アンチだけが増えていく

 近藤さんは配信があるとかで、オレの部屋に行った。

 一緒にきて、と言われたが、オレは断った。

 その理由は、「オレも配信があるから」だ。


 オレには知識や学はないが、仲間がいる。

 誰も見ていない配信だけど、馬島は見ている。


 玄関から出て、炎天下の中、ブロック塀を陰にして配信をスタートした。


「今日は、みんなに相談したいことがあるんだ。……いや、ちょっと待て」


 視聴者数がえげつない事になっていた。

 その数、600人。

 一瞬、夢かと思ったが、それだけの数字が出ているのだ。


「嘘だろ。やっとオレの魅力が分かったのか」


 長くやっていれば、どうなるか分からない。

 一体、何が原因でバズったのかは分からない。

 だが、これだけ多くの人が配信を見てくれているのは、紛れもない事実だ。


 にやけを押し殺し、オレは再び相談した。


「今日はみんなに相談……」

『おっせぇよ、ハゲ』

「お? なんだ? 喧嘩腰だなぁ。喧嘩か? ん?」


 もう様子がおかしかった。


『風見レンは、すけこましでーす』

『死ね! 死ね! 死ね!』

『早く面白い事やってみろよぉ?』


 か弱い少女がこんな仕打ちを受けたら、きっと傷つくだろう。

 生憎、オレはこの訳が分からない状況で、困惑しかない。

 なので、恐怖心は一切湧かなかった。


「お前らさ。マジか? え、600人いて、全員アンチなの? 計算おかしくねえか? どうなってんだよ!」


 プラスの部分がいない。

 どうして、マイナスの部分だけが増えていくのか理解できない。


『風見ぃ。喧嘩しようぜ』

「誰だよお前」

『誰でしょう? ヒントはぁ、お前にズボンをずり下げられた事かなぁ』

「お前、ほんっとバカだな! あいつしかいねえだろ! オレの前の席だろ⁉」


 前の席の男子は、始業式が始まったら公衆の面前で必ずフルチンの刑にさせる。オレは心に誓った。


『風見。お前、本当に配信なんかしてんのか。先生呆れたぞ』

「先生⁉ 何やってんスか⁉」

『俺はお前の先生じゃない』

「今さらプライバシー意識しても遅いっすよ! 言っちゃったもん!」


 オレは腕を組んで、チャットの流れを見守る。

 な~んか、どこかで見た事のあるヒントが連発で並んでいるのだ。

 そこで、オレはある仮説を口にする。


「これ、……全校生徒とか……ないっスよね?」


 今は少子化とか、そういう影響で昔より生徒数は少ない。

 スマホで自分の学校の事を調べ、生徒人数を調べてみる。


 大体、580人くらいだ。

 その内、20人が不明。

 たぶん、先生を入れると、元々視聴している人数に加えて、600はいくだろう。


 オレは、いつの間にか晒し者になっていた。

 全く嬉しくない。


『ここにいる全員。お前のこと許さねえから』

「オレ、許されざる大罪犯してないぜ? そこまでするか、普通?」

『いい声で鳴くじゃん?』

「鳴いてねえだろ」

『つか、相談ってなに? けなすから教えてよ』

「お前、誰だ? 教えてみろよ。今から、即行お前んち行くから」


 クソ。アンチってマジで面倒くせぇ。

 少女のように傷つくことはないけど、イライラが収まらねえ。

 しかも、質悪い事に、こいつら全校生徒の可能性すらある。


 少しでも、こいつらに期待したオレがバカだった。

 人の血が流れてると思い込んでいた。

 だが、実際はデビルだった。


『風見! いいから、言え! 困ったことがあるなら、先生だろ⁉』

「やり辛ぇなぁ……」


 何で夏休み中に説教っぽい空気を味わう羽目になるんだ。


「んじゃ、例えばですけどぉ。一人の女の子に家を占領されているとします。何なら、命まで狙われてる? みたいな?」

『そんな羨ましいシチュエーションあるわけないだろ!』

「っせぇな! 黙って聞けよ!」


 一人で叫んでいると、ブロック塀の角から、近所の人がこっちを覗き込んでいた。


「あ、どもっす」

「一人で叫んで何してんの?」

「いや、まあ、パソコンで遊んでたら、……白熱しちゃって」

「そう? みんな、ビックリしちゃうから、家の中に入った方がいいわよ?」

「あ、はい。すいませんでした」


 ペコペコと頭を下げると、近所のおばさんが離れていく。

 チャット蘭は、オレが怒られたことで大盛り上がり。

 正直、パソコンを地面に叩きつけてやりたいが、お金がないのでグッと堪える。


「で、話戻すけどさ。好きなテレビを見たいわけ。でも、その人がいると見れないわけ。さ、お前らなら、どうする?」


 超速で流れていくチャット蘭に目を走らせた。

 今までなかったチャットの動きに慣れず、目で追えない所がたくさんある。


 その中で、気になるコメントがチラホラ。


『縛り上げる』


 下手したら、DVとか言われて社会的に死ぬ。

 だが、相手が相手なので、アリかもしれない。


『友達の家で見る』


 オレは、……友達が馬島しかいない。

 馬島の家は、オレの家から遠いが、頼みの綱にはなりそうだ。


『尻を触って別れる』

「え? それ、アリなの?」


 オレは本気で考えた。

 確かに、いくら恋人(と、相手は思ってる)だとしても、いきなり尻を触られるのは、ドン引きするだろう。ゆくゆくは、別れを切り出される。


 喧嘩っぽくなるのは、本当は控えたい。

 でも、戦うと決めた以上、腹を括るしかないか。


「やるしか、……ないか」


 今回の戦いは、LIVEを見る事が出来れば勝ち。


 そのために、嫌われても勝ち。

 ただ、その場合、相手が持っている録音データを消す必要がある。

 となれば、拘束するしかないか。


 思い立ったが吉日。

 オレは準備のために、一度家の中に戻った。

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