第12話『レベル上げ始めます-4』


 黒騎士との戦闘を終えたモブラ。

 HPがギリギリのはずの彼に俺は声をかける。


「エリクサーは飲んでおけよ、モブラ。多分その状態じゃ雑魚魔物の一撃でも死んじゃうだろうし。リスク管理は大事だ」


「りすくかんり……なんですかそれは?」


「要は安全にレベル上げしましょうって事だよモブラ。何事も余裕をもってやらないとな」


 レベル上げを過酷にしまくって死んだら悲しいしね。

 そう俺がモブラに忠告していると近くでイリィナ様が呆れた顔をしていて。


「安全? 余裕? ごめんなさいヴァリアン。あなたが何を言っているのかまるで分からないわ」


「イリィナ様、一体何を言って――」


 はっ!? そうか。

 なるほど。

 つまりイリィナ様はこう言いたい訳か。


「……なるほど。理解しました。確かに。イリィナ様にとってはこんなの生易しすぎるレベル上げ方法ですよね」


「んな訳ないでしょ。ヴァリアン。あなた、頭が湧いているの?」



 イリィナ様は魔王となられているお方。

 そんなお方だからこそ、このレベル上げ方法が生易しく感じられてしまっているんだろう。



「ですがイリィナ様。これ以上厳しくすると死者が出かねません。たとえこのレベル上げ方法がイリィナ様にとって生ぬるい物でも、これが通常の人の適正レベルのレベル上げ方法なのです。なので出来ればこのレベル上げ方法にて我慢していただけると嬉しいのですが……」


「私にとっては既にこのレベル上げ方法は狂気の沙汰でしかない厳しい物なのだけど? それとヴァリアン。さてはあなた、私の話を聞いているようでまるで聞いてないわね?」


 少し不満げなイリィナ様。

 うーむ。これ以上厳しくすると下手したら死人が出そうなんだけどなぁ。

 しかしイリィナ様の言葉を無下にする訳にもいかないし。


「なぁセーラ。イリィナ様がここまで言うならもっと厳しくした方がいいのかな? 危機感を感じさせるためにエリクサーを持たせないとか。もしくはダンジョンの奥底にみんなをバラバラで置いていって『生還してみせろ。それが修行だ』とかするべき?」


 そういうスパルタはあまり好きじゃないけど。

 でも、イリィナ様がそれを望むなら――


「何度も既にこのレベル上げ方法が厳しいと伝えてるのに更に厳しくするつもりなの!? 待って。お願いだから待ってヴァリアン。いいから。さっきのレベル上げ方法のままでいいから」


「おぉ、さすがイリィナ様。ご理解していただけましたか」


「………………えぇ。分かったわ。もはや私が何を言っても無駄という事がね(ボソッ)」



 さすがイリィナ様だ。

 自分にとって生ぬるいレベル上げ方法だとしても、付いてくる配下の為に我慢して見せる。

 さすが魔王様なだけはある。



「で、でもヴァリアン。私はさっきのレベル上げ方法でも構わないと言ったけれど、他の三人も了承するとは限らないわよ?」


「? 何を言っているんですかイリィナ様。了承するに決まってるじゃないですか。なぁモブラ? それと他のモブ二人」


「なによ他のモブ二人って!? モブミとモブローよ!?」


「なるほど。つまりモブラも入れてモブ三人組ですね」


「とことんこの子たちの名前を憶えてあげる気はないのね……。モブミ達も不憫ふびんなこと」


「それでどうだモブ三人組? このレベル上げ方法。魔王様の為にやってみる気はあるか? レベルが上がれば魔王様のお力になれる事間違いなしだぞ」


 俺はモブ三人組にそう聞いてみた。

 すると彼らは揃って。



「「「魔王様のお力になれるのなら喜んでぇっ!!」」」



 当然のようにそう答えてくれた。

 さすがは魔王イリィナ様の配下だ。



 その後、心配性なイリィナ様が「え? するの? このレベル上げ方法。普通に死ぬわよ? 頭大丈夫なの?」と配下の心配をするもモブ三人組は「問題ございません」と機械のように答え続けていた。


 そうして。

 この後めちゃくちゃ魔王イリィナ様とその配下モブ三人組のレベル上げを俺とセーラは手伝った――

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