第16話『(イリィナ視点)襲撃-3』


 ――引き続き魔王イリィナ視点




 私に対して気安く接してきてくれるセーラ。

 どうしてか私の為に全身全霊を尽くそうとしてくれるヴァリアン。


 そんな二人に私は――応えたい。



「何をごちゃごちゃ言ってるんだよイリィナァ。ボロボロになって頭がおかしくなっちゃったのか? 失望させるなよぉ。お楽しみはこれからなんだからさぁ」



 下卑た笑みを浮かべながら近づいてくるコソクナー。

 私をいたぶりたくて仕方ないのだろう。



「ふ、ふふ」


「ん? 何を笑ってるんだ? 本当に頭がおかしくなったの……がっ!?」



 無防備に近づいてきたコソクナー。

 そんな隙だらけだった彼の顔にドガァッと私は一撃を叩きこんだ。



「ぐっ。この……イリィナお前ぇぇっ!? 往生際が悪いぞっ!! いい加減諦めろよクズがぁっ」



 顔を真っ赤にして怒るコソクナー。



「そうね。自分でも往生際が悪いと。そう思うわ。けれど、私は最後まであがく。ここで私があっさり諦めたら、あの二人に悪いもの」


「あの二人だぁ!? そりゃ例の人間二匹の事かよ」


「そうよ」


「ハハッ。笑っちまうねぇっ! そいつらだってどうせお前を利用しようと近づいてきた奴らだってのに。言っただろうイリィナ。お前は永遠に一人ぼっちなんだよぉっ! しょせんお前は孤独で哀れなただの半魔なのさっ!」


「そうね。私もそう思ってたわ。私は昔もこれからもずっと一人。近づいてくる人は私を利用しようとする敵だけだと思っていたわ。でも、違う。違ったのよ」


「はぁ? 何が違うってんだよ」


「私を一人にしていたのは私自身だったって事よ。誰も信じず、誰から裏切られても心が動くことは一切なかった。今まではそれでいいと思ってた。けど、それじゃダメなのよ」



 誰も信じていないからこそ私は一人ぼっちだったのだ。

 誰の力も必要とせず、たった一人でどうにかしようとしていたから私は一人ぼっちだったのだ。




 今まではそれでいいと思っていた。

 魔王としての責務をたった一人でこなし、多くの魔族を笑顔にすることが魔王となった私の責務であり義務だと。それをこなすことが私の役割なのだと。そう思っていた。


 でも――違う。

 そんなものは真の魔王なんかじゃないと今、ハッキリと分かったから。



「ハッキリ言うわコソクナー。あなたは魔王の器じゃない。いえ、あなただけじゃないわ。力で全てをねじ伏せ、自分だけ良ければいいという父も魔王の器じゃなかったのよ。だから私は、私が信じる真の魔王になってみせる」


「真の魔王だぁ?」


「ええ。配下を信じて頼って、全魔族の為に尽くして。そうして私は自分という存在をみんなに認めさせてみせる。それが私の――イリィナという半魔が初めて抱いた願いよっ!」



 自分を信じてくれる人がいると、つい頑張りたくなってしまう。

 自分の為に尽くしてくれている人が居ると、ついそれに応えたくなってしまう。


 その事を私はヴァリアンとセーラのおかげで学ぶ事が出来た。

 私は一人ぼっちなんかじゃないと。彼らが私に教えてくれた。

 

 そういうのがきっと正しい上の……魔王としての在り方なのだと私は思う。


 配下の為に力を尽くし、力が足りなければ頼り、そうして力を貸してくれる配下の為にも前に進む。

 そんな魔王に私はなりたい。


 だから私は――――――私の信じる魔王として、これからは私のやり方でやってみたい。



「ハッ。訳の分からない事を。本当に狂ったらしいなぁイリィナッ。本当に……話してるだけでイライラする。もういいっ。遊ぼうかと思ったけどもうヤメだ。お前はすぐにでも僕のオモチャにしてやるっ!! おい。お前ら。こいつを押さえておけ」




 コソクナーの指示に従ってこちらにゆっくり近づいてくる刺客達。

 その時だった。



「――ジャッジメント」


 声が響くと同時に、明るい光が部屋の中を満たした。

 その光は球状に広がり、コソクナーや刺客達が巻き込まれる。


「っ――――――」

「あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



 まばゆい光に前進を焼かれているコソクナー達。

 けれど向こうの治癒魔術師達は影響範囲外だったらしく、焼かれたコソクナー達にすぐ『ハイヒール』の魔術が重ねてかけられる。



「――まったく。馬鹿じゃないんですか? こんな小物を相手に死にそうになって。熱くなって。命乞いもせずまっすぐに自分の夢を語って。挙句の果てに誰かを信じるとか。その境遇でよくそんな言葉を吐けますよね」


 かけられる辛辣しんらつな言葉。



「――仕方ないでしょう? 私はあなたや彼と違ってそこまで強くない。魔王といってもこんなものなのよ」


「そこじゃないですよ。イリィナさん。あなたは今までたった一人で戦って、戦って、周りは敵ばかりだったんでしょう? それなのに、どうしてそんな簡単に誰かを信じるだなんて言えるんですか」



 あぁ、そっちか。

 しかし、どうして信じるだなんて事を言えるのかと問われても少し困ってしまうわね。


 まぁ、それでもいて答えるとすれば。


「あなた達に出会ったから……かしらね」


「私たちに?」




「ええ。あなた達は私の事を半魔や魔王としてじゃなくて、イリィナとして見てくれた。そのうえで私に尽くしてくれた。そんなあなた達を私は信じたいと。その頑張りに報いたいと。そう思った。ただそれだけの事よ」


「……私は別にこれまでイリィナさんの為に尽くしたつもりなんてないんですけど。全てはヴァリアン様の為ですから」


「そう。それでも私はあなたを信じるのだけどね。だって、私がそうしたいんだもの」


「勝手ですね」


「魔王だもの。それっぽいでしょう?」


「死にそうな状態でよくそんな軽口を叩けますね(ポイッ)」



 そうしてこちらにエリクサーを投げながら姿を現したのは。

 ヤンチャッチャ族の反乱を押さえに行ったはずのセーラだった。



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