第21話『イベント発生』
「ねぇヴァリアン。少しいいかしら?」
「なんでしょうかイリィナ様?」
「ここにある部下からの提案。あなたはどう思う?」
宰相とモブ兄上の一件が片付いた後。
イリィナ様は俺やセーラにこうして意見を求めてくるようになった。
それだけでなく、今までは部下に『この程度の事、魔王様が出張るものでは……』と遠ざけられていた現場にも『いいえ。実際に私の目で見たいの』と言ってよく足を運ぶようになっている。
やはりあの一件で少しイリィナ様は成長したらしい。
魅力的だったイリィナ様が更に魅力的になった感じだ。
もっとも、それがイリィナ様の破滅エンド回避にどう影響してくるかは不明だけど。
まぁ、その辺りは考えても仕方ない事だから置いておくとしよう。
「えーっと。どれどれ? 『多数の民(魔族)が人間の手によって
「だから部下からの提案書よ。前から人間共は私たち魔族の領土である魔族領に無断で入り込み、そこで民である魔族を
「まぁ……うん。そうです……ね?」
「なんで疑問形なのよ」
「いえ、別に」
確かに
人間は魔族を攫っていく悪であり、単体では貧弱だが数が多い。
ゆえに連携されると厄介な種族である。
――というのが魔族側の認識だ。
けど、俺はそんな話をゲームでも
ゲームでも
要は両種族とも『あっちが悪い』と言ってる状態だ。
どっちの言い分が正しいかはゲームをプレイした俺にも分からない。
だって、少なくとも魔王様が魔物を生み出してるってのは完全に嘘っぱちだしね。
ゲームに描かれた事柄こそが真実という訳ではないらしい。
だからどっちが悪なのかはとりあえず様子見。
そして、そんな事情をイリィナ様に伝えるのは時期尚早だろうし、俺はとりあえず人間こそが悪という前提でイリィナ様の話を聞くことにした。
「何かごまかしているみたいで少し気になるけど……いいわ。それでね。攫われた魔族達がジョバンニという街のオークションで売買されるって分かったみたいなのよ。けれど、ジョバンニは魔族領から隣接した人間の街で、堅牢な砦に守られている。これを真正面から落とそうとすればかなりの兵力が必要になるわ」
ジョバンニは魔族領に来るときに通った。
確かに、思ってたよりも大きな街だったし、頑丈な砦もあったな。
「確かに。あれを真正面から落とすのは面倒でしょうね。なるほど。だからこそイリィナ様に軍を率いてもらいたいっていう。これはそういう提案ですか」
「うーん。多分だけど違うと思うわ」
「そうなんですか?」
「ええ。そこには『魔王様には軍と共にジョバンニ攻めに参加してもらいたく』と書いてあるけれど、指揮して欲しいだの率いて欲しいだのは書かれていないでしょう?」
確かに。
この提案書にはイリィナ様にも参戦して欲しいとしか書かれていない。
もう既にジョバンニ攻めは確定していて、その中に良ければイリィナ様も力を貸してくれませんかと言ってきているような。そんな文面に見える。
「だからこれは堅牢な砦を攻める為の飛び道具が欲しいっていうおねだりね」
「おねだり?」
「ええ。その対象が私なのか、あなたなのか、もしくはセーラなのか。あるいはその全てなのかは分からないけれど。ともかく、私やあなたなら砦の門を壊すか開けるかくらいは容易でしょう?」
あぁ、なるほど。
大軍で街を攻めるのはいいけど、ジョバンニは固い砦に守られているから正面から挑むのは少し面倒くさい。
だからこそ、砦を破れそうな戦力であるイリィナ様や俺達の力が求められてるって訳か。
確かにイリィナ様なら砦の門を魔術で壊すくらい簡単に出来そうで――
「ん?」
「どうしたのヴァリアン?」
「いえ……ちょっと……」
何か忘れているような気がする。
砦を……壊す?
ジョバンニの砦を壊す。
「あ」
しまった、忘れてた。
魔族領に居て、ゲームでは存在しなかったイベントばかり起きてたからすっかり頭から抜けてた。
そう、これはゲームでも発生したイベント。
魔王によるジョバンニ襲来イベントだ。
主人公と魔王であるイリィナ様が初めて対面する、ゲーム再序盤のイベントである――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます