第8話『そうだ。レベルを上げよう』


「安心してくださいイリィナ様。直属の配下として頂いた以上、これからは俺とセーラが確実にイリィナ様の事を守ってみせます。たとえ誰がイリィナ様の命を狙ってきても返り討ちにしてみせましょう!」


「いや、別に守ってもらうほど私は弱くないつもりなのだけど……。大抵の相手なら私が片づけられるし……」


「そんな!? イリィナ様のその美しい手を汚すなんてとんでもない! イリィナ様は玉座に座りながら我らに『行きなさい』とただ命じてくれるだけで良いのです」



 魔王イリィナ様直属の配下となった俺とセーラ。

 俺達はさっそく魔王イリィナ様の身の安全を守るべく彼女の警護についていた。


 そうして俺がとても自然な様子でイリィナ様の警護をしていると。


「……ねぇ? 私たちが会ったのはついさっきの話よね? それなのにどうしてあなたはそこまで私の事を敬うの?」



 イリィナ様がそんな質問をしてきた。。

 ふむ。


 どうして俺が魔王イリィナ様を敬うのか……か。

 少し答えづらい質問だ。

 前世にプレイしたゲームで見たあなたのあり様に惹かれましたと言っても何の話だか分からないだろうしな。


 ゲームの主人公である勇者に対して備える為にも、ゲームで彼女がどのような未来を辿るのか教えておくべきだとは思うが、それはきっと今じゃない。


 俺のイリィナ様に対する信仰心やら好感度は既にMAXを振り切っているけど、イリィナ様はまだ俺の事を見定めている最中だろうしね。


 ゲーム云々の話はもう少し彼女の信頼を得てから話す事にしよう。


 しかし……さてどうしよう。

 そうなると俺がイリィナ様を敬っている理由が話せなくなってしまうのだが。

 かと言ってイリィナ様に嘘をつくなんてこと、俺にできる訳がないし。


 俺はほんの少しだけ迷った末に。



「イリィナ様が俺の推しだからです!」



 そんな無難な答えを口にしていた。



「………………頭が痛くなってきたわ」


 なぜか急に頭痛を訴えるイリィナ様。

 これは……まさか!?


「頭が痛い? それはいけません! 誰かによる魔術攻撃かもしれません! セーラ、イリィナ様にかけられた魔術を解除してくれ!!」


「すみませんヴァリアン様。さすがの私でもかけられていない魔術の解除なんてできません」


「誰かによる魔術攻撃じゃない? なら毒か!? もしくは病気か!? 頼むセーラ。イリィナ様を健康な状態に戻してくれ」


「……すみませんヴァリアン様。さすがの私でも既に健康なイリィナ様をどうこうする事はできません」



 なにぃ!?

 魔術攻撃でもなく、既にイリィナ様は健康な状態だとぉ!?

 ならなんで「頭が痛くなってきたわ」なんてイリィナ様は言ったんだ!?



「………………もはやうかつな事は何も言えないわね」


「………………最初は羨ましかったですけど、少しは同情してあげてもいいですよ。イリィナ様」


「ありがとう。あなたの方はまだまともなのね。えぇっと……」


「セーラです」



「そうだったわねセーラ。なんだかあなたとはうまくやっていけそう。私の事はイリィナと呼び捨てにしていいわよ」


「それではお言葉に甘え、公的な場以外ではイリィナさんと呼ばせてもらいます。もっとも、私としてはヴァリアン様のお心を最初から奪っているイリィナさんとはあまり仲良くできる気がしませんけれどね」


「………………ごめんなさいセーラ。あなたとうまくやっていけそうというのは気のせいだったみたいだわ」



 いつの間にか仲良く話をしてるセーラとイリィナ様。


 本当にこの二人は仲がいいな。

 ゲーム内においてこの二人の間に接点なんかはなかったはずだけど、仲良くできているようで何よりである。



「ところでヴァリアン。あなたのレベルって本当に99なのよね?」


 セーラとの会話を打ち切り、俺のレベルが本当に99なのか尋ねてくるイリィナ様。


「はい、そうですよ。もし信じられないようであれば鑑定の水晶にて確認されますか?」


「いえ、いいわ。先ほどのモブラとの戦闘。アレを見せられてあなたが強者であるという事は十二分に分かった。そんなあなたに一つ、聞きたいことがあるの」


「なんでしょうか?」


「あなたはどうやってそこまでレベルを上げたの?」



 さすがは魔王イリィナ様。

 よくぞ聞いてくれました。



「それについては俺の方からも話そうと思ってたんです。俺のレベル上げの方法は単純明快。ダンジョンという環境、それと二人以上の人員が居れば今すぐにでも実施可能なものです」


「ダンジョンと……二人以上の人員? 一人では無理なの?」


「単独でのレベル上げも不可能とは言いませんが……果てしなく危険ですし時間もかかるでしょうね」


 俺もこのレベル上げ方法を一人で試す気にはなれない。

 なにせ一人だとほぼ確実に死んじゃうし、なにより効率が悪いからね。


「そうなのね。それでその方法は?」


「どうせここでは試せないものです。なのでイリィナ様。早速ですがお願いがあります」


「……なに?」


 なんだか警戒している様子のイリィナ様。

 やはりまだまだ俺はイリィナ様の信頼を勝ち取れていないらしい。

 それを感じながらも俺はイリィナ様にお願いの内容を告げる。



「どうせなら俺のレベル上げの方法を他の配下の者達にも伝授したく思います。なので、近くのダンジョンにイリィナ様に仕える兵士達を集め、そこでレベル上げの方法について広めるのはどうでしょう?」


「私の配下にもレベル上げの方法を伝え、それで全体のレベルアップを図るという事?」



「その通りです。イリィナ様を守る者たちのレベルが上がればそれだけイリィナ様が安全になります。なにとぞ、イリィナ様の為に俺の力を使わせてください!」



 魔王であるイリィナ様は将来、ゲームの主人公である勇者に殺される。

 それが俺の知っているゲームの筋書きだ。


 そうなる理由はイリィナ様に力が足りなかったというのももちろんあるだろう。

 主人公パーティーよりイリィナ様の方が弱かったからこそ、イリィナ様は破れたのだ。


 だが、それはイリィナ様の配下にも同様の事が言える。

 弱かったからこそ、イリィナ様の元まで勇者を通してしまったのだ。


 ならば話は簡単だ。

 この両者をとことん鍛えればいい。


 イリィナ様とその配下の兵士達が強くなればなるほど、イリィナ様の破滅エンドは遠のくハズだ。

 だからこそ、俺はイリィナ様と配下の兵士達に強くなってほしい!


 そんな俺の願いに対して、イリィナ様はしばらく考え込み。



「――――――分かったわ。でも、レベル上げの方法を伝える配下は私の方で限定させてもらう。ヴァリアン。あなたはその方法を決して私が許した者以外に伝えないで」


「!? なるほど。承知しました!」



 さすがはイリィナ様だ。

 よくよく考えれば多くの配下がレベルを上げて実力を付けるという事は、それだけ配下の裏切りによる危険性が増すという事。

 だからこそイリィナ様は信頼できる配下にのみ俺のレベル上げ法を伝えるに留めようとしているのだろう。



 その後。

 偉大で慈愛溢れるイリィナ様は俺とセーラの為に魔王城の中に個室を用意してくれた。


 ちなみに俺のレベル上げ方法を試すのはまた後日にするそうだ。

 なんでも色々と準備がしたいのだとか。


 そうして俺とセーラは用意された部屋で休息をとる事になった。


 本当は俺はセーラと共にイリィナ様が眠られるまで護衛に徹するつもりだったんだけどね。

 けど、俺たちが護衛している途中でイリィナ様がいきなり。


「あの………………少しは一人にしてくれないかしら? あなた達が私の直属の部下で今も護衛してくれているというのは理解できるのだけど、こうもずっと傍に居られると落ち着かないわ」


 なんて言うので俺とセーラはイリィナ様のプライベート時間を尊重し、与えられた自分の部屋で休むことにしたのである。


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