしょう?」


 はい?何を?


 彼女の突然の言葉に怒るのかと思ったが八光社長は益々目が泳ぎ挙動不振になった。

 この会話で通じているのか?何か心当たりがあるのだろうか…


「社長、私は今回初めて御社へ訪問させて頂き会社の雰囲気や働いていらっしゃる方達のお顔を見て素晴らしい会社と感じました」


 この娘は何を言っているのだろうか…


「皆さん誠実さで溢れておりました」


 八光社長がピクッとした。


「な、何をおっしゃっておられるのかわかりませんね」


 明らかに八光社長の様子がおかしい。

 本当に何か隠しているのか…


「最近ではありませんね?ずっと前からお隠しになっていますね?」


 初めて来た客先の社長相手にこの質問、彼女が何を考えているのか全くわからなかった。


「な、何でそれを…」


 八光社長は思わず発した言葉にしまったという顔をする。


「なぜでしょうか?」


 しばし沈黙が訪れた。


 八光社長がぼそりと話し出した。


「実は三柳設計みやなぎせっけいさんに…」


 それを聞いた田辺は突然立ち上がって聞いた。


「ま、まさか」


 八光社長を見つめる。

 八光社長は焦ったように話し始めた。


「三柳設計に強引な方がおられまして、光丘さんの専属依頼を回すように言われまして…」


 三柳設計… うちより大きな会社であるが業界では色々と噂のある会社だ。


「私共への依頼を三柳に依頼したんですか?」


 八光社長はしばらく黙って動かなかったが小さく頷いた。


「どんな依頼を三柳に回したのですか?」


 八光社長はボソリとと言う。


「だ、第三製造ラインです…」


「今度増設する新ラインじゃないですか、あれは今弊社で設計を行なっているんですよ?」


 八光社長は益々小さくなり下を向いてしまった。


 ふとこの件を暴いた彼女を見ると何故かすごく驚いた顔をしていた。


 え、何で?


「本城さん?大丈夫?」


「え、あ、だ、大丈夫でし」


 でし?


 こんな慌てた彼女を見るのは初めてだ。

 三柳の件を暴いた彼女がなぜだろう…

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