第9話『レベル上げ始めます』


 そしてその一週間後。

 俺とセーラはイリィナ様に連れられ、魔王城の近くにあるダンジョンへと来ていた。


 目的はもちろん、イリィナ様とその配下の人達に俺のレベル上げ方法を伝授し、強くなってもらうためだ。


「それじゃあヴァリアン。あなたのレベル上げの方法、教えてもらうわよ」


 前のめりになって尋ねてくるイリィナ様。

 そのお姿もとてもかわいい。やはり推せる。

 しかし。


「了解しましたイリィナ様。けれどすみません。その前に尋ねたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」


「なに?」


「どうして三人しか配下を連れて来なかったのですか?」



 ここに来るまでの間も気になっていたことを、俺はついにイリィナ様に尋ねた。


 そう。

 この場に居るのは俺とセーラとイリィナ様を除けば残りたった三人。


 しかもその内の一人はこの前俺がボッコボコにして魔王イリィナ様のすばらしさを布教したモブラである。


 ちょっと……少なくない?

 俺としては最低でも30人くらいの魔族の兵士に強くなって欲しかったんだけど。

 


「……レベル上げの方法はあまり広めるべきではないと思うわ。だから私が信頼できると思った配下の者だけを連れてきたの」


 俺の質問に答えてくれるイリィナ様。

 でも……。


「さすがはイリィナ様です。しかし、本当にこの三人で宜しいのですか? そこのモブラなんて少し前までイリィナ様の事を半魔と蔑んでいた者ですよ? 信用できるのですか?」


 正直、イリィナ様の考えがよく分からない。

 俺のレベル上げの方法を広めたくないからたった三人の配下を選定したというのはまぁ理解できる。



 でも、それならイリィナ様が心の底から信頼できる配下だけを選ぶべきだと思うのだ。

 なのに、ここには少し前までイリィナ様に反抗的な態度を見せていたモブラが居る。


 一体イリィナ様は何を考えているのか……。



「もしかしてイリィナさん。信頼できる配下がこの三人しかいないんですか?」


「うっ――」


「ちょっ!? セーラ!?」



 いきなりなんて事を言うんだこの子は!?



「何を馬鹿な事を言ってるんだセーラ。そんなわけがないだろ」


「しかしヴァリアン様」


「……あのな、セーラ。落ち着いて考えてくれ。魔王イリィナ様は至高にして偉大なる存在なんだぞ? 当然のように全生命体が崇めるべき存在、それが魔王イリィナ様だ。そんな彼女の為に死ねる魔族なんていくらでもいるはず。そんなイリィナ様の信頼できる配下がたった三人なんて。そんな訳がないだろう」



 馬鹿な事を言うセーラに対し俺が至極当然の事を言う。

 すると。


「たった……三人……」


 なぜかイリィナ様がその場で膝を折って地面に手をついていた。


「な!? ど、どうしたんですかイリィナ様!? 気分でも悪いのですか!?」


「ヴァリアン様。察するにイリィナさんは図星を突かれた上に信頼できる配下がたった三人なんてありえないと言われて傷ついたのかと」


「さっきから馬鹿な事を言うんじゃないよセーラ! 仮にイリィナ様でなくても魔王なのに信頼できる配下がたった三人しか居ないなんて。そんな人望のない魔王がいる訳がないだろう!!」


「じ、人望がないって……。そんな魔王居るわけがないって……」


「な、イリィナ様がさらにガックリ肩を落として……。イリィナ様!! 一体何をそんなに落ち込んでいるのですか!?」



 あぁ、イリィナ様の目から生気が失われていく。

 力になりたい。

 けど、イリィナ様の身に何が起きているのかすら俺には分からない。



「――クソッ! レベルは上限まで上げたのに……俺には何もできないのか!!」


 自分の無力さが腹立たしい。

 俺もイリィナ様のように地面に手をついてうなだれた。



「いや、ですからヴァリアン様。――って聞こえてませんね。しかし、それにしてもさすがヴァリアン様です。無自覚にイリィナさんにここまでの精神的ダメージを与えるなんて。横から見てる私は少し楽しいです。ざまあみろって思います」


「――セーラ! あなた本当に性格悪いわね! そこまで私の事が嫌いなの!?」


「? 何度もそう言ったつもりなのですけど……もしかして伝わってなかったんですか!?」


「嫌っていうほど伝わってるわよっ! ええそうよ! 私は人望のない魔王よ! 私が信頼できると思ったのは頭のおかしいヴァリアンが洗脳したモブラと、そのモブラに洗脳された妹のモブミと弟のモブローだけよ!」


「つまりヴァリアン様が居なければイリィナさんの信頼できる配下はゼロだったと……。さすが魔王様(笑)ですね」


「やかましいわよ!」



 おぉ、いつの間にやらイリィナ様が元気になってる。

 しかし……凄いなぁセーラは。

 イリィナ様と対等な感じで話せているし。

 まるで十年来の親友のようだ。

 そのまま二人の言い合いは続き――


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