第7話『配下になります!』


「魔王様の事をどう思う!?」


「魔王様は素晴らしいお方です!!」


「お前は何のために生きてる?」


「魔王様の御為おんために! 魔王様は素晴らしいお方です!!」


「――――――ヨシッ!!」



 モブ魔族との決闘。

 俺は当然のように勝利し、さらに魔王様の為にすべてを捧げてくれる尖兵まで育成した。


 素晴らしい成果だ。

 これでこの決闘を見てくださっている魔王イリィナ様や他の魔族も俺のレベルが99だという事を認めてくれるに違いない。


 そう思って周りを見渡してみると――



「「「…………………………」」」




 おや? なぜだろう?

 みんな、なんか顔を引きつらせながら俺とモブ魔族の事を見てるよ?



「――あぁ、そうか。まだ勝者宣言がされてないからか」



 そういえば勝者宣言されそうだったのを俺が邪魔してそのままだったな。

 そうして俺が視線を審判役の魔族に向けると。



「!? しょ、勝者ヴァリアン様ぁ! 魔王様は素晴らしいお方でぇす!!」



 俺と目が合った審判役の魔族は慌てた様子で勝者宣言をしてきた。

 しかも魔王様を称えながらだ。


 これは……アレだな。

 俺の演説を聞いていた彼にも魔王様の素晴らしさが伝わったという事だな!


 魔王イリィナ様は全人類、全魔族、全生命体から崇められるべき尊きお方だ。


 ゆえに、審判役の魔族がこうして魔王イリィナ様を称えるのは当然。

 不思議な事なんて何一つない!!

 俺はそう納得した。


「おめでとうございます。ヴァリアン様」



 勝者宣言がされてすぐセーラがそんな言葉をかけにきてくれた。



「ありがとうセーラ。セーラから見て周りの反応はどうだった? 今ので俺がレベル99だってみんな信じてくれると思う?」


「間違いなく信じてくれると思いますよ。………………もっとも、たくさんの方が『あいつやべぇ』とも呟いていましたが(ボソッ)」


「ん? 悪い。最後がよく聞き取れなかった。なんて?」


「さすがはヴァリアン様ですと言っただけですよ?(ニッコリ)」


「ん? そう?」


 それなら別にいいんだけど。




 その後。


 俺とセーラはなぜかかなり丁重にもてなされる事になった。

 豪華な食事が振舞われ、魔王イリィナ様や魔族の宰相さんとやらからも歓迎されたのだ。


 もっとも、俺の事を歓迎してくれている魔王イリィナ様の顔がなぜか引きつっているようにも見えたけど。

 気のせいだろうか?


 ともあれ、そんな食事の席でのこと。


「それでヴァリアン殿。貴殿の望みは確か魔王様の配下になることでしたかな?」


「へ? あぁ、はい」



 俺をヴァリアン殿と呼ぶのは魔族の宰相さん。

 先ほどのモブ魔族との決闘で俺の評価は思いっきり上がったのか、かなり丁寧に接してくれている。


 なお、魔族の宰相さんと魔王イリィナ様を除いた他の魔族達はなぜか俺とは視線すら合わせてくれなくなった。


 やはり俺が人間だからだろうか?

 人間の俺とは視線を合わせる事すら嫌だという事なのかもしれないね。



「俺は魔王様の配下となるために魔王城を守る衛兵になる試験を受けに来たんですよ。そこから出世していき、ゆくゆくは魔王様直属の配下になりたいと考えていました」


「……なるほど。先ほどのイジメ……こほん。決闘の時も強く感じられたが、ヴァリアン殿はとても魔王様の事を崇拝しているのですな」


「――それはもう!!!」



 俺は力強く宰相さんに応えた。


 なにせ俺は魔王イリィナ様の心の底から崇拝しているからな。

 それが推しというものだ。

 

「魔王イリィナ様の素晴らしさといったらまず――」



 そうして始まる俺の魔王イリィナ様語り。

 しかし。



「そういう事であればどうですかなヴァリアン殿!? さっそく魔王様直属の配下として明日から働かれてみますか!?」



 俺のイリィナ様語りを大声でさえぎる宰相さん。

 なんだよもう。

 せっかく俺が魔王イリィナ様の素晴らしい所を手始めに100個くらい紹介しようと思って……今、なんて言った?



「もちろんそちらのセーラ殿もよろしければ。魔王様直属の配下となられますか?」



 ……どうやら聞き違いではないようだ。

 俺とセーラは今、魔王イリィナ様直属の配下にならないかと誘われたらしい。

 当然返答は『喜んでお受けいたします』一択なのだが。


「ちょっとじい!?」



 同席していた魔王イリィナ様が宰相さんの事を爺と呼びながら驚いた様子を見せた。

 そのまま魔王イリィナ様は宰相さんを引っ張り出して。

 それからこそこそと内緒話を始めてしまった。


 内容を聞き取ろうと思えば可能だろうけど……やめておこう。

 俺たちには聞かれたくないからこその内緒話だろうし。


 それにしても魔王イリィナ様から爺と親しく呼ばれるとは。

 なんて羨ましいんだ!!



 そうして話がまとまったのか。

 魔王イリィナ様はなぜかがっくりと肩を落としながら戻ってきた。

 なんで?


 それが分からず俺が首をかしげていると。


「それでどうですかな? 魔王様直属の配下として明日から働かれますか?」


 再びそんな提案をしてくれる宰相さん。


 今度は魔王イリィナ様も何も言わないでいる。

 ただ、イリィナ様は何も言わないまま俺の事をジッと見つめていた。

 まるで何かを期待しているような瞳。


 分かっていますよ魔王イリィナ様!

 あなたの期待に俺は応えて見せる!!



「もちろん喜んでお受けいたします! 今この瞬間から働かせていただきたいくらいです!」


「ヴァリアン様がそうおっしゃるなら私も魔王様直属の配下として働かせていただきます」


 俺とセーラはそう言って魔王イリィナ様と宰相さんに頭を下げた。


 その瞬間。

 魔王イリィナ様は「きゅぅ……」と悲鳴を上げながらその場で転んでいた。

 何かにつまづいたのかな?


 でも大丈夫です魔王イリィナ様!

 これからは俺があなたをどんな危機からも救って見せます!!



 そうして。

 俺とセーラは魔王イリィナ様直属の配下となったのだった!!


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