第20話『おまけ』


 さぁやって来ました宰相の部屋!!


 魔王であるイリィナ様の部屋よりも広く、しかも様々な芸術品なんかが飾られている宰相の部屋。


 どう見ても魔王様であるイリィナ様より贅沢してますね。

 これはちょっと……許せませんねぇ。


 しかも、この部屋にたどり着くまでに二十人くらいの警護の魔族が居たし。

 イリィナ様に護衛を付けず、しかも操り人形にしようと企んでおいて自分の安全だけはキッチリ守ろうとしているだなんて。


 もちろん、その全員を俺は音もなく気絶させたけどね。


「むぅ……ぐぅ……ふっ――」



 豪華なベッドで幸せそうに眠っている宰相。

 モブ兄上をそそのかし、イリィナ様を操り人形にしようとしたこのタイミングで自分だけ寝てるとかいいご身分ですなぁ。




 あ、でも宰相だから実際にいいご身分なのか。

 そっかそっか。それなら別に問題ない。



「――訳ないだろっ!」


「げぼえっ!?」



 俺は寝ている宰相の上に乗り、軽く一発お見舞いしてやる。



「い、一体何が……な、貴様は!? なぜここにおる!? ヤンチャッチャ族の反乱に向かったはずでは!?」


「やぁお目覚めですかね宰相様。ちょいとイリィナ様の身に危険が及んだってのが分かりましてね。一時的に帰還してさっきイリィナ様をお救いしたとこなんですよ。いやぁ、魔王城の中でも危険ってそこらへんに転がってますねぇ。宰相様も気を付けてくださいよ?」



 ニコニコと笑いながら宰相へと語り掛ける。

 もちろん、手はずっとグーのまま握りしめたままだ。



「な!? お救いした……じゃと? い、いや。そ、そうなのですか。さ、さすがはレベル99のヴァリアン殿。それで? この儂への仕打ちは一体――」


 愛想笑いを浮かべる宰相。

 どうやら知らぬ存ぜぬを貫くつもりらしい。


「いやぁ、最近の刺客って凄いですねー。だって何をやっても口を割る気配も裏切る気配もないんですもん。けどね、そいつらを指揮してた奴は馬鹿でしてねー。勝手に自分から依頼主とかその思惑とかペラペラ喋ってくれましたよ。面白いでしょー?」


「は、はは。そうじゃ……の?」


「うんうん。いやぁ、無能なやつを雇っちゃった依頼主も災難ですよねぇ。ねぇ、宰相(ボコォッ)」


「がふん!?」



 さらに殴る。


「ま、待てっ!! 分かった。儂が悪かった。二度とお主にも魔王様には逆らわぬ。だからもうこれくらいで許してくれっ!」


 たった数回殴られただけであっさり屈する宰相。

 俺はそんな彼にニッコリと笑いかけ。


「うん。ダーメ♪(ボコォッ)」


 さらにもう一発、拳をプレゼントしてあげた。


「げふひゃっ!?」


「一度イリィナ様を自分の操り人形にしようとしといてさぁ。それで二度と逆らわないとか。そんなの信じられる訳ないでしょう? なので俺は宰相様を殴り殺して、後で地中深くに埋めようと思います。ほら、この世界でもよく行方不明者とか出るでしょ? 宰相様はそんな感じで処理しとくんで安心しといてください(ボコォッ)」


「なっ。はぶっ!?」


 イリィナ様の破滅エンド。

 それを防ぐために俺はここに居る。

 ゲームに登場すらしなかったこんなモブ宰相にイリィナ様がどうこうされるとは思えないが、念には念を入れてここで始末しておく。


 それになにより、イリィナ様のお命を狙う奴がのうのうと生きるなんて俺には耐えられないからね。



 そうしてその日を境に。

 宰相ワル・ジーは神隠しにあったらしい。

 怖いねー。



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