第1話『試験開始ぃっ!』
父上との稽古を繰り返して。
ダンジョンにソロで潜って魔物を狩りまくって(父上に危険だからダンジョンには行くなと言われたけど、こっそり家を抜け出して冒険者やってた)。
そうしてレベルを着実に上げていきながら、俺はずっと考えていた。
どうすれば魔王であるイリィナ様を救えるのか。
ゲームのシナリオをどうすれば変えられるのか。
主人公を殺してしまえば手っ取り早い。
そう考えもしたのだが、魔王様であるイリィナ様は敵の多いお人だ。
主人公を抹殺したとしても、まだ安心はできない。
そう考えた末、俺は妙案を思いついた。
「そうだ。俺がイリィナ様を全てから守るべく、彼女の配下となればいいのか!」
そう。これもすべてはイリィナ様の為。
決して俺が生の彼女を眺めることがポジションに付きたいからとか。
そんな
――という訳で。
強くなろうと決意してから約五年ほど経過して。
「遂に来たな。この時が」
待ちに待った試験。
その時が遂に――――――来た!!
これから始まるのはゲーム本編にあるようなユーシャ学園の入学試験――ではない。
ユーシャ学園の入学試験が始まるのは今から半年くらい先だ。
そっちもゲーム本編が始まってしまうという意味ではとても重要なのだが、今から始まる試験と比べればわりとどうでもいい試験である。
そう。これから始まる試験はそんなものより遥かに重要な試験。
それ即ち――魔王城を守る衛兵になる為の試験だ!!
「ふふ。ワクワクしてるヴァリアン様も素敵です」
隣で薄く微笑む金髪美少女。
名前はセーラ。
ゲーム本編にも出てくる主人公の敵役。
三年前、俺が助けた少女だ。
特殊な魔術の才能があるセーラ。
ゲーム本編において、孤児である彼女は孤児院から魔術ギルドへと売られ、そこで魔術の実験体にされる。
そうして実験体にされまくる事で彼女は精神に異常をきたし、魔術ギルドの人たちをその魔術で皆殺しにしてしまうのだ。
そうして狂った彼女は自分だけが幸せになれる世界を作り出そうと魔術の研究に没頭するようになり、多くの罪のない人たちを魔術の実験体にする。
その研究の過程で彼女は『魔術の威力を向上させ、かつ魔術以外の威力が減衰する塔』を作り出し、そこでも研究に没頭して、いつしか魔女と呼ばれ恐れられるようになり。
そんな彼女はある日、ゲーム主人公が率いるパーティーに敗れ『こんなはずじゃ……私はただ……幸せになりたかった……』と言って塔の最上階から落ちてしまうのだ。
そんなゲームのシナリオ通りに進めばそんな悲劇を辿る彼女の事を、俺は魔術ギルドで実験体にされる前に助け出したという訳だ。
なにせ彼女、塔から落ちる前にアイテムとして『魔術の使用が二回連続で行える』とかいう凄いアイテムを落として、それをゲームの主人公達にとられちゃうからね!
主人公を強化させないためにも、彼女の保護は絶対にすべきで。
だから彼女を保護したんだけど、なんか助けたことをとても感謝してくれていて、俺の事をヴァリアン様と呼んで尽くすようになっちゃったのだ。
「それにしても驚きました。魔王城を守る衛兵となる為の試験。これほどの魔族が集まるとは……」
「魔王城を守る衛兵が高レベル設定だったのも頷けるよなぁ。なんでも一般の平民魔族とかからしたら安定したエリート職らしいよ?」
魔王城を守る衛兵の募集。
俺とセーラはその募集を受けに来たわけだが、俺たち以外にも多くの人がやってきていた。
魔王城前の広場に集まった大勢の人。
その誰もかれもが当然のように魔族・魔族・魔族。
上位サキュバスや吸血鬼、デュラハンなど様々な者が試験を受けに来ていた。
「うーん。やっぱり人間の受験者は居なさそうだな。もちろん、見た目だけじゃ分からないけど。あの男の人とかもぱっと見は人間っぽいし」
「魔王城を守る衛兵になりたがる人間なんてヴァリアン様以外に居ないと思いますけど……。それとヴァリアン様。アレはどう見ても人間じゃないと思います。
確かにあの男の人はとてもでかく、三メートルくらいの巨漢だ。
人間にはないはずの角だって生えている。
けれど、それだけで人間じゃないと判断するのは早計だ。
「いや、分からないぞセーラ。もしかしたらちょっと体が大きいだけの人かもしれないし。頭にある角も取り外し可能なやつかもしれない。なんだったら俺たちの目を欺くレベルの超高度な幻影魔法かもしれない」
「……なるほど! そこまでお考えとは。さすがはヴァリアン様です!」
なんて事を試験が始まるまでの間、サラと話していると。
「静かに!! これから試験を開始する!!」
いきなりの怒号。
空を見上げると、なんだか全身が青い武闘派らしき魔族が居た。
あれは……試験官さんかな?
「第一試験の内容は単純だ。強さを示せ。我こそは最強であると証明してみせろ」
なんかいきなり無茶苦茶な事を言い出す試験官魔族さん。
――その時だった。
「強さを示せ。最強が誰か証明してみせろ……ですか。なぁんだ、とでも簡単な試験ですね♪」
とても不穏な事を言い出すセーラ。
あれ? なんか嫌な予感が……。
「まずは……ん? なんだ、この光は?」
言葉を途切れさせる試験官魔族さん。
ざわめく受験者たち。
それもそのはず。
セーラは片手を掲げて、その手のひらの上に光球を作り出していた。
その光球は次第に大きくなっていって。
「それでは行きます。――――――ミニ・ジャッジメント」
そうして。
光が弾けた――
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