第28話『案内された先』


 冒険者パーティー『シタサン』へと案内された先。

 奴らはそこで俺達を四人(一人途中で消えたから実際は三人だけど)でフルボッコにしようと考えているのだろう。

 そう俺は思っていた。

 けど、違った。


 案内された先。

 そこには――



「シューよ。よくぞ戻った。と言いたいところだが……なんだその仮面の三人組は? 知らない者達をぞろぞろと我らのアジトに連れてきて。いったい何のつもりだ?」


「へい、ボス。こいつら魔族の奴隷について探っていやしたんで連れてきました。ここで何を企んでいたのか吐かせるつもりっす」



 ――なんだか柄の悪そうなお兄さん達がたくさんいらっしゃった!?

 俺達をここまで連れてきたおっさん冒険者は見るからにボスと思われる男にペコペコと頭を下げているし。


 そのボスさんは顔に色んな文様を刻んでいてなんだか『いかにもボス!』って感じだし。

 これは一体?


「――冒険者パーティー『セーヴァ』が魔族の奴隷について探っているらしいというのは聞いている。そいつらがそうか?」


「あぁ、ボスの耳にももう入ってましたか。ええ、少なくともこいつらは確実に魔族の奴隷について探っていましたぜ。もっとも、こいつらがあの冒険者パーティー『セーヴァ』だとは思えませんがね。声もまだガキっぽかったですし」


 そんなおっさん冒険者の報告を聞いたボスさんは「はぁ……」と額に手を当てて大げさにため息をつく。


「……シューよ。冒険者パーティー『セーヴァ』はそもそも子供二人で構成されているという噂もある。知らないのか?」


「へ!?」


 へー。そんな噂があったのか。

 まぁ。実際その通りなんだけど。

 顔さえ見られなきゃいいと思って声とか偽装してなかったしね。



 ボスさんの言葉を聞くなり俺達から少し距離を取るおっさん冒険者。

 その仲間の二人も俺達を初めて警戒しはじめたね。

 しかし――



「――とはいえ、その三人は『セーヴァ』ではないだろう。そもそも、『セーヴァ』は仮面で顔を隠しているがゆえに偽物も多く出没しているしな。それに『セーヴァ』は二人組のパーティーだ。三人居る時点で本物の『セーヴァ』である可能性は低い」


 それを聞いてほっとする冒険者パーティー『シタサン』の皆様。


 いや、俺達『セーヴァ』で合ってますからね?

 俺とセーラの二人で『セーヴァ』やってましたからね?

 イリィナ様を連れて三人になってるからって警戒を緩めすぎじゃないかな?



「へへ。なぁんだ。驚かさないでくださいよボス。無駄にびびっちまったじゃねぇですか」


「シューよ。相手が子供だからと気を緩めるなよ?」


「へへ。分かってまさぁ。さぁて……それじゃあそろそろ尋問の時間といくかぁ。先に言っておくが助けが来るなんて期待はするなよ? なにせここは俺達『イルジオーネ』のホームなんだからなぁ。へへへへへ」


 パキポキと拳を鳴らしながら威圧してくるおっさん冒険者。

 ってあれ?

 イルジオーネ?


 それって確か――



「イルジオーネって確かこの街を裏で支配しているっていうあの?」


「ほぉ、さすがは『セーヴァ』ごっこしてただけはあるな。そのくらいは知ってるか」


「あの魔族の奴隷を売買しているっていうあの?」


「あぁ、その通り。真相が知れて満足か? ガキ」



 自信満々に答えてくるおっさん冒険者。

 そうかそうか。

 お前らが魔族の奴隷を取り扱っているという元凶か。


 つまりはこの街一番の冒険者パーティーらしい『シタサン』は『イルジオーネ』という巨大組織の一部でしかなかったと。

 冒険者やりながら奴隷売買にも手を出していたと。

 そういう事か。


「ふっふっふっふっふっふっふっふっふ」


「あぁ? 何をいきなり笑ってやがる。恐怖で頭がイカれたか?」


「いや、そういう訳じゃないよ。ただ嬉しくてな」


「嬉しい?」


「まさか話を聞こうと思って向かった先がゴールだったとは。今日の俺ってなかなかに運がいい。そう思わないか?」


「???」


「だからさ――」



 訳が分からないといった感じで首をひねらせるおっさん冒険者。

 俺はそいつを諭すようにそっとその胸に手を当て。



「――わざわざアジトに連れてきてくれてありがとう。ここなら多少派手にやっても問題ないよな? って事だよ」



 おっさんの胸に手を当てたまま。

 俺は少し力を入れておっさんを押した。



「――なぎゃべっ!?」



 あっけなく吹き飛ぶおっさん。

 建物の壁に激突したところで止まり、そのままおっさんはその場で倒れた。



「「「なっ!?」」」



 おっさん冒険者がやられた事で騒然とするおっさん冒険者の仲間と『イルジオーネ』の連中。

 ボスっぽい人も目を見開いてこっちを見て驚いてるね。



「さぁて。魔族の奴隷を解放してもらおうか? そうすれば殺しはしない。――それでいいですよね? イリィナ様」


「ええ。返してもらえればそれでいいわ」



「もっとも、殺しはしないだけで捕らえはしますけどね。きちんと法の下、裁かれるように手配させていただきます」



 ここまで来れば後は暴力の問題だ。


 捕らわれた魔族の奴隷を救い出す。

 捕らえた奴を痛い目にあってもらう。

 そうすれば今回の俺たちのミッションは完了だ。



「この子達……なんなの!?」


「おいおい、なんだよ。なんなんだよぉこいつらっ!? おいヴィルサ! いつものお前の勘は一体どうなって……って居ねえ!?」



 今更になってお仲間が居ないことに気づいたらしいこの街一番の冒険者パーティー『シタサン』。

 先に逃げたあの男はヴィルサというらしいが……あいつだけは賢かったな。



「そしてお前らは馬鹿だな」



 最初に吹き飛ばしたおっさんと同じように軽く二人も吹き飛ばす。

 ズダァンッと派手に壁に突っ込んだけど、この街一番の冒険者パーティーらしいし生きてはいるだろう。多分。


 そうして俺が速攻で冒険者パーティー『シタサン』のメンバーを片づけると。


「ちょっ、こいつらヤバ。逃げ――」


 そう言って逃げ出そうとする『イルジオーネ』のメンバー達。

 だが。


「はーい、こちらは通行止めでーす。ヴァリアン様の為、大人しくしていてくださいねー」






 その逃げた先にはセーラ。

 彼女はお得意の魔術で次々とイルジオーネのメンバー達を昏倒させていく。

 俺なんかよりもよほどスマートなやり方だ。

 そして次々と向こうの戦力は削られていき。

 

「さて――それじゃ私の相手はあなたという事になるのかしら?」


 残ったイリィナ様はこんな事態にあっても微動だにしない『イルジオーネ』のボスと対峙していた。


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