第3話『魔王様とエンカウント』


 試験官の魔族さんに連れられて魔王城へと連れてこられた俺とセーラ。

 そこで俺たちを待っていたもの。


 それは――魔王城に勤めている魔族たちからの質問攻めだった。



「それで? 一体なぜ人間が我ら魔族の領土に居る? もしや密偵か?」


「いや、ですからね? 魔王様の配下になりたくてはるばるここまでやってきたんですよ。魔王城を守る衛兵からステップアップしていったら魔王様の守護騎士とかになれるかな~と思いまして」


「なにをふざけたことを! そんな分かりきった嘘を言うでない! 一体何を企んでいるのだ!?」


「いや。ですから嘘とかじゃなくてね? 魔王様の配下となるために俺は今まで頑張ってきたんですよ。高レベルなのもそのせいです」



 魔王様の配下となるべく魔王城を守る衛兵の募集を受けた俺とセーラ。

 なのだが、高レベルなのと種族が人間と言うのがなんかまずかったらしく、こうして質問攻めに遭っている。



「あなたたち……ヴァリアン様を疑うなんて死にたいんですか? ここで燃やしてあげましょうか?」


「ふんっ。出来るものならばやってみるがいい。そもそも、こんな人間どもがレベル90超えなどありえん。大方、なにかしら水晶に細工でもしたのだろうよ。私に脅しなど効かんぞ。小娘」


「ふふ。どこにでも居るんですよねぇ、こういう手合いは。自分の常識内でしか強さを測れないお馬鹿さん。……いいでしょう。灰すら残さず燃やし尽くして――」


「セーラ待ったぁぁぁぁ!! お願いだから怒りを抑えてくれ! ここで魔王様の配下を倒すのはなしだ」



 魔王様であるイリィナ様を破滅の運命から守るために俺は頑張っているのだ。

 それなのに魔王様の配下である彼らを倒してしまったら元も子もない。


 そんなことをしたらイリィナ様は俺たちに心を許さなくなるだろうし、彼女の破滅エンドも加速してしまうだろう。

 それだけはダメだ。


「――分かりました。ヴァリアン様に感謝するんですね愚物共。あなた達が生きていられるのはヴァリアン様のおかげなんですから」


「この……言わせておけば……」


「もう我慢ならん。やってしまいましょう!!」


「ま、待て! 魔王様や将軍閣下の採決を仰がない事には――」



 うーん、ダメだこりゃ。

 どうも完全に敵対視されちゃってる。

 魔族と人間の溝が深いのは知ってたつもりだけど、少し甘く見ていたかもしれない。




「――全員、静まりなさい」



 魔王城の広間に響く声。

 その声が響くなり、さきほどまで騒ぎ立てていた魔族たちが静まり返る。



「ありがとうございます魔王様。それで……いったい何事じゃ? 人間が現れたとだけ聞いたが」



 そうして広間に現れたのは二人の人物。


 一人は老齢のじじい

 頭から緑色の触覚が突き出た魔族で、魔術に秀でていそうな出で立ちだ。

 ゲームでは見た記憶がないので、それ以上の事は分からない。


 そして、もう一人は――



「こんな所に人間が来るだなんて珍しいわね? もしかしてこの私を討ちに来たのかしら?」



 薄桃ラベンダー色の長い髪。

 深紅の赤い瞳。

 不敵な笑みを浮かべながら広間の階段を下りてくる美少女。


 間違いない。


 彼女こそ――魔王イリィナ様。

 ゲーム『ファイルダー・レゾナンス』におけるラスボスの魔王様であり。

 俺の最推しだ。



「宰相閣下に魔王様。なにもこのような所までいらっしゃらなくても」


「儂は来るつもりなどなかったのだがのぅ。報告を聞いた魔王様が人間を一目見たいと言い出したので、仕方なく来ただけじゃ」


「はぁ」


「それで? いったい何事じゃ? そこに居る二人が人間か? 一体どのような理由でここにおる?」


「それは現在問い詰めている所でして。宰相様。本日、城を守る兵士を雇うための試験があったのはご存じでしょうか?」


「うむ。把握しておる」


「その一次試験でこの人間。女の魔術師が不可思議な魔術を使い、試験を受けに来た他の者達に重傷を負わせたのです。試験を受け持っていた者の話によると、確実に試験を合格すると思われていた『剛腕ごうわん羅刹らせつのタイガタイガー』殿もこの女に敗れたとか」


 いや、誰だよ剛腕羅刹のタイガタイガーって。

 まぁセーラのミニジャッジメントで一掃された受験者のうちの誰かさんなんだろうけど。


 内心俺がそうツッコム中、宰相様と呼ばれている爺さん魔族は軽く首をかしげる。


「ふむ? 聞き違いか? 一次試験に直接対決などあったかの? 確か鑑定のみだったと儂は記憶しているのだが……」


「おっしゃる通りです。しかし、女の魔術師は問答無用とばかりに実力行使に訴えたのです」


「おいコラ待てい」


 あまりにもな配下さんの言い分に俺は口を挟んだ。


 確かに一次試験とやらでセーラは少しやらかしてしまったが、そこには彼女なりの理屈があってのことだ。


 そんな単純に暴れただけと思われるのは納得できない。


 俺はその事を宰相さんとやらに伝えようと「宰相様。俺の話を聞いてください」と言って。


「貴様っ! 人間の分際で宰相閣下に声をかけるなど――」


「良い。話を聞こうではないか」



 なんだか止められそうな雰囲気だったが、とりあえず宰相さんは話を聞いてくれるらしい。


 俺は「ありがとうございます」とお礼を述べて。

 そうしてセーラが第一の試験にて『実力を見せろ』と言われたからこそ周りを一掃する魔術を発動させたのだという事を話した。



 それを聞いた宰相さんは「ふむ」と軽く頷き。



「なるほど。それは試験を受け持った者の言い回しにも非があるのぅ。血気盛んな者が聞けば勘違いしかねんものだ」



 ほっ。よかった。

 どうやら少しは理解を示してくれたようだ。



「それで? その後は?」


「その後、鑑定の水晶によりこの二人が人間であり、非常に高レベルであるという事が判明したのです。それで試験を受け持っていた者では対応しきれないという事でこちらに来させました。そして現在、人間が我らの領土に何の用で来たのかを尋問していたところという訳です」


「ふむ……」



 宰相さんが部下の報告を聞いて考え込んでいた。

 その時。



「へぇ。非常に高レベルな人間……ねぇ」



 美しい天使のような声音と共に、魔王イリィナ様が俺の方へと近づいてきた。

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