第30話『パンドラの箱?』
「………………は?」
大きく口を開けて呆けるボスさん。
あーあ、言っちゃった。
まぁここで正体をバラしたところで騒ぎになることもないし、いいんだけどね。
「何を馬鹿な。貴様が魔王だと? そんな事、あるわけがないだろう」
「そう?」
「そうだとも。魔王というのは邪悪で、強大な存在だ。貴様のような童女であるわけがない!!」
ビシィっとイリィナ様に向けて指をさすボスさん。
普通に不敬だけれど……でも、その気持ちわかるな!!
なにせイリィナ様はお美しく可憐だからね。
そのお姿を見ただけじゃ魔王だなんて分からないとは思う。
普通は天使と見間違えちゃうよね!
「はぁ……。やれやれ。信じてもらえないだなんて悲しいわ。もっとも、あなたが信じようが信じまいが関係ないのだけどね。あなたの許可なんか得ずとも、同胞は返してもらうし、あなたには罪を償ってもらうのだからね」
ゆっくりとボスさんに向かってゆくイリィナ様。
だけど――
「イリィナ様。魔族の子供たちを救う件については俺も賛成です。しかし、こいつも所詮は利用された身との事。こいつに罪を償わせても根本的な解決とはなりませんが、その辺りはどうしますか?」
このボスさんをイリィナ様が断罪する前に、これだけは聞いておく。
けど、その点はきちんとイリィナ様も考えていたらしく。
「そうね。根本的な解決にはならない。けど、同胞を取り返してこの人間に痛い目を見てもらえば一時的に魔族たちを抑えられると思うわ。元凶である魔族探しはそれからね。それに、少し考え直したい事もあるし」
「考え直したい事?」
「なんでもないわ。とにかく、今は一刻も早く同胞を取り返すわ。もたもたしていると魔族達がこの街に攻めてくるかもしれないし」
それもそうだな。
こうして頑張ってジョバンニの街に魔族が攻め込まないよう頑張っているのに、時間切れで抑えきれなくなった魔族たちがジョバンニの街を攻めてきてしまったら元も子もないしね。
なーんて思っていたら。
そいつは来た。
「キーヒヒヒヒヒヒヒ。ヒヒ。ナンダナンダヨナンデスカァ!? モメテルヨウデスネェニンゲンドモ!! ナカヨクナカヨク。サイゴクライミンナナカヨクシロヨー。キーヒヒヒヒヒヒヒ」
とても耳障りな笑い声をあげる存在。
そいつは――
「お前は………………どちら様?」
「あなたは………………誰なんでしょう?」
カタカタカタと木で出来ているような体を震わせながら笑う存在。
もはや男か女かも分からない。
ただの人形のようにも見えるし、魔物のようにも見えるし、魔族のようにも見える。
少なくともゲームでは登場しなかった存在だ。
「その耳障りな笑い声……まさかキオノピー?」
「オヤ? オヤオヤオヤ? ボクノコトヲシッテクレテルノカナオジョウサン!! イヤァウレシイナァ。ボク、オシャベリデウザイカラッテタンドクコウドウニマワサレルノガオオイカラサァ! ボクノコトヲシッテルキミニデアエタコノキセキニカンシャァ!!」
イリィナ様はこいつの事を知っているらしい。
「イリィナ様。こいつは?」
「キオノピー。どこの隊にも属さず、直接宰相に仕えていた魔族よ。あまり姿を現さず、人間領で活動中とだけ聞いていたけど……」
「え? つまりこいつ、魔族なんですか?」
「そうよ」
そっか。こいつ、魔族なのか。
それなのにこいつ、素顔を晒してるイリィナ様を見てお嬢さんって。
つまりこいつ、イリィナ様を見ても魔王だと気づかなかった訳で。
「イリィナさん……。あなた、どれだけ魔王城に引き籠ってたんですか? 同族の魔族にも知られていないなんて……」
「引き籠ってない……訳じゃないけど仕方ないでしょう!? 今まではジーが『魔王様には魔王様にしかできない役目があります』って言って私をあまり魔王城から離そうとしなかったんだから! だから今回が初めての遠出なのよ!」
同族の魔族にも魔王だと気づかれないイリィナ様。
もっとも、それも当然かもしれない。
なにせイリィナ様の存在が多くの存在に知られてしまえば、みんなイリィナ様を敬ってしまうだろうからな。
そうしたらイリィナ様はたちまち魔族界の超時空アイドルになっていただろう。
だからそれを恐れた宰相はイリィナ様を魔王城に閉じ込めたのだ。
そうに違いない。
「――つまりイリィナ様の可憐さは世に出せないほどの物だと。そういう事か。そんな特級アイドルを俺は世に出してしまって……。あぁ、これから先どうなるのか。俺は恐ろしい……」
「ねぇセーラ。ヴァリアンは何を言っているの?」
「いつものやつですよ。イリィナさんもいい加減になれたらどうですか?」
「いつものって……。はぁ。正直、一生慣れる気がしないわ……」
解き放ってはいけないパンドラの箱。
その箱からは数多の災厄が飛び出し、中にはたった一つの希望が残ったと言う。
俺はそのパンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。
解き放たれたのは全世界にイリィナ様の可憐さが広まり、世界中がイリィナ様をめぐって争うという絶望。
そうして残った希望はもちろんイリィナ様ご本人だ。
「――キオノピーか。ちょうどいいところに来てくれた。助けてくれ」
「アァン? タスケテダッテ?」
「あぁ。今、魔族の奴隷を解放しようとしているこいつらと対峙していたところでな。そしてこいつらは私の部下を瞬殺できるほどの実力者。とても私の適う相手ではない」
「フーン。デ?」
「このままでは私は貴様から預かった魔族の奴隷達をみすみす逃がしてしまう事になる。そうなったら貴様にとっても不都合だろう?」
顔見知りらしいボスさんと新手の魔族キオノピー。
ボスさんは俺達をどうにかする協力をしてくれとキオノピーに頼んでいるようだ。
「ウーン。ソウダネー。コマルネー。マゾクノドレイタチ。アレヲニガサレルノハコマルネー。デモダイジョウブダヨ! ボクニマカセテ!」
ドンと自身の胸を叩くキオノピー。
なにやら自信満々の様子だ。
「クク。心強いな。さて……ここまでだ貴様ら。こう見えてもキオノピーはかなりの力を持つ魔族らしくてな。その実力はかの四天王に匹敵するそうだ。つまり……どういうことか分かるか?」
超自信ありげな笑みを浮かべるボスさんと、その後ろでニコニコ笑っているキオノピー。
正直、俺にはどうしてこいつらがこんなに自身満々なのかが理解できない。
さらについでに言わせてもらうと、『どういうことか分かるか?』と言われても普通に分からない。
「つまり――お前らはここで死ぬという事グホァッ!?」
「ボスさん!?」
どや顔で勝ち誇っていたボスさん。
そのボスさんが後ろに居たキオノピーの手によって腹を貫かれていた。
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