第13話『ちょっとお出かけしてきます』


「魔王様。それにヴァリアン殿にセーラ殿。少しよろしいですか?」


 イリィナ様とモブ三人組のレベル上げを開始してから一か月が過ぎた頃。

 魔王城にてイリィナ様の警護をしていた俺とセーラは宰相に声をかけられていた。


「どうしたのジー。なにかあったの?」


 対応するイリィナ様。

 そういえばこの宰相、なんと『ワル・ジー』という名前だったらしい。

 イリィナ様はこの宰相の事を親しくじいと呼んでいたわけではなく、単にジーという名前を呼んでいたらしい。


 なんという紛らわしい名前なのだろう。

 改名を要求したいところである。


「ええ。東のヤンチャッチャ族が我々に対して蜂起ほうきしました。至急、兵を鎮圧に向かわせなければなりませぬ。宜しいでしょうか?」


 ふむ?


 魔族の一部が蜂起か。

 まさかそんなイベントが起きるとは。

 ゲームでは見なかったイベントだな。


 まぁ俺がゲームで知ってるイベントって全部主人公視点の物だしな。

 魔族領で起きた蜂起イベントなんかゲームに出てくるわけもないか。


「許可するわ」


「おぉ、ありがとうございます。――つきましてはヴァリアン殿にセーラ殿。お願いがあるのじゃが、お二人もヤンチャッチャ族の鎮圧に力を貸して頂けませぬか?」


 イリィナ様から鎮圧の為の兵を送る許可をもらった宰相はいきなりそんなお願いを俺とセーラにしてきた。


「俺たちが……ですか?」


「うむ。なにせ相手は勇猛果敢ゆうもうかかんで知られるヤンチャッチャ族。まともに戦えばこちらの被害も大きな物になるじゃろう。加えて、出来る事なら儂はヤンチャッチャ族には降伏してもらいたいと考えておる。そのためにお二人の力を借りたいのだ」



 高レベルを誇る俺とセーラ。

 そんな俺たちの力をそのヤンチャッチャ族とやらに見せつけ、それで降伏を促すという事か。

 なるほど、理解した。

 だけど。



「謹んでお断りさせていただきます」


「ヴァリアン様が断るなら私も同様に断らせていただきます。」


 俺とセーラは揃って宰相さんの申し出を突っぱねた。


「ふむ。それは残念。ちなみに理由を聞いても良いですか?」


 理由を尋ねてくる宰相。

 理由?

 そんなもの決まっている。


「イリィナ様の傍から離れたくないからです。イリィナ様の身の安全を守ることが今の俺の使命。そもそも今の俺はイリィナ様直属の部下です。イリィナ様以外からの命令は受け付けません」


「ヴァリアン様が居るところが私の居場所だからです。だからヴァリアン様が行かないなら私も行きません。もちろん、それがヴァリアン様の命令なら話は別ですけど」




 勇猛果敢らしいヤンチャッチャ族の反乱。

 なるほど。確かに大変そうだ。

 だけど、そんなものより俺は推しであるイリィナ様の傍に居たいのだ。


 それに、ヤンチャッチャ族の反乱どうこうでイリィナ様の身に危険が及ぶとは思えないしな。

 ゲームでヤンチャッチャ族とか聞いたことすらないし。

 放置していても問題ないイベントの類だろう。



「ふむ。つまり魔王様の命令であればヴァリアン殿も協力してくれるという事かの?」


 なんか意味ありげに聞いてくる宰相。


「それはまぁ……その通りですね」


「そしてセーラ殿もヴァリアン殿がこの件に協力する場合は手を貸してくださると。そう考えても良いのじゃろうか?」


「――ええ。その認識で問題ありません」


 宰相の質問にそう返す俺とセーラ。

 その答えに満足したのだろう。

 当然のように宰相はその矛先を今度はイリィナ様へと向けた。



「魔王様。ヤンチャッチャ族の鎮圧にお二人の力をお借りしたいのだが、宜しいですかな?」


「……構わないわ。ヴァリアン、あなたはジーに力を貸してあげなさい」



 宰相に促されるままにそう命令してくるイリィナ様。

 なんか宰相の手のひらの上で踊らされているようで少ししゃくだが、イリィナ様にそう命令されたら断るなんてできない。



「分かりました。そのヤンチャッチャ族とやらの反乱。この俺が押さえて見せましょう」


「ヴァリアン様が行くのなら私も行きますね」



 そうして。

 俺とセーラはヤンチャッチャ族とやらの反乱を鎮めるために力を尽くすことになった。



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