第18話『それとこれとは話が別』
その後、イリィナ様は憎きこのモブ共にいいようにされて。
そこで、俺の想定以上の輝きを見せてくれて。
セーラは「あぁ、もうっ!!」と苛立ちながらもイリィナ様を助けに動いてくれた。
俺の命令でなく、自分の意思で。
イリィナ様に救う価値があると。そう認めたからこそセーラは動いてくれたのだ。
「俺の期待通り。いや、期待以上の成果だ。我慢に我慢を重ねて良かったと思ってるし、イリィナ様をあそこまで飛躍させてくれたお前らには感謝する部分もほんのちょっぴりだけある。けどな、それとこれとは話が別なんだよ」
イリィナ様がタコ殴りにあっているのを歯を食いしばりながら眺めていて。
それをあざ笑うこいつらに腹を立てながらも懸命に我慢して。
その結果、イリィナ様は想定以上の輝きを見せてくれて、ゲームでは語る事のなかった自分の夢なんてものまで見つけた。
それ自体は素晴らしい事だ。
イリィナ様は自分の夢を見つけ、そんなイリィナ様の事をセーラも多少は認めてくれたからこそ彼女はイリィナ様を助けに入った。
だが、それでも。
イリィナ様をタコ殴りにしまくって、しかもあざ笑ってくれやがったこいつらに対しての俺のムカツキが収まるわけじゃない。
「だから俺はお前らをボコリ殺す。もちろん、お前らが言ってた宰相もボコリ殺す。イリィナ様の為じゃなく、俺のストレス解消の為にな」
本当ならイリィナ様を半魔と馬鹿にするやつら全員をボコリ殺したいところだが……おかしな事にそう言う奴らは大勢いるらしいからな。やめておこう。
イリィナ様の夢も、そう言う奴らを含む魔族全員に自分の事を認めさせるってやつらしいしね。
俺はそのお手伝いをすると同時に、こうしてイリィナ様を傷つけようとする馬鹿どもを始末するだけでいいだろう。
「人間風情が……。いい気になるなよマヌケェッ!!」
会話の途中も回復魔術を受けていたモブが叫びながら立ち上がる。
そのまま、『トリプルファイヤーランス!!』と三本の火の槍を投げてきた。
迫る三本の火の槍。
「なんだこんなもんっ(ペシッ)」
その放たれた三本の槍を俺はそう言ってペシペシペシと手で払い落とした。
「………………は?」
あんぐりと口を開けているモブ。
もしかして俺がイリィナ様と同じように律儀に防御するとでも思ったんだろうか?
だとすれば大間違いだ。
自分で言うのもなんだが、俺は基礎スペックにおいてイリィナ様より強い。
だからこの程度の単純な魔術、防御するまでもない。
はたき落とすだけで十分だ。
「さっきの話を聞いてたけどさ。お前、本当に前魔王とやらの息子なんだよな?」
「だとしたらなんだ!? もしかして、いまさらおじけづいたのか?」
「んな訳ないだろ。俺はお前をボコリ殺す。その決定に変更はない」
こいつが何者だろうとその点だけはもう確定している。
ただ、ほんの少しだけ気になる事があるだけだ。
「つまりお前はイリィナ様の兄上であり、魔王の血を継ぐ長男って事なんだよな? だとしたらさ、ちょっとおかしくないか?
「なんだ? なにがおかしいって言うんだよ?」
イライラした様子のモブ兄上。
そこまで言うなら焦らすのもなんだし、さっさと気になった事を聞くとするか。
「じゃあもうぶっちゃけて言うけどさ。お前、イリィナ様の兄上で魔王の血を継ぐ長男として考えたら弱すぎない?」
「はぁ!? お前、何を言って――」
「いや、だってさっきから単純な魔術しか使ってないじゃん。もしかして手加減でもしてるのか?」
さっきからこのモブ兄上の攻撃パターンを見ていたが、どれもこれもトリプルなんたらと基本的な魔術を三連同時に放っているだけ。
威力はイリィナ様が苦しむくらいだしそこそこあるみたいだが、特殊な効果とかは何一つなさそうだった。
正直、雑魚敵としては許容できても、こんなのが魔王としてゲームで現れたら拍子抜けもいい所だろう。
実際、魔王であるイリィナ様にはさっき使ってた『ロストエンジェル』というイリィナ様にしか使えない魔術があるしな。
相手のHPをレベル差とか関係なく強制的に1にする『ロストエンジェル』。
ゲームのラスボス戦において、イリィナ様は自分で召喚した魔物を引き連れながら開幕いきなりこの魔術をぶっ放してくる。
正直、このモブ兄上なんかよりよっぽど魔王しているし、敵として考えればかなり厄介だと思う。
「単純な……魔術……だとぉ?」
なにか気に障ったのか顔を引きつらせているモブ兄上。
「いいさ。そこまで言うならならば見せてやるよっ! この僕の究極の魔術をなぁっ!」
「へぇ……」
さすがは魔王の血族といったところか。
切り札を隠し持っていたらしい。
まぁ、そうだよな。
そうでなきゃイリィナ様の兄上としても魔王の血族としても弱すぎだし。
さっきまではまだ余裕があったとかいう理由で切り札を温存していたのだろう。
面白い。
その切り札、真正面から受けてやろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます