第23話『全幅の信頼』
迫るジョバンニの街襲来イベント。
それについて俺とセーラで話し合っている最中、唐突にイリィナ様が割って入ってきた。
「………………イリィナさん。もしかして今の話、聞いていたんですか?」
「ええ。最初からね。全て聞かせてもらっていたわ」
最初から俺とセーラの話を聞いていたというイリィナ様。
なんという事だ。
という事はつまり――
「もっとも、よく分からない単語が色々と出てきていたから全てを把握できたとは言えないけれどね。でも、このまま私がジョバンニ攻めに参戦した場合、その勇者とやらが私の事を恨み、そのせいで私は破滅するって事だけは理解したわ」
うーん、やはりか。全部聞かれてしまったらしい。
この世界が俺が前世でプレイしたゲーム世界である事とか、そういう根本的な事は知られていないみたいだけど。
――って待てよ?
さっきの俺とセーラの話を聞いて理解した……だと?
「イリィナ様。俺とセーラの話……信じたんですか?」
「? ええ。信じたわよ?」
え? 信じたの?
イリィナ様がジョバンニ攻めに参加した場合、勇者なる存在が出てきて後々イリィナ様が破滅エンドを迎えるって話をイリィナ様は信じたんですか?
こんな話、普通は信じない。
だってそんなの、未来を最初から知っていたりしない限り、分かるわけがないからだ。
そもそも、俺がイリィナ様に自分たちの事情を隠していたのは『この世界がゲームの世界』云々なんてトンデモ話、信じてもらえないだろうと思ったからで。
もう少し信頼関係を築いてからゆっくり話せばいいと。そう思っていたのだ。
しかし、俺やセーラの未来予測じみた物を信じると言うイリィナ様。
まだ出会って間もない俺とセーラのトンデモ話を信じるだなんて。
なんて……なんて……。
なんて素晴らしいお人なんだ!!
「もっとも、今は分からない事が多いけれどね。だからヴァリアン。あなた達の事情を教えられる範囲で教えてくれると助かるわ。無論、無理にとは言わな……なによ、その顔。キラキラした目でこっちを見て。少し怖いのだけど?」
「――ハッ。すみません。イリィナ様があまりにも素晴らしすぎて息をするのも忘れ見入っていただけです」
「どうしたの急に!?」
「急にじゃありませんっ! イリィナ様は常に素晴らしいです。その素晴らしさの前には全生命体が息をするのも忘れて見入る事でしょう。当然の事です!!」
「そんな訳がないでしょう!?」
謙遜するイリィナ様。
そんなところも素敵だと俺は思います。
「はいはい、ヴァリアン様。少し落ち着いてください」
「何を言ってるんだセーラ。イリィナ様の前で落ち着ける訳がないだろ」
「………………ヴァリアン様が落ち着かないせいで、イリィナさんが話を中断させられて迷惑そうにしていますよ?」
「(パァンッ!!)――――――落ち着いたよ」
イリィナ様の迷惑になる訳にはいかない。
俺は自分で自分の頬を全力で叩き、どうにかして落ち着きを取り戻した。
「………………やるわね、セーラ」
「いえ。私もこういう風に言った方がヴァリアン様をコントロールしやすいかなと思って試しに言ってみたのですが……想像以上でした」
「なるほど。けど……どうしてヴァリアンは私の事になるとここまでおかしくなってしまうのかしら? 少しは慣れたし、何か企んでいる訳でもないみたいだから悪い気はしないけれど……」
「あぁ。その辺りの話はこれから聞けると思いますよ?」
「そう? なら楽しみにしていようかしら」
なんかコソコソと話すセーラとイリィナ様。
俺だけ仲間外れにされてるみたいでほんの少しだけ悲しいが、女同士でしか分かり合えない話とかかもしれないし。あまり気にしない方がいいだろう。
「さて……ヴァリアン様。イリィナさんが私たちの事を信じてくれるのならもう全て話してしまってもいいんじゃないでしょうか?」
「全て?」
「はい。私に話してくださったヴァリアン様側の事情。目的。その全てです」
つまりはこの世界が『ファイルダー・レゾナンス』というゲーム世界と酷似している事とか。
俺が前世でそのゲームをやりこんでいた事とか。
その中でイリィナ様を俺が推していて、けどゲームでは絶対に最後に死んじゃうからその未来を変えようと努力している事とか。
そういう事を全て話してしまっていいんじゃないかって事か。
俺はほんの少しだけ考えて――
「そうだな。イリィナ様、お時間宜しいでしょうか? 少しお話したい事があるのですが」
結果、俺はイリィナ様の信頼が既に得られている今なら話しても問題ないと判断した。
ゲームにおいて破滅エンドを迎えるイリィナ様。
その本人である彼女にも事情を把握してもらった方がこっちも動きやすいし、色々と打てる手も増えるからね。
「ええ、大丈夫よ」
イリィナ様からもそう言ってくれているので。
その後、俺はイリィナ様にこちらの事情を全て話した――
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