第2話『いきなり大惨事』
セーラが作り出した光球が慌てる受験者たちをすっぽりと包む。
そして光球は全てを侵食し、燃やしていった。
「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」」」
たまらず悲鳴を上げる他の受験者たち。
「………………は?」
範囲外でただ口を大きく開けている試験官魔族さん。
その間も受験者たちはセーラの魔術によって燃やされる。
無論、俺も含めて。
「いや、あの……セーラさん? 一体なにをやってくれちゃってるの? 他の受験者さんたちが大変な事になってるんだけど……」
「あぁ、さすがはヴァリアン様です! 私の一撃を喰らいながらもピンピンしているだなんて」
「そりゃ手加減されてるからね」
範囲攻撃魔術ジャッジメント。
光と炎の複合魔術で、範囲内の相手を問答無用で光で破壊し、燃やし尽くす。
セーラが放ったのはその手加減バージョンのミニジャッジメントだ。
彼女が本気なら、この十倍の威力が出ていたはず。
さすがの俺も平然とはしていられなかっただろう。
そうしている内にミニジャッジメントの光球は次第に小さくなっていき。
そこに立っていたのは俺とセーラの二人だけだった。
「私の魔術に耐えたのはヴァリアン様のみ。なのでヴァリアン様が最強ですね♪」
「「え?」」
俺と試験官魔族の声がハモる。
「あ、それとそこの低俗な青たれ魔族さん」
「青たれ魔族!? それは我の事か!?」
セーラは俺によく尽くしてくれていて、ヴァリアン様と呼んでくれる。
しかし、その他の人に対して彼女はこのようにかなり冷たい対応をするのだ。
「他に誰が居るんですか。質問なのですが、魔王城を守る衛兵の募集。人数は指定されていませんでしたが何人募集しているのですか?」
「え? あ、いや。我は規定値を超えた者を城に招き入れるようにと言われただけで、詳しい事は知らされていないのだが……」
「規定値?」
「ああ」
そう言って試験官魔族さんは懐からサッカーボールくらいの大きさの水晶を取り出した。
あれは――鑑定の水晶か。
冒険者ギルドでも見たことがある。
なるほど。あれで受験者たちのレベルを調べて、それで一定レベル以上なら二次試験に移れる感じだったみたいだ。
しかし――
「なんですかそれ? そんなの聞いていませんけど」
「我が説明を始める前に貴様が無茶苦茶したのだろうが!! どうするのだコレ!?」
「知らないですよ。私は最強を示せというからその通りにしただけです。なので、私は悪くありません」
セーラが作り出した惨状。
俺たち以外の受験者は全員その場に倒れており、痛みにのたうち回っている者も居る。
そっちはまだいいのだが、身動き一つしない者も幾人か居て――
「まぁ、きっと大丈夫ですよ。さっきの魔術はみねうちですので。たぶん誰も死んでません」
「魔術にみねうちなどないだろうが!!」
「そんな事より、試験はその水晶に触ればいいんですよね。少しお借りします」
「あ、コラッ!!」
強引に試験官魔族から水晶を取り上げるセーラ。
そのままセーラが水晶に手を置く。
「どうでしょうか? その規定値というのを私は超えているでしょうか?」
「やれやれ。我はこのことを上に報告せねばならんのだが……。まぁ残った貴様ら二人のレベルだけでも見てやるか。どうせ規定値であるレベル三十は超えているのだろうし」
そう言いながら覗くようにして試験官魔族がセーラが手を置いている水晶を見つめる。
「名前は……セーラというのか。職業は当然魔術師で。レベルが……87!? なんだこのレベルは!? 四天王様や魔王様の側近すらも超えているレベルではないか!?」
セーラのレベルを見て驚きをあらわにする試験官魔族さん。
「ふふ。これくらいで驚いていたらキリがありませんよ? それではヴァリアン様、どうぞ♪」
「おっと」
セーラが投げてきた水晶を俺は両手でキャッチする。
すると当然、水晶に俺のレベルや名前なんかが写されて――
「それでお前は……ヴァリアン・クロヴルルム? なんだ、人間の貴族みたいな名前だな。職業は剣士。そしてレベルが……うん? これはいかんな。水晶が壊れている」
頭を振りながらそう呟く試験官魔族さん。
「壊れてるんですか?」
「ああ。レベル99と出た。というより、完全に壊れているなこの水晶は。二人とも、後で測り直しだ」
「いや、それで合ってると思うけど」
「そんなはずはない。レベル99などあり得ないし。それにこの水晶に表示された情報を信じるとお前たちは人間という事になるぞ? それはさすがにおかしいだろう?」
対して俺とセーラは互いに顔を見合わせた。
俺たちが人間と表示された?
えーと……。
「いや、それで合ってると思うけど」
「それで合ってると思いますよ?」
セーラはゲーム本編で敵役となる存在だが、種族は最後まで人間だ。
俺も当然人間だし、レベル上げは入念に行って上限である99に到達済み。
なにもおかしいところはないはずなのだが――
「………………あの、すみません。私では対応しきれないので魔王城まで来てもらってもよろしいでしょうか?」
なぜか超低姿勢になった試験官魔族さん。
もちろん、魔王城に行くのは目的達成の為にも必要だし、構わない。
俺が魔王城に行くことを了承するとセーラも了承して。
俺たちは試験官魔族さんに連れられ、魔王城へと入城する事になったのだった。
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