第24話『救出作戦』
「この世界がゲームで、私はどんな道筋を通っても勇者に殺されてしまう……ね」
こちら側の事情を全て話した後。
イリィナ様は軽くため息をつきながら小声でそう呟いた。
「厳密には俺がプレイしたゲームとこの世界が似てるってだけで、ゲームそのものなのかはわかりません。ですが、今のところ自分が手を加えた部分以外は全てゲームの展開通りになっています。実際、ジョバンニ襲来イベントもゲームに登場しました」
俺が動かなければセーラは今頃魔術ギルドの連中の人体実験に付き合わされていただろうしな。
こちらが何か手を打たない限り、この世界の事象はゲームの展開通りに動くと考えておいた方がいいだろう。
「別に疑ってはいないわ。あなた達の事は既に信じると決めたし」
静かにそう告げるイリィナ様。
こんな無茶苦茶な話でも信じてくれるとは。
それだけの信頼を俺とセーラは既に勝ち取っていたらしい。
「もちろん、
「それはそうでしょう。無理もありません」
自分が今居る世界がどこかの誰かが作ったお遊びのゲームのような世界で。
その中で自分が絶対に死ぬ運命にあるのだと言われて、すぐに呑み込めるわけがない。
少しでも俺の話に耳を傾け、信じてくれるというだけで十分すぎるくらいだ。
「でも、その話が本当であればあなたという存在にも納得がいくのよ。エリクサーを大量に所持している事も。あんな馬鹿げたレベル上げ方法を思いつき、それを実践してレベル99へと至ったことも。全て『最初から知っていたから』という事よね?」
「ですね」
俺が大量にエリクサーを生成できるのはゲームでその素材の場所や作り方を知っていたから。
レベル99に至れたのも、ゲームで効率のいいレベル上げ方法を知っていたからだ。
「なら、信じない理由がないわ。仮に私を騙すにしてももう少し信じやすそうな嘘をつくでしょうし。そもそも、あなた達ほどの強さがありながらこの私を騙すなんて。そんな意味なさそうだもの」
「当然ですよイリィナ様! 俺やセーラがイリィナ様を騙すなんて。そんな事、天地がひっくり返っても絶対にありえませんから!!」
イリィナ様を騙すくらいなら潔く自害するね!
それはセーラも同じはずで――
「あ、イリィナさん。肩に虫がついてますよ?」
「あら、本当?」
「ええ。取ってあげます」
「別にそれくらい自分で――」
「はい(ペシィンッ)」
「きゃっ――」
「あ、ごめんなさい。気のせいでした」
「セーラ……あなたねぇ……」
イリィナ様に対して唐突に理不尽な暴力(ビンタ)を振るうセーラ。
もちろん本気じゃなかったみたいだが、どう見ても今のはセーラがイリィナ様を騙したように見える。
………………うん。
「ご、ご安心くださいイリィナ様! 俺がイリィナ様を騙すなんて。そんな事、天地がひっくり返っても絶対にありえませんから!!」
「――そうね。あなたはそうかもしれないけど、セーラは私を騙すわね。いつか憶えておきなさいよ……」
あぁ、なんか二人が少し険悪な感じに。
仲が良いと思ってたけど、違うのか?
いや、喧嘩するほど仲がいいとも言うし、逆にこれが仲がいいって事なのか?
分からん。
「それでイリィナさん。さっき言っていたのはどういうことですか?」
「言葉通りの意味よ。いつかやり返してやるんだから。憶えておきなさいよ」
「いえ。そちらの方ではなく、『みんなの攻める理由そのものをなくしてやればいい』みたいな事を言っていませんでしたか?」
そういえばイリィナ様、そんな事を言っていたな。
アレがどういう意味の言葉だったのか、確かに俺もセーラも聞いてない。
「ああ、それね。単純な話よ。今回のジョバンニ攻め。これはジョバンニに囚われている同胞の魔族が居て、それを救うためのものでしょう?」
「そうみたいですね」
「なら、その囚われている同胞の魔族を先に救出してしまえばジョバンニを攻める必要はなくなる。そう思わない?」
あぁ、なるほど。
今回のジョバンニ攻めの目的がオークションにて出品される奴隷化された魔族を救う事なのだから、先にそれを救ってしまってジョバンニを攻める理由そのものをなくしてしまおうという話か。
「もちろん、それだけでは遺恨も残るでしょう。だから魔族達には『同胞を奴隷化した人間は始末した』と説明するわ。実際に魔族達を捕らえている奴隷商人は殺してもいいしね。……いいわよね?」
「大丈夫ですよ。ただ、できれば後で来た他の人が殺されている奴隷商人=悪いやつって分かるような感じにした方がいいと思います」
たとえば奴隷商人が無許可で魔族を捕らえ、奴隷としている証拠だったりね。
それを文章と共に死体の上に置いて、同じような文章をあちこちにバラまけば勇者も『無実の人間をよくも……』みたいな感じで怒ったりはしないだろう、多分。
うん、悪くない案だ。
ただ、一つだけ気になる事がある。
その事を俺はイリィナ様に聞こうとして。
「それでイリィナさん。肝心のその魔族の救出。いったい誰がやるんですか?」
俺がしようと思っていた質問を先にイリィナ様へとぶつけるセーラ。
それに対してイリィナ様はゆっくりとその指で自分を指さし。
「私と」
次に俺を指さし。
「ヴァリアンと」
最後にセーラを指さして。
「セーラ。この三人で救出に行くわ」
そう告げたのだった――
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