LV99の魔王様の配下。転生した先が前世でプレイしてたゲーム世界だったので、推しの魔王様をハッピーエンドへと導くために頑張ります

@smallwolf

プロローグ



「起きろヴァリアン。いつまでさぼっているつもりだ」


「うっ……いってぇ……」


 ズキズキと頭が痛む。

 どうやら何かの拍子に頭を強く打ったらしい。



「ふん。ようやく目が覚めたか。全く。あれしきの一撃で昏倒こんとうするなど情けない」



「ちち……うえ?」


 目の前に居るのは俺の父親であるソコツヨ・クロヴルルム。

 伯爵家であるクロヴルルム家の家長である。


「さぁ立てヴァリアン。続きだ。お前は我がクロヴルルム家の為、強くならなければならない。五年後にあるユーシャ学園への入学試験。まずはそこでお前は誰よりも優秀な成績を納めるのだ」


 あぁ、そうだった。思い出した。

 今は剣術の修行中だった。

 そこで俺は父上の一撃を受けきれず、そのまま無様に転んで頭を強く打ったという所か。



「分かりました父上。必ずや俺はユーシャ学園の入学試験にてトップを取って見せ……ユーシャ学園?」


「む? どうしたヴァリアン。この父に意見でもするつもりか?」


「い、いえ。そういう訳じゃなく」



 なんだろう。

 すごく違和感がある。



 ユーシャ学園。

 ヴァリアン・クロヴルルムという自分の名前。

 入学試験でトップの成績。



「――――――あ」


 そこで俺は思い出した。

 そうだ、これは前世で俺がプレイしていたゲームの内容そのもの。



 ここはゲーム『ファイルダー・レゾナンス』の世界だ!



 ゲーム本編の開始はユーシャ学園の入学試験より少し前。

 つまり、今の時点から約五年後という事になる。


 ユーシャ学園には後に魔王を倒し、勇者と呼ばれるようになる主人公が入学してくる。

 そして主人公は学園で仲間を集め、様々なイベントを経て最終的に魔王を倒すのだ。


 ギャルゲー要素もあるゲームであり、主人公が誰と恋仲になるかでその先の展開が少し変わる。

 だが、序盤にある共通ルートと魔王が殺されるというシナリオは毎回固定だ。


 魔王を倒した後に僧侶と共に慎ましい生活を勇者が送るとか。

 王女と共に国をさらによくして行こうと誓いあったりと。


 その辺りの話がルートによって変化して――



(――ってそんな事はどうでもいいんだよ!)



 そう。そんな事はどうでもいい。

 問題はその変化しないシナリオの内容だ。



 共通ルートにて、主人公らしく入学試験から突出してる主人公。

 入学試験を受ける他の生徒との模擬戦もあるのだが、そこで主人公にからんでくる貴族の息子が居る。


 そいつの名前が――『ヴァリアン・クロヴルルム』。



(――って俺の事じゃねえか!!)



 当然入学試験の模擬戦にてヴァリアン・クロヴルルムは主人公に敗れ、主席の座を主人公に奪われる。

 結果、主席を逃したヴァリアン・クロヴルルムは主人公を逆恨みするようになるのだ。


 そうして学園で主人公を退学に追い込もうと数々の嫌がらせを行うヴァリアン。

 伯爵家の権力をフル活用して、取り巻きの貴族たちにも指示を出して主人公を学園から追い出そうとする。


 しかし主人公は数々の嫌がらせを受けても決してめげず、仲間をどんどん増やしていく。

 そうしてしばらくすると嫌がらせを指示していたヴァリアンの悪事の数々がばれそうになり、ヴァリアンが一気にピンチになる。


 追い詰められたヴァリアン。

 彼は最終手段として魔族と契約して主人公を殺そうとする。

 しかし、彼は主人公と相対する前に契約した魔族に契約の穴を突かれ、あっさりと殺されてしまうのだ。


 それがこの俺。『ヴァリアン・クロヴルルム』の結末だ。


 つまり、このままいけば五年後。

 その時点で俺は殺されてしまう!!

 だが――



(そんな事はやっぱりどうでもいい!!)


 そう、俺の事なんてどうでもいい。

 チュートリアル時点で倒されるような『ヴァリアン・クロヴルルム(※俺の事です)』がどうなろうとどうでもいいのだ!!


 どのルートでも変化しないシナリオ。

 その中で俺が許容できないもの。

 それはラストだ。


 このゲームのラスト。

 主人公はラスボスである魔王であるイリィナ様を殺す。

 それはどのルートでも変わらない。


 そう。

 俺が前世で推しに推していた魔王様を主人公は最後に必ず殺しやがるのだ!!



「――――――ゼッタイニユルサン」



 美しく孤高で可憐なイリィナ様。

 そんな彼女が最後には無残に殺されてしまうなど、絶対にあってはならない未来だ。

 なんとしても阻止しなければならない。


「いや。むしろ俺はそのためにここに居るんじゃないのか?」



 ゲーム『ファイルダー・レゾナンス』。

 どんなルートを辿ってもイリィナ様が最後には絶対に死んでしまうクソシナリオ。


 だからこそ、俺はイリィナ様が救われるようなルートを無理やり生み出すべくこの世界に転生したのかもしれない。


 そう、つまりこれは使命!

 規定シナリオ通りにイリィナ様が非業の死を迎えてしまうなどあってはならない未来!

 ついでに、俺も規定シナリオだと死んでしまうみたいだし、その辺りも対策しておこう。


 その為にはどうするべきか――



「おいヴァリアン。先ほどから何を一人でぶつぶつ言っている。まだ稽古けいこは終わっていないぞ」


 うるさいな父上。

 こっちは今それどころじゃ………………待てよ?



 ゲーム『ファイルダー・レゾナンス』において。

 俺こと『ヴァリアン・クロヴルルム』は弱かったからこそ主人公に敗北した。


 確かゲームに入学試験の相手として出てくるヴァリアン・クロヴルルムのレベルは……5くらいだったか。

 つまり、ゲームの中でヴァリアン・クロヴルルムはまともにレベル上げしていなかったという事だ。


 イリィナ様をどんな方法で救うにしてもまずは力が必要。

 その為には――



「申し訳ありませんでした父上! 俺、これからは全力全開で稽古に打ち込みます!!」


「む? お、おぉ。そうか。なんだ。やけに素直だな」


「当然です! 俺は一刻も早く強くなりたいんです!」


 俺が強くなるためにやるべき事。

 たくさんあるけど、一つずつやっていこう。


 まずは稽古けいこだ。

 確かヴァリアン・クロヴルルムの父親であるソコツヨ・クロヴルルムはそこそこ強い部類のキャラ設定だったはず。

 彼の稽古をマンツーマンで受けられるのなら受けておいた方がいいだろう。



「それと父上。お願いがあるのですが」


「む? なんだ。言ってみろ」


「ありったけのポーション、それと金のロザリオが欲しいのです」


「ポーションは無論ある程度の貯蓄はあるが……金のロザリオだと?」



 ポーションはHP回復のアイテム。

 そして金のロザリオはどんな攻撃を受けても必ずHPが1残るアイテムだ。



「ダメ……でしょうか? 稽古はもちろん歓迎なのですが、それでは熟練度しか上がりません。なので稽古が終わり次第、俺は近くの適当なダンジョンにて魔物を狩ってレベル上げしたいのですが……」


 熟練度を上げるば上げるほど、その武器や魔術の威力や命中力に補正がかかる。

 だからこそ、熟練度上げは重要だ。


 しかし、それだけ上げても意味はない。

 やはり魔物を倒したりして俺自身のレベルを上げなければ。

 そう思っての提案だったのだが。



「な……ダンジョンで魔物を狩るだと!? 正気かヴァリアン!?」



 なんか驚かれてしまった。

 なぜだ?


「正気のつもりですけど……。だって、強くなるなら必要な事じゃないですか? 魔物を倒したら経験値が入って、その分だけレベルが上がって強くなれますよね?」



「いや、それはそうなのだが……。しかし、魔物との戦闘は危険だぞ? しかもダンジョンとなるとなおさらだ。さすがに私もダンジョンまでは付いていけんし。護衛もそれほどつけられん。お前はまだ十歳なのだし、そこまで急がなくとも……」



「何を言っているのですか父上! 今は一刻一秒を争う時! 俺は一秒でも早く強くなりたいのです! 危険など覚悟の上です! ――――――あ。それと、護衛は要らないです。ダンジョンには一人で軽く潜る予定ですから」


 護衛とか超要らない。

 単独ソロで魔物を狩った方が経験値が入るからね。


「本当にどうしたのだヴァリアン!? 先ほどまで稽古に乗り気でなかったお前に何があったというのだ!?」


 そうだったっけ?

 言われてみれば前世の記憶が蘇るまで『どうしてこの俺が泥臭い稽古など』なんて甘えたことを考えていた気がする。


 そんな俺がいきなり稽古に乗り気になるのは……確かに不自然だったかもしれない。

 何か言い訳を考えないと。


 そう思って俺は数秒だけ「うーん」と考えて。


「そんな事より父上。金のロザリオは買ってもらえないのですか?」



 俺はうまい言い訳が思いつかなかったので適当にごまかすことにした。


「そんな事!?」


 おっと。さすがにごまかせないか?

 いや。もうこの際だ。強引に流してしまえ。


「そう。そんな事はどうでもいいんです。俺が知りたいのは金のロザリオを買ってくれるのかどうかです。息子の可愛い頼みをどうか聞いてください父上!」



 さすがにソロでのダンジョン探索となると金のロザリオは欲しいからな。

 あれがあれば即死攻撃を受けてもHPが1残るし。

 危険なダンジョン探索において欠かせない一品だ。


 ゲームでは確か教会でのイベントで貰えたはずだが……。

 やはり主人公しか手に入れられない特殊アイテムなのか?

 なんて思っていたら。



「いや、買うのは別に構わんが……。だが、どうしてあんな物を欲しがるのだ? お前、前に縁起物えんぎものなど下らないと言っていたではないか」


「………………縁起物?」


 いったい何の話だ?

 そう俺が首をかしげていると父上も首をかしげて。


「あの身に着けた者がダンジョン探索から生還しやすくなると言われている金のロザリオが欲しいのだろう?」


「え?」


 なんだ、その効果は?

 金のロザリオはそんな曖昧あいまいな効果を持つアイテムじゃないぞ?

 いや、確かに身に着けていればダンジョン探索から生還しやすくはなるだろうけど。



「無論、金のロザリオにそのような便利な効果は認められていないがな。実際、金のロザリオをつけていても多くの冒険者パーティーがダンジョンで死んでいるし。だからこそ金のロザリオは縁起物として愛されている程度なのだが……。お前、あんなものが欲しいのか?」


 なるほど。

 いまのである程度察した。

 この世界の人たち……金のロザリオの効果を勘違いしてやがる!


 金のロザリオをつけていればどんな攻撃を受けても必ずHPが1残る。

 しかし、それは連続で攻撃を喰らわなければの話だ。

 それと、金のロザリオはパーティーメンバーで重複すると効果を失う。


 おそらく金のロザリオをつけていて死んだ冒険者とやらは連続で攻撃を喰らってしまったか。

 もしくはパーティー内の二人以上が金のロザリオを装備してしまっていたのか。

 そんなところだろう。


 だが、俺はきちんと金のロザリオの効果を正しく把握している。

 アレが超有用なアイテムであると知っているのだ。

 なので。



「超欲しいです!」



 俺は金のロザリオを猛烈に欲しがった。



「そ、そうか。ちなみに新品の方がいいのか? 確か倉庫にもほこりを被った物があったはずだが……」


「あ、それでいいですよ。壊れてない限りは効果は一緒ですし」



 なんだ。倉庫にあるのか。

 それなら買わなくてもいいな。

 という訳で。



「さぁ父上! 稽古の続きと行きましょう! よろしくお願いします!!」


「へ? あ、うむ」



 俺は快く稽古に付き合ってくれる父上に感謝しながら、稽古へと打ち込む。

 全ては強くなるため。


 魔王イリィナ様を悲劇から救うため、まずは強くなるのだ!!


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