第27話『賢いレンジャーさん』
俺の目の前でなぜか思いっきりブチギレている見ず知らずのおっさん。
どうでもいいけど、
「おいおい、どうしたよシュー。揉めてるのか?」
「いったい何をやって……。なんだ、相手は子供じゃない。この子たちがどうかしたの?」
「あの黒い仮面……どこかで見たような……」
そうしている内におっさんの仲間らしき人たちまで来てしまった。
これがおっさんのパーティーか。
パーティー名は確か……『シタサン』だったっけ?
憶えておく価値もなさそうだし、明日には忘れてるだろうな。
「おぉ、よく来てくれたなてめぇら。なに。こいつらが魔族の奴隷について探ってやがったみたいなんでな。ちょいと話を聞こうとしていただけだ」
「「「ん?」」」
一声に
えぇっと……魔族の奴隷?
確かに俺たちは魔族の奴隷について探っていた。
けど、なんで冒険者パーティー様がそんな事を気にする?
何かのクエストか?
「へぇ、それで? 何か聞けたか?」
「いいや、まだだ。生意気な口を叩くばっかりでな。まだ本題にすら入れてねえよ」
「もう。それはシューが高圧的すぎるからでしょう? ねぇ君たち、魔族の奴隷について探ってたのって本当? どうしてそんな事を探ってたのか、お姉さんに教えてくれない?」
俺達と目線をあわせるように少し屈む女冒険者。
完全にこっちの事を格下だと思っているみたいだ。
好都合だ。
こいつらが魔族の奴隷について何か知っている可能性もあるし。
せいぜい油断させておいて情報を引き出してやろう。
そうなると演技が必要だな。
ここはひとつ、初心者冒険者らしくしてみようか。
そうして、自分たちが魔族の奴隷について探っていた事を肯定しつつ相手の出方を
よし。
やるぞ!!
「どうしたの? もしかして照れちゃってるのかな?」
「はぁ? 何を言っているんですかこの勘違いの行き遅れ女は。ヴァリアン様があなたに対して照れるなど。そんな可能性などないに決まってるでしょうに。身の程を知ってください」
「そうだぞババア。とりあえず鏡見てから物を言え。お姉さんっていうツラか? あぁ? 整形して生まれ変わってそこからさらに輪廻転生してから出直してこい」
「な!?」
「ちょ、あなた達……」
あ、しまった。
俺もセーラも。ついつい思ったことをそのまま喋ってしまった。
でも仕方ないじゃん。
だってあまりにも馬鹿な事をこのババアが言うんだもの。
おっさんとおなじく30超えていそうなババアは墓の下にでも埋まっていて欲しい。
「な、なかなかに生意気な子たちね……」
「あぁ、だろう? いやぁ、冒険者はこうでなくちゃいけねえよなぁ。とはいえ、生意気が過ぎるみたいだが」
ゴゴゴという感じで怒っている様子のおっさん&ババア。
とても冷静に話し合いをという雰囲気ではない。
「ちょっと。どうするのよヴァリアン。魔族の奴隷について何か知っていそうな人たちだから探りたかったのに。これじゃ話し合いすらできないじゃない」
「申し訳ありませんイリィナ様。ついつい本音が漏れてしまったんです」
「馬鹿なの!?」
「言いすぎですよイリィナさん! ヴァリアン様は馬鹿なんかじゃありませんっ。ただ、少し抜けてるだけです」
「いや、今回に関してはあなたも同罪だからねセーラ!? あなたもこの人たちにいきなり喧嘩売ってたじゃない」
「それは仕方ありません。だってこの人たち、ヴァリアン様に喧嘩を売ったり馬鹿な事を言ったりするんですから。先に喧嘩を売ってきたのは向こうなので私は悪くありません」
「最初に殺気を向けたのあなたよね!?」
うーん、困った。
争うつもりはなかったんだが……。
そもそも、イリィナ様が居る状態で騒ぎを起こしたくないんだよなぁ。
ここで何かやらかしたら肝心の魔族の奴隷を助け出せなくなるかもしれないし。
「おいおい、こんな時に仲間割れか?」
「ふふっ。今さら後悔しても遅いのよ」
「今、魔族の奴隷って言ってたな。どうやら本当に何か探ってたようだ。詳しく話を聞かせてもらおうじゃないか。まずは……そうだな。落ち着いて話し合いが出来るところに心当たりがある。大人しくついて来な。もっとも、嫌でも来てもらうけどなぁ」
「……なんだろう。嫌な予感がビンビンする。レンジャーとしての俺の勘が全力で逃げろと言っている気がする……」
ニヤニヤと笑いながら俺達を囲む冒険者パーティー『シタサン』。
逃がさないつもりらしい。
もっとも、俺達を囲んでいるうちの一人はニヤニヤと笑うどころか顔が引きつっていて、なんだか妙に帰りたそうだったが。
「えーと。つまり俺達をひとけのない場所に誘ってゆっくり『お話』しようと。そういう事か?」
「ハハッ。こいつ、いっちょまえに虚勢張ってやがる」
「そうでちゅよ~。ゆーっくり私たちとお話しましょうね~」
うーん、舐められてる。
四人のうち一人だけ俺達を警戒しているヒョロそうな男が居るが、それ以外の奴らは完全に俺達を舐めている。
こうやって脅せばホイホイと簡単についていく雑魚。
そんなふうに俺たちの事を評価してるんだ。
最高だな!!
できれば四人全員俺たちの事を舐めてかかってきてくれたら嬉しかったが、
「――分かった。大人しくついていく。だから二人には触れるな」
「ヴァ、ヴァリアン様……」
「ヴァリアン?」
こいつらが二人に触れるなんて。いくら舐められていた方が好都合とはいえ、我慢できそうにないからね。
イリィナ様は俺の推しだから誰にも触れさせたくないし。
セーラの事も俺は気に入ってるからこんな奴らには触れさせたくない。
もしこんな奴らが二人に触れようものなら俺は速攻でキレてしまうと思う。
そう思っての発言だったのだが。
「ひゅー。格好つけるねえガキが。その虚勢がいつまで続くか見ものだぜ」
「ホントホント。いいわよぉ君。大丈夫よ任せなさい。あなたが折れたり、お嬢ちゃん達が逃げたりしない限り、お嬢ちゃん達には触れないと約束するわぁ」
「いいねえ少年。そうだその意気だぞぉ。女の前でくらい格好つけないとなぁ。クク。仮面の下がどうなってるのか楽しみだぜ」
都合のいい解釈をしてくれる冒険者パーティー『シタサン』。
とてもいい性格をしているようで、これなら俺も罪悪感を抱かずに済む。
そうして。
俺たちは冒険者パーティー『シタサン』に案内されるままひとけのない方へと向かう事になった。
なお、その途中。
「………………………………ヤバイ。絶対ヤバイ。鳥肌が立って……こんなの初めてだ。すまん、俺、逃げるわ(ダッ――)」
冒険者パーティー『シタサン』のレンジャー役の男が誰にも気づかれないようにこっそり逃げた!
もっとも、気づいてないのは冒険者パーティー『シタサン』の残りメンバー三人だけで、俺たちは気づいてるんだけどね。
「――どうしますか、ヴァリアン様?」
「別に? 放置でいいと思うけどな。イリィナ様はどう思います?」
「ヴァリアンと同じ意見よ。私たちに害を与えるつもりもなかったみたいだし。放置でいいんじゃないかしら?」
「なら、放置で」
「分かりました」
あの名も知らぬレンジャーが俺達に何かした訳でもないしな。
それに、まだ周りには人が少し居るし。
ここで無理に捕まえようとすると騒ぎになるかもだし、放っておこう。
名前すら知らないレンジャーさん。達者でな!
そのまま俺たちは仲間のレンジャーが欠けた事にすら気づいていないこの街一番の冒険者パーティー『シタサン』の案内されるままに入り組んだ道を進んでいくのだった――
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