第6話『(モブラ視点)魔王様は素晴らしいお方です!』
――モブ魔族ことモブラ視点
我が名はモブラ。
偉大なる獣王バカダス様に仕える誇り高き魔族だ。
私は人間など我ら魔族の
ごく稀に我ら魔族に対抗し得る人間も居るらしいが、それらも程度が知れているというからな。
だからこそ、私は魔王城に現れた人間二人のレベルがどちらも80超えだと聞かされても信じられなかった。
私の主である獣王バカダス様でさえレベル63と聞いている。
それなのにこんな人間共がそれを超えるレベルなど、あり得るわけがない。
ゆえに私は怪しい人間を殺すように進言し続けていたのだが、半魔である魔王イリィナは結論を渋るばかり。
本当に面倒な半魔だ。
魔王としての力を受け継ぎながらも、もう半分は忌まわしき人間の血を宿す魔王イリィナ。
奴は後継者争いで他の魔王候補である兄たちを一人残らず殺して魔王の座についた。
しかし、純粋な魔族の血を引く先代魔王様の子らが半魔に敗北するなどあり得ない事だ。
実際の現場は見ていないが、おそらく汚い手でも使ってその座についたのだろう。
本当に忌々しい事だ。
とはいえ、そんな魔王でも使いようはある。
実際、現在の魔王イリィナは外の世界を知らぬ籠の鳥だ。
ゆえに、これまで魔王であるイリィナは下の決定にただ頷くのみだった。
それなのに今回の件に関してだけは結論を渋っている。
今までのものと違い、実際に目の前で起きている出来事についてだからなのか。
それとも、自身に半分流れている人間の血が同じ人間を守ろうとしているのか。
どちらにしても、面倒な事だ。
そうしている内に私が人間と決闘をすることになった。
面白い。
その化けの皮を剥いでやる。
そう勇んで私は人間を皆の前で公開処刑しようと奴との決闘に挑んだのだが――
「とりあえず……これは魔王様のぶん!!」
「ごはっ」
なんだ?
何が起きた!?
身の程知らずの人間に向かって押しつぶしてやろうと私は突進して。
そんな私に対して血迷ったのか。人間の方も逃げずに私に向かって疾走し。
そうしてまさに衝突するその瞬間、私はその人間を見失っていた。
目標を見失った私は相手がどこに消えたのかと周囲を見渡し。
その瞬間、とんでもない激痛が私を襲い今に至る。
「ぬっうぅ――」
なにが起きたのかまるで分からん。
分かる事と言えば相当な深手を負わされたということくらいだ。
もしや……私はあの人間に敗れたのか?
(くそ……。こんなバカなことがあってたまるものか)
そう奮起するも、体は動かない。
もはや私には立ち上がる力も残されては――
「えい」
気を失いかけているが私の身になにかが降りかかってくる。
熱い……熱い命の鼓動を感じる。
そして――
「ハッ――」
私は急速に意識を取り戻した。
もう立ち上がる事などできないと思っていたのに、
「私は……一体――」
ペタペタと自分の身体を確認するが……傷一つない。
大量の血こそ付着しているが、既に傷はふさがっているようだ。
未だに状況を把握しきれていない私。
そんな私に対して目の前の人間は――
「それじゃあ第二ラウンドな?」
などと言ってきた。
「え?」
第二ラウンド?
何の話だ?
そもそも、私は自分の身に何が起きたのかすら理解できていなくて。
「それじゃあ次は――イリィナ様のぶん!!」
「ぼげら!?」
再びとんでもない激痛が私を襲う。
かろうじて目の前の人間に
ここまで……か。
今のは間違いなく致命傷だ。
私の意識は急速に薄れていき。
「えいえい」
薄ぼんやりとする視界の中。
目の前の人間が高価そうな瓶を取り出し、黄金色に輝く液体を私に振りかけて――
「ハッ――」
熱くたぎる命の鼓動・
それを感じた瞬間、私は再び意識を取り戻した。
それと同時にようやく私は自分の身に何が起きたのかを理解する。
(今、私に振りかけられたのはまさか……エリクサーか!?)
エリクサー。
それはどんな病気や怪我でも飲めば治るという万能の薬。
とんでもない高値で取引されていると聞いたことはあるが……。
そんなものをこの人間は私に二度も使ったというのか!?
それも自分で半殺しにしておいて!?
「ひっ――」
思わず私は目の前の人間から逃れるべく後退していた。
この人間……狂っている!!
私を二度も殺しかけておいて、それを復活させるなんて。
「それじゃあ次、行くぞーー」
ゆっくりと拳を振りかぶる人間。
ま、まだ足りないというのか!?
まだ私をいたぶるつもりなのか!?
数瞬前に私を襲った二度の激痛。
もう味わいたくないと思えるほどの苦痛。
あんなのは……もうたくさんだ!!
「ま、待った。降参だ! わ、私の負けだ。だからこれ以上はやめてくれぇっ!!」
もう誇りなどどうでもいい。
目の前の人間がレベル99というのも信じよう。
私はべそをかきながら降伏宣言をした。
なのに――
「そう言われてもなぁ。まだ試合終了のコールも鳴ってないしなぁ。俺も自分の力を示すためにも頑張らなきゃなんだよねー」
無情にも目の前の人間はニヤニヤと笑いながらそんな事を言ってきた。
こいつ!! 人の心がないのか!?
まだ私を虐めようというのか!?
「そ、そんな……。おいお前! さっさと試合終了のコールを――」
私は必死に試合終了のコールをするように審判役の魔族に迫る。
だが、審判役の魔族はこちらを呆けたような目で見るだけで。
「だまらっしゃい!」
「ぎゃっ」
問答無用とでも言うように私を殴る人間。
とんでもない威力で殴られた私は為すすべもなく吹き飛ぶ。
「やめて欲しければ二度とイリィナ様を侮辱しない事だな。彼女は孤高で気高くてパーフェクツなお人だ」
吹き飛ばした私に迫りながら馬鹿な事を言い出す人間。
あの半魔を侮辱するなだと?
魔王イリィナが孤高で気高い者だと?
「は? 何を馬鹿な。いかに魔王とはいえ、人間の血が半分入ったまがい物を――」
私の口からとっさに漏れる本音。
すると。
「オ゛ラァッ!!」
「ぎゅふっ――」
今までの比ではない激痛。
もはやなぜ自分の意識が未だに保てているのかも分からない。
こいつ……これまで手加減していたのか?
それであの威力だと!?
「えいえいえい」
激痛に苦しむ私に目の前の人間は再びエリクサーを振りかけ。
そうして再び私は「ハッ――」と息を吹き返す。
「どうやらお前はイリィナ様の素晴らしさをまるで全然理解できてないらしいな。それはいけない。いけないぞぉ。とてもとても嘆かわしい事だ。けど大丈夫。俺が文字通り骨の髄までお前にイリィナ様のすばらしさを教えてやるからな」
「は? いや、ちょ、待っ――」
なんなのだこの人間は!?
そもそも、なぜ人間が魔王をここまで崇拝しているのだ!?
その後。
私にとっての地獄が始まった。
「魔王イリィナ様は戦場に咲く一輪の可憐な華だ! しかも部下を思いやる心も持ち合わせている素晴らしき魔王様なんだぞ!!」
そう言いながら目の前の人間は何度も何度も私をボコスカと殴ってきて。
そのたびに私は耐えがたい苦痛に苛まされた。
「わ、分かった。いや、分かりました! あなた様のおっしゃる通り! 魔王様は素晴らしい方です! だからもう許してくださぁい!!」
もう苦しいのは嫌だからと私が半魔の事を褒めたたえて許しを願っても。
「――いいや、ダメだね。今の言葉からは情熱を感じられなかった。真に魔王様を素晴らしい方だと認識しているならもっと情熱が感じられるはずだ!!」
などと訳の分からない事を言って私を何度も何度も殴り、蹴り、時には刺し貫いてきて。
「魔王様は素晴らしいお方ですって言えぇぇぇ!」
「ま、魔王様は素晴らしいお方です!」
「声に真剣さが感じられない。もう一度ぉ!!」
「魔王様は素晴らしいお方です!!!」
そうして。
私は目の前の人間が満足するまで、何度も何度も魔王イリィナの事を褒めたたえるように叫ばされたのだった――
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