第5話『魔王様のぶん』
モブ魔族との決闘。
それは魔王城の地下にある闘技場にて執り行われる事になった。
「化けの皮を剝がしてやるぞ。人間」
獣王バカダスの配下だという彼。
獣王の配下というだけあって虎っぽい外見の魔族であり、見るからに好戦的な魔族なのだと伝わってくる。
そんな相手に対して俺はといえば。
「――上等だゴラァ。こっちもとっくにキレてんだよぉ。偉大で美しいイリィナ様の配下のくせにその彼女に対しての陰口など万死に値する。貴様には魔王イリィナ様がいかに素晴らしいか。それを骨の髄まで教え込んでやるから覚悟しろっ」
「………………は?」
そう。
俺はモブ魔族の彼以上にぷっつんしていた。
自分で言うのもなんだが俺は魔王様LOVEだ。
あ、それも違うな。イリィナ様LOVEだ。
仮にイリィナ様が一般の魔族や人間だったとしても永遠に推していたという自信がある。
そんな彼女の事を目の前のこいつは『半魔』と馬鹿にした。
彼女の配下という立場に居るこいつがだ。
魔王イリィナ様の直属の部下ではないとはいえ、魔王軍という組織に属するこいつがトップに君臨する魔王イリィナ様を馬鹿にするなど絶対に許せん。
「それでは試合開――」
「ちょっと待った」
試合開始直前。
俺は決闘を仕切る魔族さんに待ったをかけた。
「なんだ? やはり臆したか? もっとも、今更何をしようが遅いがな。私は貴様が気に食わん。いや、人間自体が気に食わん。ゆえに確実に殺すと宣言しておこう」
「あ、うん。それはいいんだけどさ。とりあえずこれを持っててくれ」
なにやらどうでもいい事をごちゃごちゃ言うモブ魔族に俺はある物を投げ渡した。
それを無事にモブ魔族はキャッチして。
「む。なんだこれは?」
「金のロザリオ。どれだけ致命的なダメージを受けてもかろうじて命を繋ぐ事が出来るアイテムだ」
レベル上げの時に滅茶苦茶お世話になった金のロザリオ。
今ではあまり活躍する事もないので渡してしまっても問題ない。
「一応手加減はするつもりだけどさ。正直、それでも殺さずに済む自信はないんだ。だから持っててくれると助かる」
「貴様ぁ……。ふざけるなっ!! こんなもの要らぬ!!」
せっかく渡した金のロザリオを床に叩きつけるモブ魔族。
あーあ。せっかく渡したのに。
まぁ、別に特に問題はないからいいけど。
「そう? まぁ意地でも金のロザリオは装備させるけどな。お前に金のロザリオを付けて欲しいのは殺さずに済ませたい以外の理由もあるし。――あ、中断してすいませんでした。試合開始のコールお願いします」
「……では試合開始!!」
そうして決闘開始。
モブ魔族は素手のまま、こちらに向かって「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」と叫びながら向かってくる。
しかし、遅い。
余裕で
けど、今回は躱そう。
俺は迫るモブ魔族にそのまままっすぐ向かい、激突する直前でジャンプしてモブ魔族の突進を避ける。
そうして両者の位置が試合開始の時と入れ替わる形になる。
「な!? 消えた!?」
とんちんかんな事を言い出しながら辺りを見渡そうとするモブ魔族。
当然、隙だらけだ。
そんな彼にプレゼント。
俺は彼が捨てた金のロザリオを拾い、彼の首にかけてあげた。
そして――
「とりあえず……これは魔王様のぶん!!」
「ごはっ」
背中から一撃をいれてやった。
手加減はしている。
けれど、やっぱりレベル差があるのかモブ魔族の身体を貫通しちゃったね。
「ぬっうぅ――」
そうして倒れるモブ魔族。
それを見届けた決闘を仕切る魔族さんはごくりと喉を鳴らし。
「……勝者。ヴァリ――」
「待ったぁ!!」
俺は勝者宣言をしようとした魔族さんに待ったをかける。
そのまま俺はアイテム袋から回復アイテムを取り出し。
「えい」
それをモブ魔族に振りかけた。
すると。
「ハッ――」
「「「え!?」」」
息を吹き返したモブ魔族。
見物客は俺が敵に回復アイテムを振りかけた事が意外だったのか、なんか驚いてた。
「私は……一体――」
なにが起こったのか把握してない様子のモブ魔族。
俺はそんな彼にニッコリ笑いかけながら。
「それじゃあ第二ラウンドな?」
「え?」
回復アイテムならまだまだある。
なにせ最近は使う事がめったにないからな。
こういう時に使ってしまおう。
という訳で。
「それじゃあ次は――イリィナ様のぶん!!」
「ぼげら!?」
またもや俺の拳がクリーンヒット。
状況を把握していなさそうだったモブ魔族は
けれど、まだ息はある。
これも絶命を免れる金のロザリオのおかげだ。
「えいえい」
そうして回復アイテムをまた振りかける。
「ハッ――」
再び息を吹き返すモブ魔族。
そんな彼は俺の顔を見るなり。
「ひっ――」
顔を青ざめさせながら後ずさっていった。
どうやら自分が二回殺されかけた事を理解してくれたらしい。
無論、二回じゃ到底たりない。
「それじゃあ次、行くぞーー」
ゆっくり拳を振りかぶりながら俺はモブ魔族に近づいていく。
すると彼は。
「ま、待った。降参だ! わ、私の負けだ。だからこれ以上はやめてくれぇっ!!」
泣きながら降参してきた。
むぅ、しまった。
何か言われる前にもう一発くらいぶちこんでおくべきだったか。
降参されてしまったならこれ以上続ける事はできないか。
正当な理由なく魔王様の部下を虐めるのも良くないだろうし。
そう思って拳を降ろそうとして――そこで俺は気づいた。
あれ? まだ試合終了のコール鳴ってないんじゃない? と。
ちらりと決闘を仕切る魔族を見る。
すると、なぜか彼は固まったままこちらを呆然と見つめていた。
これは――――――チャンス!!
俺はにっこりと笑いながらモブ魔族の方に向き直り。
「そう言われてもなぁ。まだ試合終了のコールも鳴ってないしなぁ。俺も自分の力を示すためにも頑張らなきゃなんだよねー」
「そ、そんな……。おいお前! さっさと試合終了のコールを――」
「だまらっしゃい!」
パシィンと俺はモブ魔族の頬をこれまで以上に加減しながら叩く。
すると今度は「ぎゃっ」と叫びながらも彼は吹き飛ばなかった。
よし。
何度かやるうちに俺も加減の仕方が分かってきたようだな。
「やめて欲しければ二度とイリィナ様を侮辱しない事だな。彼女は美しく孤高で気高くて慈悲深いパーフェクツなお人だ」
「は? 何を馬鹿な。いかに魔王とはいえ、人間の血が半分入ったまがい物を――」
「オ゛ラァッ!!」
「ぎゅふっ――」
本気の一撃をもってモブ魔族に拳骨を喰らわす。
するとモブ魔族は
けど大丈夫。
彼はこんな状態でもギリギリ死んでない状態だ。
俺がこうしてまた「えいえいえい」と回復アイテムを振りかけてやればあら不思議。
「ハッ――」
はい復活。
「どうやらお前はイリィナ様の素晴らしさをまるで全然理解できてないらしいな。それはいけない。いけないぞぉ。とてもとても嘆かわしい事だ。けど大丈夫。俺が文字通り骨の髄までお前にイリィナ様のすばらしさを教えてやるからな」
「は? いや、ちょ、待っ――」
その後。
俺はモブ魔族(名前はモブラというらしい)に徹底的にイリィナ様の素晴らしさを説きながら、追加で五回くらい瀕死にしては回復を繰り返した。
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