アイドルを勉強。そして……

 馬島と電話しながら、オレは過去の全体ライブを見る。

 正直、超舐めていた。


 アイドルのコンサートは、テレビで見かけるような感じの光景が広がってるんだろうな、と。オレはそう思っていた。


 動画を見ると、とても大きな会場を借りている事が分かった。

 運営だけでなく、ライバーが自ら場繋ぎをしたり、インタビューをしたり、会場の中を見せてくれている。


『玄道カナデは、マジで異例だよ』

「例えば?」

『3D化がクッソ早すぎる』

「え? 人気出りゃそんなもんだろ」

『いやいや。今、同じくらい人気出ている同期の子とか、まだ3D化してないぞ。海外勢のライバーだって、3D化に一年……だったか。それぐらい掛かったんだ』

「つまり?」

『それだけ運営がガチで期待してるって事だろうな。歌姫だよ。歌姫』


 裏で話が進んでたのかな。

 そういや、土井はデビュー前から配信をやっていたって話だ。

 歌はすでにお披露目済みだし、歌唱力は動画で証明してるか。


 全体ライブは、今回で三回目。

 その前は、先駆者せんくしゃが一人。ゲーム部門で二人が頑張っていた感じ。

 ペンライトの波が上下する中、歌い、踊るライバーの姿を眺め、オレは自然と肩が左右に揺れた。


『スミノあおいって人が第一人者な。この人から始まったんだよ』

「へぇ」

『始め、ぞ?』

「ライブ?」

『いんや。……だよ』


 予想以上に重いワードが出てきて、ビックリしてしまった。


『おれ、リアルタイムで見てたけどさ。毎日のように死ねとか送られてくんだぜ? 今ほど、有名じゃなかったし。ぶっちゃけ影が薄いくらいだったんだよ』


 スミノあおい、と名前で検索をする。

 最近のネット記事では、『最高』とか、『かわいいっ』とか、好意的なコメントばかりだ。


 話を聞きながら、オレは少しでもアイドルについて知ってみようと調べてみる。


『まあ、えげつないくらいの中傷だったね。それでも、折れずにあおいちゃんが頑張ったから、今のアポカリプスがあるわけ。ていうか、アポカリプスっていう名前が売れたのも、その人のおかげよ』

「大先輩か」

『そ。Vが好きなら、知ってる話だよ。だいたい、アポカリプスに入るライバーだって、Vのことを大なり小なり知ってるだろ? そうすりゃ、今に至るまでの経緯が分かるってもんだよ。調べてみれば、当時の中傷だって出てくるんだし』


 馬島の話を聞いて、オレは土井の必死振りに納得がいってしまった。

 あいつ、この辺の事情知ってたのか。

 いや、知ってるよな。


 しかも、土井はアイドルが大好きなやつだ。

 あの土井が尊敬の念を抱いてるくらいだから、相当なものだろう。


『よく自殺しなかったよなぁ……』

「縁起でもない事言うなよ」


 言わんとしている事は、理解できるけれど。

 オレが考えているアイドル像とは違い、現代では過酷以上の辛さがあるわけだ。これに耐え抜いてきたからこそ、今の事務所があるってことだろう。


 ピンポン。


 考え事をしていると、インターフォンが鳴る。


「わり。また後で」

『あいよ』


 ブラウザを閉じて、腰を上げた。

 土井が出てから一時間は経つ。

 忘れ物で戻って来た、という可能性はないだろう。


 だとしたら、郵便か何かだ。


 そう思い、リビングを出て玄関に向かう。

 扉の鍵を外して開く。

 扉の向こうには、白い花があった。


「レ~ンくんっ」


 近藤さんだった。

 住所は教えていないはずだが、白い花束を持って、白いワンピースに身を包んだ彼女が笑顔で立っている。


 日光が身に着けた白を強調することで、眩しい笑顔がさらに輝いていた。


「近藤、さん。あれ? よく、知ってましたね」

「忘れたかもだけど。前に、ここ来たことあるから」

「あ、そうなんですか。へえ」


 首を傾げ、外に立たせてるのも難なので、中に入るよう促す。


「どうぞ」

「お邪魔します」


 いつもとは違う色香があった。

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