第22話『イベント対策会議』
魔王イリィナによるジョバンニ襲来イベント。
このイベントにより、ジョバンニの街は崩壊する。
崩壊するジョバンニの街に遅れて到着するゲームの主人公。
そこで主人公は廃墟となった街で明らかに別格のオーラを出す魔王を発見し、そこで戦闘となる。
その戦闘は強制イベントであり、主人公側は勝てないまま戦闘は終了する。
そうして
そんな師匠の奮戦により、主人公は魔王から逃げ延びる事に成功して。
自分にはまだまだ力が足りない。師匠の無念を晴らすためにも絶対に魔王イリィナを倒すんだと意思を固める。
それがゲームにおけるジョバンニ襲来イベントの全容だ。
つまり、このイベントがきっかけになって主人公の打倒魔王モチベーションが高まり、最終的に彼はその後に通うユーシャ学園で得た仲間と共に師匠の仇でもあるイリィナ様を倒してしまうのだ。
イリィナ様の破滅エンドを阻止したい俺としてはこのイベント、なんとしても阻止したい。
もっとも、阻止するのは簡単で、魔王であるイリィナ様をこのイベントに参戦させなければいいだけだ。
「――とはいえ、ここでイリィナ様が出ないと他の魔族の士気とか信用に関わるって話だしなぁ」
魔族にとっては今回の侵攻、奴隷化されている同胞達を取り返す絶好の機会という事でやる気満々らしい。
なのにトップの魔王様が部下に頼まれても前線に出ませんでしたとなると魔王様への不信感が募ってしまう気もする。
なのでイリィナ様を参戦させなければ何も問題なしという訳にもいかず……うーむ。
「どうするべきだと思う? セーラ」
迷った末に俺は隣に居るセーラにも意見を求めてみた。
ちなみに今、俺とセーラはイリィナ様の元を離れて自室で作戦会議中だ。
ジョバンニ攻めについてイリィナ様は俺たちの意見も聞かせて欲しいと言っていたが、とりあえず保留という事にしてある。
この世界がゲーム云々とか。そういうのもまだイリィナ様には話してないからね。
じっくりセーラと話し合った後、再度イリィナ様には俺たちの意見を伝えようと思う。
「そうですね……。この流れで魔王であるイリィナさんの参戦を阻むのは得策ではない気がします」
「その理由は?」
「イリィナさんの参戦を阻んだ結果、仮に勇者とやらが魔王に恨みを抱かなくとも結局勇者は魔族の事を恨むと思うからです。そのうえ、味方であるはずの魔族がイリィナさんを見限り暗殺の機会を狙ってくる可能性があります」
「あぁ、なるほど。そりゃそうか。魔族のジョバンニ侵攻が既に決定している以上、勇者の怒りはイリィナ様でなくとも魔族に向くわな」
「そして当然、勇者は魔族のトップであるイリィナさんを倒すべしと意思を燃やすと思います」
「そうなったら勇者はゲームの時と変わらず魔王を恨んだままで、しかもイリィナ様は出陣しない事で味方である魔族からの信用も失ってしまう……と」
ダメじゃん。
とはいえ、ここで何の策もなくイリィナ様にジョバンニを攻めてもらってもゲームの時の繰り返しになってしまうし……。
「いっそのこと、このジョバンニ攻めがキャンセルされればいいんだけど……」
そうなれば勇者の師匠的存在も命を落とすこともないし
勇者もゲームの時のように魔族や魔王の事を強く恨まないだろう。
しかも勇者が敗北を経験しなければ、もしかしたら自分の無力さとか感じず、ユーシャ学園にも通わないかもしれない。
そうすれば勇者は仲間を集めることが出来ないし、ゲームの展開から大きく筋道をずらすことも出来る。
「ここがターニングポイントってやつか」
「たーにんぐぽいんと……ですか?」
「ターニングポイントはここぞっていう時。重大な場面って意味だな。このジョバンニの街イベントさえどうにか白紙にできればイリィナ様の破滅エンドから大きく遠ざかると思うんだよ。少なくとも本来のゲームの展開からは大きくずれるはずだ」
なにせこのジョバンニの街イベントってゲーム再序盤で起きる不可避イベントだからな。
このイベントを根本からなくせばゲーム通りの展開になることはまずないと見ていい。
「なるほど。さすがはヴァリアン様です。しかし――」
「ああ。その方法がおもいつかない。魔族は魔族で『奴隷となった同胞を助け出す』っていう正義を掲げてるしな。この出兵を言葉だけで止めるのは至難の
「私とヴァリアン様の力で無理やり出兵を取りやめさせますか? 私たちならば可能かもしれませんけど……」
俺とセーラが圧倒的な力を見せて魔族のジョバンニ攻めをやめさせる。
確かに出兵を取りやめさせるだけなら可能かもしれない。
だが――
「いや、俺とセーラの二人だけじゃ多分無理だ。仮に軍隊の出兵を止めることが出来たとしてもな」
「どういう事ですか?」
「仮に俺が無理やり奴隷にさせられている仲間を助けに行く一兵士だったとして。それでいきなり出兵が中止になりましたって上から言われても納得なんかできないと思うんだよ。多分、同じ想いの仲間を集めて無断で突っ込む」
「あぁ、なるほど。そういう事ですか」
いくら俺とセーラでも全ての魔族兵士の行動を縛ることはできないからな。
だから力づくで魔族達のジョバンニ攻めを完全に止めるのは不可能と考えていい。
「力づくが無理なら――」
そう言って俺が考え込んだ時だった。
「――なら、みんなの攻める理由そのものをなくしてやればいいわ」
俺でもセーラでもない。ここに居ないはずの第三者の声が響く
それは――
「イリィナ様?」
「イリィナさん?」
既にお休みになられているはずのイリィナ様。
そんな彼女がなぜか今、俺とセーラの居る部屋へと入ってきた。
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