第26話『魔族奴隷を探せ』


 ジョバンニの街の冒険者ギルドへと向かった俺達。

 そこで俺たちは受付の人に魔族を捕らえている奴隷商人は居るかと尋ねてみたのだが。



「魔族を捕らえている奴隷商人に心当たりがあるか……ですか? そういえば聞いたことがありますね……。今のところ被害報告はないんですけど、魔族の子供を捕らえて売りさばいている奴隷商人が居るらしいです。とはいえ、変わった方ですよね。魔族を捕らえるくらいなら普通に獣人かエルフを捕らえる方がいいでしょうに」


 ギルドの受付嬢たちからはそういう奴が居るという噂をゲット。

 次に周囲に居た冒険者達に奴隷売買のオークションについて尋ねて。


「奴隷売買のオークション? あぁ、確かにやってるな。この街で毎週行われてるはずだ。今日も夕方からやるはずだぜ? もっとも、多くの貴族とか権力者が絡んでるからうかつに手を出さない方がいいと思うがな」


 この街で行われるという奴隷売買のオークションの情報もゲット。

 ご丁寧に場所と開催時間に関しても詳しく教えてくれた。

 そうして情報を集めている内に俺たち『セーヴァ』がマニアックな奴隷を探しているという噂が広まったらしく。


「クックック。まさかあの冒険者パーティー『セーヴァ』の皆様が奴隷をご所望とは。どのような奴隷をお探しで……え? 魔族の奴隷? 申し訳ありません。当商会では扱っておりませんね。そんなものを扱うキチガイなど『イルジオーネ』くらいのもので」


 しまいには奴隷商人の方からそんな商談をしにやって来て、魔族の奴隷を扱っているのは『イルジオーネ』とかいうこの街を裏で支配している感じの組織のみだと教えてくれた。


 そうしてトントン拍子に情報は集まっていって。


「あまりにも簡単すぎるな」


「ですね」


 俺とセーラは上手くいきすぎているこの現状を逆に怪しんだ。

 するとイリィナ様は首をかしげて。


「簡単すぎる? それ、何か悪い事なのかしら? 今のところ問題は起きていないし。うまくいくのは良い事だと思うのだけど……」


「……そうですね! うまくいくのはいい事だ! さすがはイリィナ様です!」



 イリィナ様の意見を聞いて、俺は音速で抱いていた疑念を放り投げた。

 イリィナ様が問題ないって言うんなら問題なんてあるわけがないしね!

 俺の考えすぎだろう。


「この状況、まるで意図してばら撒かれた情報を拾っているような……。そんな違和感があるんですけどね」


 何か神妙な顔で考え込んでいるセーラ。

 さっきまでの俺と同じく、この上手くいきすぎている現状に疑念を抱いているのだろう。


 だけど、イリィナ様が問題ないといったら問題はないのだ。

 だから後は迷わず突き進むだけなのだ!



 とはいえ、魔族の奴隷を捕らえているという組織『イルジオーネ』のアジトの情報だけは集まらなかった。

 まぁさすがにアジトの情報まで簡単には手に入らないという事か。


 オークションは今日の夕方から始まるらしいし、それまで待っていてもいいのだが……。



 なんて事を考えていると。



「おい」


 考え事をしている俺へと何者かの声がかかる。

 振り返るとそこには冒険者風の男が居た。

 背丈ほどの長さがある大剣を背に担いだ少し野蛮そうな男。。

 見た感じ、30超えのおっさんだ。

 正直、そこまで強そうでもない。


 そいつが俺へと声をかけながら肩を掴もうとしてきて――



「セーラ」


「っ――――――」



 俺はセーラの名前を呼んで、彼女のやろうとしていた事を止める。

 その結果、無遠慮におっさんが俺の肩を掴んでくるけど。



「危なかった……。命拾いしたな、おっさん」


「はぁ? 一体なんの話だ?」



 いや、本当に危なかった。

 セーラに声をかけるのが一瞬でも遅かったらこのおっさんの命はなかったかもしれない。

 なにせセーラ、このおっさんに思いっきり殺気向けてたからね。


 このおっさんはセーラの殺気に気づいてなかったみたいだけど。

 気づいてたらセーラを警戒するかとっとと逃げ出すかするはずだ。



「いや、別になんでも。それで? なんの用だ?」


「なんの用ですか、だろ? 大人相手には敬語を使えや、ガキ」


「大人なら尊敬される行動しろよおっさん」


「んだとぉ……」



 俺が敬意を払うのはイリィナ様にだけだ。

 それ以外の奴に敬語なんて使う必要はない。

 なんて言いつつも使う時は使うけどね!


 ただ、いきなり無遠慮に肩を掴んでくるようなムサイおっさん相手に敬語なんて使う必要はこれっぽっちもないと思っている。



「仮面で隠れてるから顔は分からねえけどよぉ。見れば全員ガキじゃねえか。お前らみたいなガキの集まりが『セーヴァ』な訳がねえ。ごっこ遊びならお家でやってな……と言いたいところだが。お前らに聞きたいことがある」


「そうか。でも俺はお前に用はない。なんならムサイお前の顔を見ていると気分が悪くなってくるのでサヨナラだ。そんな暇があるなら永遠にイリ……わが麗しの女神を眺めていたいしな」







 ふぅ……危ないところだった。

 あやうくイリィナ様の名前を出すところだったぜ。

 人間領で魔王イリィナ様の名前は既に知られているからな。

 無暗にイリィナ様の名前を口にするのはやめておいた方がいいだろう。


 とはいえ、そうなると人前でイリィナ様を呼ぶとき不便だな。

 そういう機会が来ることをふまえ、何か偽名のようなものを考えておくべきか?


「――いやしかし、既にイリィナ様という素晴らしすぎる名前があるのに偽名を使わせるなんて不敬なんじゃないか? ここは発想の逆転として、イリィナ様の名前を聞いて取り乱した奴らの鼓膜こまくを潰すという方針の方が(ぶつぶつ)」


「いや何を言っているのヴァリアン!? 怖いのだけど!? そしてさっきからその人ものすごく怒っているようだけど大丈夫!?」


「さすがヴァリアン様です。相手を自然と怒らせるその姿勢、素晴らしすぎます! 後、心の声が漏れてますよ?」



 しまった。

 深く考えすぎてついつい思っている事を口に出してしまっていたようだ。

 そしてふと前を見れば――



「てめぇ……この俺を誰だと思ってやがる? この街で一番の冒険者パーティー『シタサン』。俺はそのリーダーのカレイ・シュー様だぞ? 俺を怒らせたらどうなるか……分かってんのか? あぁ!?」


 なぜだろう。

 見ず知らずのおっさんが思いっきりブチギレていた。

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