神さんのコエ

@tsubaki17

第1話

たまにふと思い出す事がある。



「神様なんかいる訳ない」



当時、仲が良かったタケル君に言われた言葉。


その時、タケル君の側でいつも見守っている

白い着物姿のおじいちゃんみたいな神様が

とても寂しそうな顔をしていた。



幼い頃から神様が視えて当たり前だった自分にとっては結構傷付く言葉だったな……


何より、タケル君の側にいる神様が申し訳なさそうに俯きながら『すまない…』とボクに対して謝る姿を見て余計に辛くなった。


いるのになぁ…。

本当にそこに、いるのになぁ……。



ボクが10歳くらいの時の出来事。


あの時の握りこぶしを作りながら顔を伏せてるタケル君の姿と神様の申し訳なさそうな顔が忘れられない。





【自分には神様が視える】事が当たり前と先程言ったが、周りの皆は見えない事の方が当たり前のようだった。


その事に気づくよりも先に皆は僕の事を気味悪がって近づこうとしなくなり、小学生になるといつしか僕はクラスで孤立してしまっていた。


いくら言ってもどうせ分かってもらえないし、皆が気味悪がってくるので【神様が視える】事は言わないようになった。



寂しい小学校生活を送りながら僕が小学3年生になった時、タケル君がウチの小学校に転校してきた。


タケル君はクラスの皆とは馴染み辛かったようで、いつも一人でいるボクに対しては声をかけてくれた。


グループ分けの授業とか、遠足の時とか…

今まで一人で気まずい思いをしながらやり過ごしていたボクにとってタケル君の存在は大きかった。


気がつけば親友同然で放課後はいつも一緒に遊んでた。


ボクの家で一緒にゲームで遊んだりする日もあればタケル君の家で遊ぶ事もあった。


そういえば何故かいつも祖父母しかおらずタケル君の父親と母親を見た事がない。


共働きなのかな?

忙しいのかな?


ずっと不思議に思っていた。


ある日、タケル君の家にある広い庭で一緒に遊んでいた時の事。


今日もやはりタケル君の両親はいないようだ。思い切って「タケル君の父さんと母さん見かけないけど、仕事忙しいの?」と何気なく聞いてみた。


タケル君はなんとも言えないような表情をしつつ、事情を話してくれた。


どうやら交通事故で亡くなったらしい…。

それがキッカケで父方の祖父母に引き取られてこっちに引っ越して来たんだとか。


タケル君の家の中に上がらせてもらい、今まで入ったことのない部屋に案内されるとそこには立派な仏壇があった。


ご両親の遺影が置かれていたのだが、生前は『二人共周りの人に好かれただろうな…』と分かるくらい明るくて親しみやすい笑顔をしていた。


父親は小さな町工場を経営しており、従業員の皆に対して別け隔てなく接してよく冗談を言い、部下に悩み事がありそうなら飲みに誘って夜遅くまで愚痴を聞いてくれる人だったらしい。


母親は父親の仕事を手伝っていて、パートの人と一緒に伝票の計算や買い出しをキッチリこなしながら、たまに世間話に花を咲かせてストレス発散してるようなサバサバした人だったそうだ。


タケル君が仏壇に線香を炊いて目を閉じて手を合わせたので、僕も手を合わせて目を閉じた。



その後、両親が亡くなった経緯を教えてくれた。


家族旅行の帰りの道に土砂崩れに巻き込まれてしまったんだそうだ。



仕事で忙しい中、久々に予定が空いたので夏休み中に家族でキャンプへ行くことにした。


2年ぶりだった。


2泊3日のキャンプ旅行で2日目までは天気に恵まれ、家族でバーベキューや焚き火、釣り、ハンモックでのんびり休んだり…とにかく楽しく過ごせたらしい。



しかし、3日目になってから天候が急変し朝からどんよりとした黒い雲が空を覆ってしまっていた。風も少しずつ出てきてキャンプ場の木々がざわついていた。


お昼頃までいる予定だったが早めに切り上げる事にし、キャンプの後に行く予定だった温泉もキャンセルして自宅へそのまま向かうことにしたそうだ。


キャンプ場は山奥にあったため、道路が狭くグニャグニャと蛇行していて【落石注意】の看板がよく立っていた。


タケル君の父親は雨が降る中、慎重に運転しつつ「これ以上雨がひどくならなきゃいいんだがなぁ〜…」と心配していた。


しかし雨足はどんどん強さを増していき、車の中にいても激しい雨音が聞こえる程で、ワイパーで必死に雨を除けてもほとんど前が見えなかった。


「どこかに車を一旦停めて雨が落ち着いてから山を降りた方がいいんじゃない?」と母親が提案したので、なんとか一時停車できそうな所を見つけてしばし待つ事にした。



しかし1時間程時間が経っても一向に雨足が弱まる気配はないようで、


「参ったなぁ~…これじゃ全然帰れないよ」

「予報じゃ明日から天気が悪くなるって言ってたのにね〜」と両親がやりとりしていた時だった。


ザーザー雨音がひどい中で“ガラガラッ…”と遠くから異質な音が聞こえてくる。


タケル君は「ねぇ、何か【ガラガラ】って聞こえてくるんだけど…」と2人に声をかけた瞬間、地鳴りのような轟音と振動が車越しから伝わってきた。


「え⁉何?この揺れ…」

「マズイ!!土砂崩れだ!!」


タケル君の父親が慌ててアクセルを踏んでその場を離れようとしたのだが想像よりも規模が大きかったらしく、タケル君達の乗った車は流れてきた木々や土砂に飲み込まれてしまった。



タケル君が気がついた時には車は山の麓辺りまで落ちていた。幸いタケル君は無傷でどこにも痛みはなかった。


車体はひっくり返ってはいなかったがあちこちが凹んで変形しており、前の席は割れた窓から土砂が大量に入りこんでしまい、両親はかろうじて頭や腕が埋もれていない状態で気を失っていた。


「父ちゃん…!母ちゃん…!

しっかりして!!起きて!!」


2人の肩をどうにか揺さぶると母親は完全に気を失っており、父親がかろうじて


「……タケル…ごめんなぁ………せっかくの旅行台無しにして…ごめんなぁ…」


と呟いたきり、何も言わなくなってしまった。

タケル君は慌ててもう一度2人を揺さぶったのだが、反応は全くなく《もし父ちゃんと母ちゃんが死んじゃったらどうしよう…》と恐怖が込み上げ、思わず


「神様!父ちゃんと母ちゃんを助けて下さい!!オレはどうなってもいいから、とにかく2人を助けて下さい…!!」


何度も何度もそう叫んだ。

途中から泣いてた。


声が枯れて来た頃、たまたま車で土砂崩れの様子を見に来た人がタケル君の声に気付き、救急車を手配してくれた。


その場でどうにか3人共救助はされたもののタケル君を除いて両親はずっと昏睡状態であり、翌日には息を引き取ってしまった。




「あれだけ神様にお願いしたのに、その願いを聞いてくれなかった。父ちゃんと母ちゃんは死んじゃった。……神様なんかいる訳ない」


仏壇の前で詳細に語ってくれた後、タケル君は俯きながら手を握りしめて静かに泣いていた。


その言葉を発した時、いつもタケル君のそばにいる白い着物を着た神様が

『ワシにもっと力があったらなぁ…すまんなぁ、タケル。…進之介君もちゃんとワシが視えているのに辛いだろう、すまない…』と謝った。


神様だって自分の存在を否定されてきっと辛いはずなのに、ボクを気遣ってくれる事が余計に辛かった。



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