第5話 これはおでこだ!
「聞こえなかったのですが?ハ!ゲ!直していらっしゃい」
「ブフッ!」
いかん、思わず吹いてしまった。
「なんだと、俺が禿だと言うのか!?」
いやいや、禿てますよね?
「その頭、典型的なAGA Ⅶ型。そのお年でそこまで進行してしまうとはよっぽど努力して来なかったのでしょう。ちゃんとケアをすればそこまでならなかったものを…」
「し、失礼なやつだな!俺は禿ていない!これはおでこだ!」
まずい、また笑いを堪えられない。
「クスクス…」
周りに数名居た人達も思わず笑っている。
「そこまで愚かとは…いいですかあなたは禿!その太陽の光を一身に集めるその照かり。禿でなければなんだと言うのです?おでこ?そんな禿散らかしたおでこがありますか?」
「いや…だってみんな俺は禿じゃないと!」
男は周りの状況を見て慌てた。
「ふう… あなたの周りにはそんな人しか居なかったのですね。こんな事をあなたに言っても私にミクロも利になりませんが」
ゴクリッ
周りには妙な緊張が走った。
「禿である事を認めず誤魔化した人生を送っても誰もあなたを見てはくれません、禿のあり方を身につけなさい。あなたは容姿は良いかもしれません、でもそれは両親があなたを産んでくれたおかげ。そして禿である事はあなたの運命!」
「人はあなたを見てどう思うでしょうか?顔が良くても禿?尚且つ人の事を考えない自己中な人?」
「良いところが一つだけしかないではないですか、それよりも禿てるけど顔は良い、更に人の事を考えられる人となったらどうです?良い所が二つ。そして人はその二つがあれば禿も良く見えて来るのです」
「自分に優しくする様に他人にも優しくしてあげなさい。自分の自慢に思えるところを見つけられるなら他人の良いところも見つけ褒めてあげなさい。自分に弱いところがあれば誤魔化さずそれを素直に打ち明けなさい」
男だけでなく周りに居た人達は黙って彼女の言葉を聞いている。
「禿はどうしようも無い事なのかもしれません、ですがそれに負けない様に努力をして来ましたか?私には今のあなたはそう見えない。だって何かを変えようとと努力している人が他の人を差別して見るでしょうか?どんな人であれその人の良いところを見つけそれが自分に無いものであれば参考にして自分を高める事ができるのではないですか?」
「う、うう…」
男は涙を流していた。
それはそうだろう自分の見ない様にしていた部分をこれだけ言われているのだ。下手をすると逆上して襲いかかって来るかもしれない。
「姉さん!」
男は急に顔を挙げ彼女を見つめる。
その顔は憑き物が祓われたかの様にスッキリしていた。
「目が覚めました!確かに僕は禿でした!」
バシっとツルツルの頭を叩いた。
僕?急にどうした?
「そうですよね、自分だけ見ていても何も成長しない。いろんな人のいろんな良いところを認める事で自分の良いところも認めてもらうえるんですよね…」
男は周りに集まっていた人達の方を向いた。
「皆様、おさがわせしました。すみませんでした」
そこにさっきまでの勘違い男は居なかった。
パチパチ
周りの見ていた人が拍手をしている。
「姉さん、気がつかせて頂きありがとうございました。あなたの様な人は初めて会いました。ぜひ!今後もご教授頂けないでしょうか?」
男は彼女に頭を下げた。
太陽の光が男の頭をキラリと爽やかに光らせた。
「分かって頂いて幸いです、ですがこの先の道はあなた自身が築いて行かなければなりません。私も私の目指す道を行きます」
彼女がチラッと私を見た様に思えた。
「そうですか…姉さんが認めた人なら僕なんかが敵わないですね」
男もチラリと私を見た。
「もっと磨いて出直して来ます!」
そう言うと男は一歩一歩踏みしめる様に歩いて行った。周りに居た人達もばらける。
そして彼女と私だけになった。
「本城さん、すごかったね。あそこまで言えるなんて」
「何もやってませんよ、禿あるまじき姿だったので少し熱くなってしまいました」
どうやらただの禿好きではないようだ…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます